第一部 第一章

暴君(神)降臨


 央香。


 最近、正式名をスーパーゴッド央香神と自称している。


 名前なのにゴッドと神がついており、神を二回名乗っていることに本人は気付いていない。しかも、何で日本の神なのに英語なのか……。


 それは追々説明するとして、ひとまずはこう言おう。


 アホだからである。


 ただ、央香が快央神社の神様であることに間違いはない。


 快央神社には十を超える神様が存在するらしいが、その長で快央神社の始祖が央香の母とのこと。央香の言葉が嘘でなければ、正統な後継者で二番目に偉いという。


 怜人はスマートフォン向けのゲームアプリを普段からやっているのだが、それで例

えると始祖の母がURで央香はSSRと言っていた。


 ……こいつのどこがSSRなんだ。


 こちらも追々説明するとして、怜人にしか見えなかった発光現象の理由が判明した。


 本来快央神社は病気平癒にご利益がある神社とのことで、そういう意味では図らずも怜人の祈願が成功していたわけだが、後継者の央香が恋愛成就にも近年手を出し始めた。


 そして初恋をした怜人は、日課である儀式で無意識に恋愛成就も願っており、そのことで賽銭箱にお金を入れると央香が反応して光ったというわけである。


 なお、発光は【神気】という神の力から発せられるもので、神様の存在を信じていないと見えないと央香が言った。


 したがって、電子機器には当然映らず、神様の存在を信じていなかったであろう駿太や沙織には見えなかったというわけである。快央神社の神主である的場にも見えなかったことに関しては、まぁ……触れないでおこう。


 そもそもの疑問、怜人が恋をする以前から快央神社に神様はいたはずで、賽銭箱にお金を入れても光りはしなかった。


 なのになぜ、恋をしてから光り始めたのか……についてだが、これは恋愛成就を央香主導で決めたらしく、より多くお金が欲しかったからとのこと。


 要するに、お金目当てで央香が発光(合図)をしていたのである。


『何より金が好きなんじゃ』

 その言葉に偽りはなかった。


 続いて何で突如央香が現れたのかについてだが、これは長年怜人が信心深く快央神社に通い詰めていたことが起因しており、祈願日数や賽銭箱に入れた金額、その神社の主神である央香の母が怜人を気に入っていたことで、神様降臨の条件が満たされたと央香は述べた。


 更に、病気平癒ならまだしも、恋愛成就をさせるには下界(地上)に降りた方がやりやすいと、央香の母が神様降臨の儀を決めたらしい。


 こうして怜人の願いを叶えるため、神様降臨の儀で現れた央香は、まず神気を使い大崎家には従妹としてやってきたことにした。


 その効果はあったようで、母が戻ってきた時は央香を従妹と認識しており、父や姉と電話した際にも同様で、何ら違和感のない様子であった。


 ただしこれが大崎家に効いたのは、怜人が快央神社に神様がいることを信じており、父や母などが恩恵にあずかったからだという。


 事実、駿太や沙織は央香が怜人の従妹だと最初は認識しておらず、怜人が説明しなければならなかった。


 度々触れているが、央香が使う神の力こと【神気】。


 神界にある気で、位の高い神は意のままに使えるらしい。


 神気量は神によって異なる上、信仰してもらわないと増量しないようで、日本三大神社と呼ばれている伊勢神宮、熱田神宮、明治神宮と比べて快央神社は零細も零細なので、そもそもの神気量が少ないとのこと。


 また、下界だと神気が弱まり使える量が限られるらしく、従妹として大崎家へ来ただけで央香の神気は空っぽになった。


 その結果、見た目二十歳前後の容姿抜群だった央香は、五、六歳児くらいのちんちくりんになってしまった。


 毎日怜人が快央神社に参拝していることで央香の神気が回復し、日に八十分ほどは元の姿に戻れるが、だからといって大した役には立っていないのが現状である。


 前置きが長くなってしまったが、央香がやってきてから三週間近くが経過した現在、怜人は山中有希子との恋が成就することはなく、仲が進展することもなかった。


 というより、ただひたすらに怜人の状況が悪化していた。


 央香は食べ物の好き嫌いが多く、わがままで自己中心的な性格、意味不明な理由でお金を要求してくるし、基本的に人間自体を見下している。


 それなのに、神様の割りにはおつむが弱く、事が起きる度に怜人と口論しては負けるわけなのだが、その腹いせで勝手に生活費を使ったり、怜人がプレイしているゲームアプリを別のタブレットPCで始めては、勝手に課金する始末。


 その暴君振りにずっと我慢していた怜人だったが、央香が来てから二十二日経った日、遂に限界を迎えることになる。


 発端は、朝方に来た母からの連絡だった。


 一昨日戻ってきた母は、掃除や料理の作り置きを済ませてから父のところに行ったが、その際に怜人の小遣いや央香分の生活費をプラスしてお金を補充したという。しかも、それを怜人にではなく、央香に伝え渡しておいたと言ってきたのだ。


 猛烈に嫌な予感がした。


 怜人は主にお年玉の貯金用として銀行口座を持っているが、普段の生活費や小遣いは母から手渡しでもらっていた。


 どうしてもお金が必要で母がこっちにいない場合のみ、銀行口座に入れてもらうことがあったが、怜人としても手間になるため手渡しで済むように生活費を計算していた。


 自分一人であればこれで良かったが、残念ながら央香がいる。


 手元に現金があったことで、央香に全て使われるはめとなってしまった。


 鍵をかけておいた引き出しも、いつの間にか開けられ使われていた。


 央香はアホだが、お金への嗅覚と執着は凄まじい。


 今は必要最低限のお金だけ肌身離さず持つようにしており、残りの生活費は銀行口座に入れている。もっと早く行動すべきだったと、怜人は深く後悔していたのだ。

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