06 ひらめいた!


 ──すべての始まりは、メリルが王子たちの決闘を知らせた翌日にまで遡る。


「号外だ〜号外だ〜ニコラス王子とレオポルド王子が新入生のセーラを巡って決闘だって〜!!!」


 アーロのチラシを配る声が校内に響く。

 当然その話題性とアーロの人気により、人が密集していた。


(下手に騒いで本人たちや教師たちに何も言われないのかと思ったけれど、むしろ推奨されてやってるだなんて、おかしな話よね)


 流石に王族相手にそれはまずいんじゃ……と杞憂した生徒に、アーロは「大丈夫!むしろバンバン宣伝してくれってお墨付きをもらったから」と言って生徒が困惑していたのを思い出す。


(きっとニコラス王子とアメリア公女の考えなんだろうけど、どうしてレオポルド王子まで出てくるのかしら?…………もしかして、ほんとのほんとにセーラに惚れたとか?……まさかね)


 でも、乙女ゲームの世界だものね……とリリスティアはその可能性を否定できずにいた。


 アーロはひとしきり宣伝し終わると、「決闘は学園関係者なら誰でも見られるから、皆来てね〜!」と言って去って行った。



***


(決闘……決闘ねぇ…………)


 前回のように何もできないままでいるのは嫌だと、リリスティアは悶々とした想いを抱えていた。

 なにか、なにかないかと考えあぐねていたその時、ルカが女子生徒に囲まれているのを見つけた。


 プレゼントの山に、ルカは埋もれている。


「……貢がれてる?」


「よく見ろ、」


 「じゃあね〜ルカ、また明日〜」と女子生徒たちが去っていったため、ルカに近づく。

 苦しげに絞り出した言葉の通りによく観察してみるが、ラッピングされた箱や花といった贈り物がルカの両手からこぼれ落ちていた。


「…………やっぱり貢がれてるじゃない」


 ダンスパーティーに向けて、女の子たちが猛アタック中なのだろう。流石は次期ファッションモデル。

 既にこんなにファンがいるとは恐れ入る。


「貴方、また思わせぶりなことをしていたんでしょう?」


 以前もハンカチを落とした女の子に、スマートに渡していたのを見かけたし。と思いながら、ルカをジトぉとした眼差しで見つめる。


「…………べつにあれは、普通に行動しただけで」


 言いよどむルカには悪いが、その普通・・がおかしいのだ。ただ、「落ちてたよ」と渡すだけでいいのに、ルカは「おい、落としたぞ。…………へぇ、いいじゃん。本人に似てかわいい柄してるし、センスもいい」と恥ずかしげもなく言って立ち去るのだ。

 

 そんなことの積み重ねで、無自覚なルカの言動に転がされる者も少なくはないのだろう。このプレゼントの山を見ていればわかる。



「おっ、ルカ!すげェ人気だな。この間助けたオジョウサマに気に入られたか?おまえ、人をたらし込むのもいいけど、ほどほどにしとけよー!あ、これおまえに礼って、一年坊主から!」


 「じゃ、おれはちゃんと渡したからなー!」と言って男子生徒は去って行った。手元に残されたのはこれまたラッピングされたリボンのかかった小包。それをルカと、二人して眺めた。


「…………ですって」


 他の生徒からもそういう認識なのだ。無意識に男女問わず、魅了する危険な男。こんなのが世に放たれたらどうなるかわかったものではない。


(前世なら、街角インタビューとかに映って密かにファンができるタイプの人間ね)


 そしてそれが何度か続き、本当に芸能界デビューするという非常に稀なパターンだ。この設定でいくらでも現パロ二次創作ができるわ。とリリスティアは脳死状態でそんなことを考えていた。


 脳死ついでにリリスティアは、これが女の子だったら逆ハーレムになるのよね。という考えに至った。

 確かにこれだけの人数から言い寄られては下手に一人に絞り込むのは大変だ。


(誠実でいないと、いつか刺されそう……)


 恐ろしやハーレムに逆ハーレム。とリリスティアは頬を引きつらせる。そしてじっとルカの顔を見ていると急に靄が晴れたように思考がクリアになった。


(これだわ……!!)


 ついにひらめいた!と、「ありがとう!ルカ!貴方のおかげよ……!」と言って駆け出した。


 後ろの方から、「おい!助けろよ!!」という叫びが聞こえたが、ルカならすぐに助けてくれる人が現れるだろう。この素晴らしいひらめきを一刻も早くノートに書き留めねば……!とリリスティアは自室に向かう。


(セーラの邪魔をするには私が決闘で勝って、どちらにも渡さなければいいのよ!)


 逆ハーレムにさせない、のではなく自分で奪いに行きセーラをハーレムの一員にする、くらいの気概で望むべきなのだ。


(力を示してこちらに引き込む。とっても単純でわかりやすいわ!)


 そのためにも、男装をして力ずくで奪い取る。

 不明瞭だったリリスティアの今後の行動が、定まった瞬間であった。



◇◆◇



「え、今なんて…………?」


 今は、薬草と毒草を見分けるための仕分けをしている真っ定中。

 リリスティアのお願い・・・に、キアレスは作業を止め、間の抜けた声を出した。


「だーかーらっ!頭を偽装したいのよ。


 ほら、キアレスって情報通でしょう?そういった魔導具とかに心当たりがあるんじゃないかって思ったのよ」


 決闘には自分の頭がいる。

 しかしそれには政府に申請を出して、保管されている頭を一時的に返してもらうよう、手続きをしなければならない。そしてそうするには時間がかかるため、それでは決闘に間に合わない。


「……なにか危ないことでもするつもりッスか?」

 訝しげにキアレスが尋ねる。

「失礼しちゃうわ。ちょっと身分を偽るだけよ」

「十分危ないじゃないッスか」

 

 リリスティアとして決闘の場に立っても、セーラは1ミリも心は動かされないだろう。

 だからリリスティアとしてではなく、『セーラにマジ惚れして王子に決闘を挑むほどの恋に酔った男』として舞台の上に立たなければならない。


 顔をしかめるだけで何も言ってくれないキアレスに、リリスティアの不安が煽られる。


(も、もしかして頭の偽装は犯罪だったりするの……?確かに文面だけ見れば犯罪臭いけれど……そんな法律、あったかしら……)


 しかし言ったものは取り消せない。ここで"ない"と言われれば、リリスティアの計画はすべておじゃんとなる。


「……その、貴方しか頼れる人がいないのよ」


 ここで動かなかったら自分はきっと、一生後悔する。だからなりふり構っていられない、という想いだけでリリスティアはキアレスに頼み込んでいた。


(知り合いにそっち方面に明るい人はいないもの。あぁ、自分の人脈のなさが嫌になるわ)


 


「う、……ずるいッスよ」


 キアレスが少し苦しそうに声を絞り出した。

 リリスティアはそれに首を傾げる。


「はぁ……今回だけッスからね」

「いいの!?

 嬉しいわキアレス!ありがとう!」



 渋々といった様子ではあったが、心当たりはあるらしい。流石はキアレスね!と思いながら、承諾されたことに舞い上がった。


 そんなリリスティアを、なんだかなぁという気持ちでキアレスは見つめていた。


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