22 疑問


(なんなのこの状況は……)


 セーラとリリスティア、二人並んで歩く姿はなんとも異様で、無言の時間が続いた。


(なんだかメリルが恋しいわ……)


 流石に歩き疲れてきたのか思考が鈍くなっていく。

 今すぐ落ち着く自室でメリルとお茶会でもしたい。最近調査だなんだと忙しくしていたため、お茶会どころかろくな会話もできていなかったのだ。リリスティアのメリル切れがいよいよ深刻化していた。


(それにしても綺麗な髪ね)


 セーラは少し長めの髪を後ろで団子のようにまとめていた。しかもただ結んでいるだけではなく、おしゃれな方の団子だ。いくらゲームでそういう髪型だったからといって、見様見真似で簡単にできるものなのだろうか。


 リリスティアが話しかけようか迷っていると上から光が差し込み、久しぶりの強い光に目がくらんだ。


「やっぱり思った通りね」


 セーラは立ち止まらずそのまま進んでいく。


「女神ったら、いらないって言ったのに真実の眼の力を半分だけわたしに寄越したの。どうせあなたも持っているんでしょう?」


 振り返りもしないで前を向いたまま、セーラは話し出した。


「ええ、確かに持っているわ。同じく半分だけね」


 何を持ってして半分なのかは女神しか知らないことだが、ゲームではほぼ常に異形頭の姿が人間に見えていたということもあり、その効果時間が半分であることだろうとリリスティアは予想していた。

 

 しかし実際に時間が半々というわけではないようなので、真実は不明である。


「……ねぇ、前から気になっていたのだけれど、どうして要らないなんて言ったの?これがないと攻略できないでしょう?」


 ヒロインの力なんて超重要スキルである。それをいらないだなんてヒロインになる意味も薄まるというもの。


「…………あなたには関係ないでしょ」


 素っ気ない返事が帰ってきた。

 どうやらまだ心を開いてくれた訳では無いようだ。


「……まあ、貰ったのが半分でよかったんだけど」


 セーラはぼそっとそう呟いた。


(どういう意味かしら?)

 しかし聞いても教えてくれないだろうと、リリスティアは口をつぐんだ。



***


「……どうして女神がヒロインの力をわたしたちに分け与えたと思う?」


 話を戻すようにセーラはそう尋ねた。


「その力がないと、物語が進まないから……かしら」

「そうね、それもあるわ。だけどそれなら半分ずつじゃなくて、ヒロインと同じだけあなたにも与えればいいだけの話」

「……確かにそれは私も疑問に思っていたわ」


 リリスティアとセーラをこの世界に転生させた女神とはその後一切音沙汰はない。転生させるだけさせといて放置タイプかとも思ったのだが、口ぶりからして二人の様子を面白おかしく観賞しているのだろう。


 セーラも同じく思うところがあるのか、「女神がわざわざ半分に分けたのは決着が早くつかないようにするのと、展開を面白くするためでしょうね。それくらいのハンデがなかったら、わたしの圧勝だろうし」とげんなりした顔で言った。


「女神様に対して当たりが強いのね」


「女神は嫌いよ。当然でしょ?だってイケカネを全ルートクリアしてるんだもの」


「ぶれないわね……」


 セーラの「まあ、この世界を創り出してわたしを転生させた点についてだけは感謝しなくもないけど」という言葉に、もしかしてツンデレ……?という文字が脳裏によぎった。




 上から差す光がついに目を開けられないほどにまで強まる。

 

 光にのまれ、目を開けると、そこには巨大な門があった。


「ようやく着いたみたいね」


 塔に不釣り合いであるほど巨大であるはずの門は、不思議と圧迫されておらず適正サイズであった。しかしその大きさは首を真上に向けなければならないほどに巨大で、目に見えて威圧感を感じる。


 セーラがきょろきょろと辺りを見回す。


「……いた」


 白い髪に褐色の肌、右目の下には長い傷の跡。


 こちらを見つめる、普段は落ち着いた濃い水色の瞳が、これでもかというほどに開かれていた。


(……思い出した)


──グレイソン・レル。彼はこの場所の門番だ。


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