07 例外
メリルと別れ、教室につくと空いている席に座る。
サルディア学園は四年制で、年齢もバラバラだ。受験資格は顔ありなら12歳から20歳。しかし基本的に試験を受けるのは15歳から18歳だ。顔なしが合格することはよっぽどのことがない限りない。
そのため学園にいる生徒のほとんどが15歳から22歳である。
しかし例外は存在する。
「リリスティア、おじさんがこんな若者の中に混ざって浮いていないかな?」
ジル・ブライド。確かに生徒の年齢から見ればおじさんだが、彼はまだ20代後半だ。
「自分で自分をおじさんだと言ったらもう終わりよ。顔なんてわからないんだから、言わなきゃわからないわ」
「それもそうか……うん。ちょっと自信ついた」
ジルは頭のインクを黒から千草色へと変えると、コンコンと頭を鳴らした。
「でもまさか昔に会ったブライド家の人間がこんなにもしおらしくなっているだなんて、声をかけられた時は気づかなかったわ」
(しかも同学年だなんて、驚いたどころの騒ぎじゃないわよ)
ゲームの攻略対象でもあるジルのことをリリスティアは知っていたが、ジルの過去のなど知らなかったため、結びつかなかったのだ。しかも共通ルートでそこまで目立った活躍をしていなかったこともあり、ジルに対してはゲームのキャラという認識は薄い。
「どうして学園に?」
「僕も大人になったんだ」
「ええ。それはわかっているわ」
むしろ今は子どもたちの中に紛れているけれど。とは言わないでおく。
「父が亡くなってね。父は死ぬまでずっと、僕にサルディア学園に行くように言っていたんだ」
「お父上が……そう、ならここへはお父上の祈願を果たすために?」
「それもあるけど……僕はどうして父がこの学園にこだわるのかを知りたくてここまで来たんだ」
ジルの父──ドル・ブライドとリリスティアの父──モーゼス・クロードは仲が良く、リリスティア自身もブライド家で開かれるパーティにも何度か参加したことがあった。その時見かけたジルは今とは違い荒々しく、父親との折り合いも悪かった。
(お父様ったら、ジルを見て『昔のドルにそっくりだ』って言っていたわね)
「まあ、中々上手くいかず何度も落ちちゃって気づいたらこの歳になったんだけどね」
あはは……とジルの乾いた笑いが溢れる。
「ということは未だに成人していないお兄さんってことかしら」
「リリスティア、それは言わない約束だろう?」
「ふふ、ごめんなさい。……でも成人していないと色々と制限がかかって不便でしょう?顔なしになることは考えなかったの?」
いくら死んだ父親の祈願だからとはいえ、そう何度も落ちていたのでは心が折れてしまう。顔なしの貴族だって大勢いるのだから、顔なしとなり正式に成人してから家督を継ぐことも十分親孝行になっただろう。
「それでもね、諦められないんだよ」
頭のインクは激しい意志を持ち、ぼこぼこと音を立てた。その色は情熱的な赤色だ。
たったの一言ですべてがわかってしまった。
いい年して成人していない、顔なしでも顔ありでもない宙ぶらりんな状況にいながら、ジルの心は強い決意に満ちている。
「そう、なら私も負けないわ」
ヒロインだけじゃあない。学園を無事に卒業することが目標のリリスティアにとって、ジルもまた等しくライバルの一人である。
(そういえば、自分のことをおじさんと言うわりに、ゲームでは口元にピアスを開けていたような……?)
顔も若かったせいで、おじさんネタもヒロインには通じず冗談だと思われていた。おじさんを自称するならもう少しおじさんらしくしてほしいものだ。
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