プロローグ2
『初めまして人の子らよ。私は女神です』
何もない真っ白な空間でリリスティアの前の人格である女性は女神と話をしていた。曰く、頼みがあるとのことで、リリスティアは一応選ばれし者に当たるらしい。女神の頼み。つまりは命令だ。
『ヒロインの野望を阻止しなさい』
『もしくはヒロインになって己が野望を果たしなさい』
思考が止まる。理解ができず女神を見たが、女神は至って真剣な顔をしていた。理解できない自分がおかしいのだろうか?この先の話を聞いても理解できなかったらどうしよう……。などと思考が止まったわりに余計なことは考えていた。
(どういうこと?ヒロイン?私が?なるの?ヒロインに?)
『女神は乙女ゲームが大好きです』
(ああちょっと待って……!!)
混乱するも女神は待ってはくれない。光悦とした表情で、女神は嬉々として語りだした。
『乙女ゲームを愛してやまない女神は、ある時ふと思ったのです。二つのエンディングがある乙女ゲームで二人のプレイヤーが同時にプレイすれば、どちらのエンディングを迎えるのか、と』
女神は知的好奇心を満たすためだけに、ゲームと同じ世界を創造した。つまりは大がかりでスケールがおかしい、熱狂的ファンによる二次創作である。
『そこで偶然同じ日時で産まれ、偶然同じ乙女ゲームの共通ルートだけをクリアして、偶然同じ日時で死んでしまった二人を用意しました!!』
(用意って……ようするに実験体ってことじゃない……)
まるでモルモットかなにかだ。相手が女神とはいえ、あまりいい気はしない。
『でもそれだけじゃあ面白くないので、モブとヒロインに別れてもらうことにしました!……さあ!どちらがいいですか?』
女神は「モブ」と書かれた札と「ヒロイン」と書かれた札を掲げた。どちらにするか悩ましいが、ゲームによってはいきなりハードモードなヒロインもいるため、一概にヒロインがいいとは言えない。
(……というかそもそも何のゲームなの?)
肝心の説明をしていないことに女神は気づいているのだろうか。むしろ隠していてこの現状を誰よりも楽しんでいる風にも受け取れる。
『ちなみにこの質問はリアルタイムで二人同時に聞いています』
(え、え……?)
『はい、0.00000014秒差で速く答えたあちらがヒロインです』
思考するよりも早く札に触っていたが、それでは間に合わなかったようだ。女神がこちらに手を伸ばし、額に触れた。すると眩い光に包まれる。
『あちらのプレイヤーにヒロインの能力である真実の眼は必要ないと言われました。……なので、平等性の観点からヒロインの力を半分ずつ分け与えます』
女神の言葉に、これじゃ真実の眼じゃなくて、真実かもしれない眼じゃない……。と呆れていたが、聞き覚えのある単語の正体を思い出すことのほうが先だ、と頭を回した。しかし、冷静ではない頭ではそれらしいものは見つからない。
『それではそろそろお別れの時間です。………………女神は一刻も早くゲームの続きをやらなければならないので……!!』
女神は憂いに満ちた表情でひかえめに手を振った。
少しずつ視界にもやがかかり聴覚も鈍くなっていく。
『一応言っておきますけど、滅多なことじゃあバッドエンドにはならないので安心してプレイしてください!それではグッナイ〜☆』
(女神様……知ってるとは思うけど、そういうのをフラグって言うのよ……)
遠ざかる意識の中でそう思ったはいいものの、女神相手に通じたかはわからない。
『あ、言いそびれてましたが、女神との会話は二人が対面するまで封じておきますね。スタート地点は公平にしないと勝負になりませんから……!』
勝負の土俵が整うまでにチート技を使われて勝負が終わってしまうのではたまったものではない。女神的にそれは趣味ではなかったのだ。
『それから、二人が出会った時にわかるように印をつけておきます。女神お手性の魔法陣ですよ〜?とても貴重じゃあないですか……!良かったですねぇ!』
二人の身近な人間がトリガーとなるように世界に少し細工をする。別れのキスなんてどうだろう?とてもロマンチックで乙女ゲームの始まりとしてこれ以上ない素晴らしい提案だと女神は満足げに頷いた。
『ついでに祝福の効果もかけてっと…………ってもう聞こえていないですね』
大好きな乙女ゲームという最高の舞台で目を覚ました二人の少女の姿を見て、女神は今日のために悩みに悩んで決めたワインの栓を開けた。このゲームの制作に関わった全ての人間に敬意をはらって、女神は駄女神の如く人間のように菓子を袋から取り出し、そして貪った。
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