他の神社へ行きますからね
埼玉県、恋愛成就、神社。
で、キーワード検索をしたところ、怜人は条件に合う神社を川越市で見つけた。
川越氷川神社と川越八幡宮である。
縁結びと良縁に強く、二つとも川越市内にあるので都合がいい。川越氷川神社は川越駅から大分距離があるものの、バスなどを利用すれば問題ないと怜人は判断した。
しかも、北本駅から川越駅は電車の乗り換えをしなければならないものの、片道四十分くらいなのでそれほど時間を要さない。
「よし。明日、川越に行こう」
携帯電話をテーブルに置き、怜人は言葉に出して決めた。
「……川越? なぜじゃ?」
央香が怪訝な表情を浮かべた。
「縁結びに期待できそうな神社が二つもあるから行こうかなと。帰りに……」
「おいまさか……川越氷川神社や川越八幡宮のことか?」
怜人が喋っている途中、央香が目を見開き割って入ってきた。
「あれ? 知ってんの? そっか、央香も一応埼玉県内にある神社の神様だもんね」
央香に聞けば良かったかなと思ったが、その央香はというと顔をこわばらせていた。
「あそこは凄く位が高い神がおるから嫌じゃ! 行きたくない!」
と言って央香が首をブンブンと振るが、
「位が高いって言うんだから、ご利益がありそうだね。やっぱり行こう」
怜人はその所作でご利益があると確信した。
「嫌じゃ! わしがおるんじゃから他の神社には行かなくてもよかろ! それに、わしは電車に乗ると酔うから遠出はしたくない」
央香は露骨に気分が悪そうな仕草をした。
「北本駅から大宮駅までの間、車窓から見える景色にキャッキャッと喜んでいた奴は誰だったんだ?」
怜人が聞くと、央香の表情がたちまち戻る。
「記憶にございません」
腰を浮かせテーブルに両手をつくと、央香は毅然として述べた。
「政治家みたいな受け答えをしやがって。いいよ別に、俺一人で行くから。家で待ってな」
連れて行くことを諦めて怜人は頭をかいていたが、
「わしを一人にする気か! この人でなし! 甲斐性なし! ムッツリスケベ!」
央香に駄々をこねられながら罵倒された。
「お前は何なんだよ! どうしたいわけ?」
ダブルバインドであり、怜人は当惑した。
「怜人には、このわし! 快央神社がついておるじゃろ! 他の神社など行く必要はない!」
央香はそう言い張ってきた。
繰り返すが、怜人は幼い頃から快央神社信仰者であり、央香の言い分も理解できたが、
「快央神社は病気平癒にご利益がある神社で、恋愛については最近始めたんだろ? しかも担当しているのは央香だけ……央理様が恋愛成就も対応してくれるのか?」
央香だけでは絶対に納得できなかった。
「……母様に恋愛のことは頼めぬ」
「じゃあダメ」
怜人はあっさりと答えた。
「ふん! 電車には乗らぬからな! そして置いてもいくな! 後はわかるな?」
央香はそう言い切ると、なぜか偉そうに腕組みをした。
物凄いパワープレイである。
仕方がないので川越に行くのは諦め、怜人は改めて携帯電話で神社を探すことにした。
すると数分後、怜人の眉間がピクッと動く。
鴻神社。
こちらも縁結びにご利益があると有名な神社らしく、評判も高い。
場所は鴻巣市で、怜人が住んでいる北本市の隣にある市である。
家から自転車で行けそうな距離なので、電車に乗る必要はなく央香の条件にも合う神社だ。
「鴻神社も良さそうなので、そこにしようかな。自転車で行ける距離だし、電車に乗らないからいいだろ?」
怜人は携帯画面に映っている鴻神社を見つつ、央香に聞いた。
「げぇ! 鴻神社じゃと? 最寄りで一番位が高い神がおるところではないか!」
央香があからさまに嫌そうな顔をした。
「あ、そうなんだ。期待できそうだな」
またもや央香の態度で確信する怜人であった。
「怜人よ。実はわし、自転車に乗るのも酔うんじゃ」
央香が吐きそうな振りをして言ってきたが、怜人は険しい目つきになる。
「俺が自転車を漕いでいる時、後ろの席で『もっと飛ばせ! 飛ばさんか!』っていつも言ってる奴は誰だっけな? あと、自転車を乗っている時に胸を触ってくるから困っているって、沙織ちゃんからクレームがきている。一体、誰のことなんだろうね?」
怜人にそう言われ、央香の表情が曇り始める。
央香は咳払いをすると、
「全く、私の記憶にございません」
先程の似非政治家答弁ポーズで切り返してきた。
怜人はジト目になり、最終手段の操玉を取り出して央香に向ける。
「明日、鴻神社へ行きます。央香様、よろしいですね?」
「へい! 親分! 喜んでお供をさせていただきやす!」
央香は瞬時に媚びへつらってきた。
やはりこの神様では恋愛成就を期待できそうもない。
怜人は鼻で笑い、湯飲みに残っていたお茶を全部飲んだ。
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