16 ヲイヌ
「な、なんの音すか!?」
背後から聞こえた爆破音に身構えると、こちらに向かって何か叫びながら走ってくる男女が4人。
その後ろを3mはある巨体がズシズシと追いかけていた。
「た、たすけてくれっ!!」
頭の水で大きく
おそらく不思議生物の調査中にドジを踏んで追いかけられる羽目になったのだろう。
「たいへんっす!た、たすけなきゃ……!!」
リリスティアはメリルと顔を合わせ頷く。
しかしその時には既に、アメリアが地面を踏み抜き、生徒たちの前に立っていた。
「わたくしたちが来たからにはもう大丈夫。あなたは後輩たちを連れて、すぐに避難を!」
男子生徒はアメリアの言葉に必死に頷くと、残りの3人を連れてそのまま走り去った。
「メリル、リリスティアは魔導具を構えて後方から援護を!キアレスとレムーアは距離を詰めて好きに動いて!わたくしが全体をサポートします!!」
アメリアの指示により各々が動き出す。
「レス兄ってば久しぶりで鈍ってるんじゃない?!」
「レムくんこそ、まあたサボって、お姉様方に叱られてるんじゃないッスか?!」
不思議生物目掛けて飛び出すと、レムーアは手のひらから衝撃波を出し、不思議生物をふらつかせた。
「やりぃ!」
その隙を狙って、キアレスがさらに追い打ちをかける。
すると、膝を蹴りぬかれた不思議生物の巨体が傾き始めた。
「あれ、地ヲ這ウモノ─ヲイヌ、ッスよね?どうしてこの国にいるんスか?」
「さあ、空が飛べるようになったんじゃない?ボクらみたいに、ねっ!」
ヲイヌからの攻撃を、空を飛んでいるかのようなジャンプ力で回避する。
しかし直ぐ様、ゴツゴツと岩のような姿をしたヲイヌから、石の
「レムくん!後ろ!!」
キアレスの言葉に後ろを振り向くも、時すでに遅し──、
カキンッ──!!
「お二人とも、怪我はありませんか?」
巨大化させた魔剣を振り下ろしたアメリアが、石の礫を払い除けた。
魔導具である魔剣は魔石ごとに耐久性の限度が設けられており、酷使すればするだけ魔剣のエネルギー源である魔石の寿命は縮まってしまうのだ。
「公女サマ──!!」
強い女こそ正義であるロマンチカの男であるレムーアでさえ見惚れる剣筋を見せたアメリアは、華麗に微笑む。
「寂しいじゃありませんか。アメリアと呼んでくださいまし」
頭の花から姉たちのような強者の匂いを漂わせるアメリアに、レムーアは上に立つ者の風格を感じた。
しかしヲイヌの攻撃の手は止まない。
レムーアが率先して囮となり、キアレスとアメリアが連携して確実にダメージを与えていく。
一方後方支援を任されたリリスティアとメリルは、学園から支給された魔導具のうち、後方から射撃するタイプのものを取り出し、前方にいる3人の邪魔にならない位置に配置していた。
魔導具はパカリと蓋が開き、地面に根を張っていく。
「リリス様!こっちは設置し終わりました!」
「こっちも準備完了よ……!」
カチカチカチカチ……と部品が回りだし、淡い桃色の光を放ちながら膨れ上がる。
それに気づいたアメリアが指示を飛ばす。
「魔導具が発動します。キアレス、レムーア!あなたたちは一時撤退して!」
キアレスとレムーアが射程範囲を外れたのを確認するとアメリアからゴーサインが出される。
それに合わせ、リリスティアとメリルは魔石の欠片を魔導具の中に放り込んだ。
光を放ち、ヲイヌ目掛けて閃紅のように射撃する。
ヲイヌの体はボロボロと崩れ落ち、振動としてリリスティア達の元に伝わった。
「やった、んすかね?」
「いいえ、まだよ」
腹が震えるような咆哮が辺りに轟く。
「ちょ、ちょっと待って……?なんか大きくなってない?」
「わーお。ずいぶんと大きく育ちましたねェ」
「言ってる場合?!早く仕留めるわよ!」
手遅れになる前に仕留めなくてはと、リリスティアはヲイヌ目掛けて剣を振るう。
「はぁああああっ!」
体が不完全だったのか、それとも今までのダメージが蓄積されていたのが功を奏したのか。
一直線に亀裂が入り、パカンっと真っ二つに割れて光の中に呑み込まれていく。
(やったのね……)
リリスティアは呼吸を落ち着かせ、地面に転がった石の仮面を拾い上げると、袋の中に放り込んだ。
「ひゅ〜、やるぅ」
「こ、これは……その、」
値踏みするようなレムーアの反応に、リリスティアはどう反応していいかわからず戸惑った。
そんなリリスティアを、メリルは尊敬の眼差しで見つめ、アメリアは考え込むようにじっと見つめている。
「あなたの戦い方……」
アメリアの視線に気づいたリリスティアは、まずい、と冷や汗をかく。
(リスティがリリスティアだとバレてしまうわ……!)
アメリアもあの決闘を見ていたはずだ。
だとすればバレる可能性だって十分にあり得る。
リリスティアは思わずぎゅっと目をつぶった。
しかしいつまで経っても危惧していた言葉は出てこない。
「その剣よりも、双剣の方が向いているんじゃないかしら」
その言葉にリリスティアはほっ、と胸を撫で下ろした。
「たしかにそれは言えてますねェ」
「あら、あなたも剣に詳しいの?」
「うちは両手剣ばかり扱う脳き……じゃなかった、筋肉質なやつばかりなんですよう」
「へぇ……それはぜひ見てみたいわね。わたくし、強い方の戦いを見るのが趣味なの」
アメリアの獲物を捕らえたような低い声に、キアレスとリリスティアがそっと身震いする。
レムーアはリリスティアを見て思いついたのか、「そうだ。良ければ今度プレゼントしよっか?」とリリスティアを覗き込む。
「そんな、剣なんて高価なもの……貰えないわ」
「いいからいいから。いいものを見せてくれたお礼だよ」
引いてくれないレムーアに、リリスティアが困っているとキアレスが割り込んできた。
「何考えてるンスか!?」
「えー、だって身を守る術は良いほうがいいでしょ?」
「それはそうッスけど……」
言葉を濁すキアレスにレムーアは、
「ボクが贈るのが嫌なら兄さんから贈ればいいのに」
と、ぼそりと呟く。
「それは…………ってレムくん?その手には乗らないッスよ?」
「ちぇ」、と残念そうに口を尖らせるレムーアに、いけないいけない、とキアレスは頭を振って冷静さを取り戻そうとしていた。
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