プロローグ 央香登場④
「計、十万円もの奉納金、大儀であった。それにしても、わしを出すとは……運の良い奴じゃのう」
美女は背中を丸め、怜人を見下ろし含み笑いをした。
……誰?
……俺が出したの?
……今、十万円がどうこうとかいってたよな。十万に達したから出てきたのか?
……ていうか……どういうこと?
美女に見つめられている中、怜人は完全なパニックとなっていたが、とりあえず最初に言っておくべきことがあった。
「あの……パンツが見えてますよ」
怜人は恥ずかしそうに言い、顔を背けた。
美女は賽銭箱の上に立っているので、顔を上げた怜人からはガッツリ白色のパンツが見えていたのである。
「ふんっ」
美女は大袈裟に鼻を鳴らすと、賽銭箱の上から怜人の横に着地した。
怜人が目を向けると、美女は前を向いたまま軽く息を吐く。怜人は身長百六十五センチだが、美女は怜人と大体同じくらいの身長だった。
美女が怜人に顔を向け再び視線が合うと、厭らしい笑みを浮かべた。
「覗き代とシコシコ代を合わせて、一万円じゃな」
美女はそう言った。
……は?
この人、いきなり何を言い出すんだ?
そもそも、覗きたくて覗いたわけじゃないし、不可抗力で覗いてしまったわけで料金を支払ういわれはない。
しかも……。
「シコシコ代って何ですか?」
と渋い顔になる怜人であった。
「わしの下着姿をオカズにシコシコするじゃろ? その代金、五千円」
そう平然と言い放つ美女に対し、怜人は絶句した。
とてつもない容姿をしているのにめちゃくちゃ下品……何だこいつ?
硬直している怜人であったが、美女が満足そうに口角を上げる様を見て我に返った。
「そんなことするわけないでしょ。あなた、何なんですか?」
怜人が反論すると、美女は真顔になり近寄ってきた。
そして、美女は怜人の股間を触ってきた。あまりに突然な出来事だったので怜人は固まり、額からは変な汗が滲んだ。
怜人は美女の手を振り払い、
「ちょっ……ちょっと! え? は?」
困惑した表情を向けた。
「下着姿だけじゃ刺激が弱かったか……」
美女は舌打ちをした。
「あなた……何なんですか? ていうか誰ですか?」
「何なの、誰とは失敬な奴じゃな。お前がわしを出したんじゃろうが」
怜人の質問に、美女は眉間にしわを寄せた。
俺が出した?
やっぱり、さっき言ってた十万円と関係があるのか?
怜人が状況を整理していると、美女はフッと笑った。
「わしはこの快央神社で祭られている神の一人……
美女改め、央香は言ってからふんぞり返った。
「神様? あなた……じゃなくて、央香さんって神様なんですか? さっき奉納金が十万円に達したと言ってましたが、だから出てきてくれたんですか?」
「そうじゃ。賽銭箱が光り始めた頃があったであろう。それから十万円を達したの出てきてやったのじゃ。あと、央香さんではない。央香様と呼ばんか……人間如きが」
央香の態度は更に悪化していった。
神様とのたまう奴がいきなり現れた。
普通ならここでパニックになるか、そもそも央香の言葉は真に受けないだろう。しかしながら、怜人は快央神社に神様がいると信じ込んでいた。だから、意外にも央香が神様だと言ったこと自体は飲み込めた。
「あのう、央香……様は何しに来たんですか?」
怜人がお伺いを立てると、しかめっ面だった央香の口元が緩んだ。
「お前……恋をしているじゃろ? だから来た」
央香は自信に満ちた表情で言った。
恋?
あ……山中有希子のことか?
怜人は勘付き、
「俺の恋が叶うんですか?」
と央香へ聞いた。
「そのためにわしが来た……というかお前に出された」
央香は不服そうな顔で言った。
何で出てきてくれたんだろうと怜人はふと疑問を感じたが、この時初恋が叶うという期待に頭がいっており、正常な思考状態ではなかった。
「本当に、叶うんですよね? 神様だから大丈夫ですよね?」
「安心しろ。わしはこの快央神社の始祖、母様の娘ぞ! 正統で高貴な神じゃ!」
央香がドヤ顔で言い返してきた。
うおおおおお!
怜人は内心ガッツポーズをし、顔がほころぶ。
「じゃ、お前の家に行くか。朝飯をまだ食っておらんので、腹が減っていてのう。馳走を用意しろよ。わしはトマトと甘い物が好物じゃ」
「あ……はい」
央香がスタスタと歩き始め、怜人は慌てて後を追った。
「……あ」
央香は何かを思い出したのか急に立ち止まり、
「シコシコ代はなしにするとしても、覗き代として五千円はもらうからな」
振り返るとニタァと笑った。
「不可抗力だったんですけど……」
怜人が戸惑いの表情で訴えるものの、
「馬鹿者! 人間が神であるわしの下着姿を見たんじゃぞ! 五千円で済んで良かったと感謝せんか!」
央香は怜人をキッと睨み付けてきた。
まともな判断力を持ち合わせていたら横暴と感じるであろうが、この時の怜人は神様が降臨してくれたことや恋が成就するという思い、喜びの方が勝っており素直に頷いた。
「びた一文まけんぞ。わし、何より金が一番好きなんじゃ」
央香はそう言うと、また不敵な笑みを浮かべた。
その所作に、ようやく怜人は央香の異常性に気付き始める。
容姿は息をのむほど美しいが、現れてから下品な言葉や態度、金に汚いところしか見ていない。何というか、物凄く俗物っぽかった。
……この神様……大丈夫なんだろうか?
浮かれていた中、一抹の不安を覚える怜人。
とにかくも、この日から快央神社の神様?
央香が大崎家へとやってきた。
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