05 お祭り騒ぎ


『国王陛下の御膳であ〜る!!』


 掛け声と共に、軽快なドラムロールが流れ、ラッパたちの音が会場を盛り上げる。


 本日のサルディア学園には学園都市さながらの学識高い雰囲気はなく、生徒も教師も皆、羽目を外していた。

 首なし飴や首だけチョコといった屋台たちも出回っており、ガヤガヤとしていて、まさにお祭り騒ぎだ。


『本日司会進行をさせていただくのは、この僕、アーロ・ブラウンです!』


 ホラガイ型の魔導具に声を吹き込めば、会場に散りばめられた小さなホラガイたちから、その声が分散して聞こえるようになっている。


『マジホの方でも配信をさせてもらっているから、気になった子は是非、遊びに来てほしいな☆』


 いつもの宣伝を忘れないアーロは、地面からかなり離れたところにある、関係者席から生徒たちの座る観客席を見下ろしていた。


 関係者席の反対側には特別席が設けられていて、アーロのいる関係者席よりも上空に位置していた。

 そして何より豪華である。



『前フリはこのくらいにして……


 いよいよ始まりました!第一王子ニコラスと第二王子レオポルドによる、真剣勝負の決闘だぁ!!!


 いつもは政府に保管されている、僕たちの本当の頭……。その自前の頭を付けて戦うという行為は、本気であることの何よりの証明!


 だから決闘にはその神聖さに敬意を払って、自前の頭を付けた状態で行わなければならないんだ!』


 通常なら頭を攻撃されても痛いだけで、実際に怪我をするわけではない。しかし自前の頭をつけるということは、下手をすれば頭を怪我して学園に居られなくなったり、最悪の場合、死ぬ可能性だってある。



 『そんな真剣勝負の決闘を行う、王子たちが奪い合うものとは────?

 そう!外国から来た新入生!セーラ・リシュッド!!


 セーラ、今の気持ちを教えてくれるかい?』


『えぇ?えぇっと……自分でも何がなんだか…………』


『はい!「よくわからないけど、王子たちに奪い合われている」そうです!!』


 同じく関係者席に座るセーラにコメントを求めると、『ち、ちがっ……』という声がわずかに入った。

 これでは、下手すれば放送事故である。



『試合を見守るのは、学園の生徒たちと教師陣……そしてまさかの国王陛下と王妃殿下もこの場で見守ってくださるよ〜!!

 きゃ〜!国王陛下っ!バンザ~イ!!』


 まさかの国のトップの登場に会場が沸き立つ。

 その様子を、特別席から眺める高貴な者が二人。


「わっはっは!皆盛り上がっておるわい」


「あなた、羽目を外し過ぎてレオちゃんに叱られないようにね?」


 ニコラスと同じ、金髪碧眼の男性──ルドヴィルク・アル・コロンマ。

 薄い灰色の長い髪をした糸目がちな女性──ロベッタ・アル・コロンマ。


 彼らはこの国の国王と王妃であり、正真正銘、ニコラスとレオポルドと血の繋がった親子である。


 ルドヴィルクとロベッタはにこやかに、観客に手を振る。



『せっかくだから、国王陛下にも話を聞いてみようかな。

 陛下ー!今の心境をお聞かせくださーい!!』


『う「初めての兄弟喧嘩に、とても胸が高まっていまーす!!!」……』


 ルドヴィルクのホラガイ型の魔導具を奪って、ロベッタが叫んだ。

 その様子にルドヴィルクは顔を手で覆い、やりやがったとため息をつく。


『なんと!まさかの記念すべき初の兄弟喧嘩!?

 これはあつ〜い展開だ!』


 ルドヴィルクの肩を叩きながら、「ヴィルク、あの子わかってるわね!」とロベッタは大はしゃぎ。

 はしゃぐ姿はとても愛らしいが、こうなった妻は止められない……、とルドヴィルクは黙ってそれを受け入れる。



「父上はともかく、母上も来ていたんだね」


「ニコちゃん!それにレオちゃんも!」


 苦笑いをしながらニコラスとレオポルドが入ってきた。

 久しぶりに見る我が子の顔にロベッタは感極まり、二人をぎゅっと抱きしめる。


「母上、ここにはまだ父上と母上に幻想を抱いている若者が大勢いるんだから、夢を壊すような真似は控えてほしいな」


 自分たちは慣れてるならいいけど、というニコラスの言葉に「あら、それもそうね」とロベッタはそっと二人から離れた。城の者ならルドヴィルクとロベッタの奇行にも慣れているが、普段の王族然とした二人しか知らない国民は多い。


 やればちゃんと擬態できるのだから、王族としてこの場にいるのであればもう少し落ち着いてくれ。という気持ちでレオポルドはロベッタの顔をじっと見つめる。しかしまったく伝わっていないのか、ロベッタは何故かうきうきし出した。 


 ニコラスはそんなロベッタの様子に眉を少し下げると、ルドヴィルクの顔を見た。


「父上もそんなのりのりで来なくてもよかったのに」


 ルドヴィルクは話し方と歳のわりに見た目は若く、ロベッタはルドヴィルクに「君は出会ったころから変わらないな」と称されるほど心身共に若々しかった。


 そんな二人が自分たちの決闘を見に来るだなんて、まるで授業参観やお遊戯のようだとニコラスは苦笑いした。 


「いやしかし、これはどちらがアルマコロンの名を引き継ぐに値するのかを見極める、またとない機会であるからな。国王として、父親として、見ないわけにはいかぬだろうて」


 この国の王族は、国王と王妃にしか家名を名乗ることが許されていない。そのため、今のニコラスはただのニコラスで、レオポルドはただのレオポルドなのだ。実際にアルマコロンの名の一部を受け継ぐことが出来るのは、二人のうちどちらか一名のみ。


 この決闘は次期国王を見定めるための判断材料となる、想像以上に重要な催しであった。


「お待ち下さい!父上!!次期国王は兄上だと言ったではありませんか!!?」


 レオポルドの抗議の声に、ルドヴィルクは顎に手を置きながら答える。


「状況が変わったのだ。それにニコラスも納得しておるであろう」


「もちろんです。父上。……レオ、僕は君のほうが王に相応しいというのなら、喜んで君の配下につくよ」


「そんな……」


 味方がどこにもいない……とレオポルドが絶望していると、ロベッタの元気な声が背後から狙撃する。


「ニコちゃんもレオちゃんも頑張ってね!応援してるわあ!!」


「母上……流石に恥ずかしいからやめてほしい、かな」


 ニコラスの言葉にロベッタ以外の皆が頷いた。



◇◆◇


 鐘の音が鳴り、準備を終えたニコラスとレオポルドが決闘の舞台の上に降り立った。


 二人はゆっくりと中央に向かい、刀を構える。


 その光景を会場は食い入るように見守っている。


 緊張が走る中、二人以外・・の音が鳴った。



『おおっと!??ここで乱入者の登場かぁ!?』


 二人のいる決闘の舞台に降り立ったのは、黒髪の黄緑色の瞳をした顔のある・・・・男。

 つまりそれが意味するのは、覚悟を持ってこの場に降り立った乱入者であるということ。


 予定外の男の参入に、皆がざわめく。

 ニコラスとレオポルドは刀を下ろし、男の出方を伺うため静視していた。



 そんなざわめきなど気にもせず、男はアーロたちのいる関係者席に向かって堂々たる宣言を行う。



「セーラ、君を奪いに来た」






──その様子を観客席で見つめる一人の男子生徒がぼそりと呟いた。


「リリスちゃんってば、男装してオウジサマたちに決闘を挑むだなんて、大胆なことをするッスねぇ」


 「頭を偽装できないかと聞かれた時にはびっくりしたッスけど」と、男子生徒は愉快そうに口元を歪めた。


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