はぁ……現状維持
怜人にしか使えない仕様にしたとのことだが、物理的に央香が触れないようにしてくれたらしい。大変ありがたく、央理の心遣いが痛み入る怜人であった。
「央理様がそういう仕様にしてくれたんだよ」
「何で怜人なんぞにこんな物を! 母様のバカ! 裏切り者!」
「バカはお前だよ。このオバ香!」
頬を膨らませ地団太を踏む央香に対し、怜人は半目で睨み操玉を握る。
「あひゃひゃ! あーははははは! うう! あぅ! もう許してくれい! 笑い死ぬ!」
床の上で身体を回転させながら笑いまくっている央香を見て、
「散々理不尽なことに耐えてきたから、報われるようで胸がスーッとするわぁ。これ最高!」
と、怜人は心の底からほっこりとした。
「はぁはぁ……怜人……わしをイジメて楽しいのか?」
央香が恨めしそうな目をして聞いてきたが、
「楽しい」
怜人は即答だった。
「最低な奴じゃな!」
「最低なのは、人のお金を勝手に使ったどこの誰だろうね?」
怜人がスッと操玉を向けると、央香はすぐさまジャンピング土下座をする。
「あ……あっしでございやす! 勘弁してくだせぇ! いやぁ、怜人の旦那は今日も男前ですな! よっ日本一!」
そう、両手を揉みながら媚びへつらう央香。その様が非常に手慣れたように感じ、神界でもこうやっていたんだろうなと怜人は少し悲しくなった。
「気色悪いからやめろ。好きなように生きるって大見得を切った癖に、神様としてのプライドはどこにいったのやら……」
怜人は操玉をポケットに入れ溜め息を吐くと、透晶越しに央香を見た。
「ひぃ! 今度は何じゃあ!」
央香は怯え、両手で顔を覆った。
名前:央香
年齢:五百五十三
体調:良
機嫌:普
神気量:八百/八百
負債額:十六万五千円
と、怜人の目には映った。
透晶は央香の状態が確認できるとのことだが、負債額まで見れるようになっている。
恐らく、負債額とは央香の暴挙による被害額だと思われ、把握できるようにしてくれた央理の配慮自体には感謝したが、同時にこれを完済するまで央香がいなくならないことに若干げんなりとする怜人であった。
「央香って五百五十三歳なんだ。応仁の乱が始まった年だね」
透晶越しに央香を見つつ、怜人は言った。
「それでわしの歳がわかるのか? てか、オーニン・ノーランって誰じゃ?」
央香はポカンとした顔で聞いてきた。
「わかるのは歳だけじゃないよ。体調、機嫌、神気量、何よりお前の負債額がわかる。全く、十六万五千円も使いやがって」
オーニン・ノーランは無視し、怜人はそう答えた。
「十六万五千円? 負債額……って何じゃ?」
央香が眉をひそめた。
「多分、お前に使われた俺のお金だろ。俺の願いが叶っても、負債額がゼロになるまでお前は帰れないらしいぞ。央理様からの手紙にそう書いてあったからな」
怜人が説明すると、
「はぁあああ?」
央香はたちまち激昂した。
怜人は央理からの手紙を央香に渡し、読み始めた央香を見て鼻を鳴らす。
「さすが神様。素晴らしいお母様をお持ちのようで、大変喜ばしいです」
「ぐぬぬぬっ!」
手紙を手にしている央香はプルプルと震えていた。
「負債額をどうするかは後ほど話すとして、とりあえず朝飯を食うか。央香、テーブルを拭いた後、皿とコップを用意してくれ」
怜人は立ち上がると、そう言ってダイニングキッチンに向かった。
「えー、何でわしが?」
央香が不満げな顔を怜人に向けた。
しかし、怜人がポケットから操玉を取り出す様を見るや否や、
「お、おけまる水産よいちょまる!」
と言って怜人を追い越した。
「それ、ウチの高校で使っている奴はもういないぞ」
怜人は呆れ笑いをし、オレンジジュースと牛乳を冷蔵庫から出した。
怜人と央香はダイニングテーブルの椅子に対面で座り、朝食を食べ始めた。
「ジャコウネコ神、あとで見せて」
「よかろう! レベルもカンストしておるぞ」
「はぁ……でもそれ、全部追加の生活費なんだよな」
上機嫌になった央香を後目に、怜人は消えた四万円に改めてガックリきた。
母に生活費の追加をお願いしたらくれるだろうが、確実に理由は聞かれる。央香がメイプルファンタジーに課金したからと言っても、幼い子がそんなのやるわけないと信じないであろう。なぜなら、母がいた時の央香はそれほど傍若無人ではなかったからだ。
アホなのに小賢しい奴である。
当面は、お年玉や小遣いを貯めていた自分の銀行口座から工面しよう。それから、補填としてアルバイトをした方がいいな。
そう考えがまとまったが、央香のせいで金を稼がなくてはならないことに怜人は再びガックリきた。
「マンチカン神がダブったから、交換してもよいぞ」
央香はオレンジジュースを一口飲み、にっこりと笑った。
「そっか。ありがと」
「もっと心を込めて感謝せんか!」
「誰のお金でダブったんでしょうね?」
怜人が睨むと、央香は目を逸らしてフルーツグラノーラを口に運んだ。
「央香。今日からトイレ掃除と風呂掃除担当ね。ちゃんと毎日やれよ」
「はぁ? 何でわしがやらなきゃ……」
一瞬にして険しい顔になった央香だったが、怜人が操玉を取り出すと、
「がっ、合点承知の助!」
親指を立てて引きつった笑顔を見せた。
「それ、本当に古くて誰も使ってないぞ」
怜人はクスッと笑った。
「わし、五百五十三歳だからの!」
「じゃあなぜ、生まれた年に起きた応仁の乱がわからないんだろうね?」
「だから、そんな奴は知らん」
……人物じゃねぇよ。
と内心ツッコミ、また無視をする怜人だった。
「怜人。食べ終わったらイベントの周回に付き合ってもよいぞ」
「はいはい。お前がやりたいんだろ?」
「違う! 弱い怜人にわしが付き合ってやるんじゃ!」
央香は怒っていたが、口の周りに牛乳がついていたので、その怒りが全く怜人には伝わらなかった。
「牛乳が口についてるぞ。拭け」
怜人はティッシュを央香に渡そうとしたが、
「拭いてくれ」
と言って央香は顔を突き出してきた。
怜人は軽く息を吐き、央香の口周りを拭いた。
「ん」
拭き終わると、央香は満足げにし食事を再開した。
だが、直ぐにまた牛乳が口につく。
……意味がない。
央香が来てからというもの、怜人は厄介事や面倒事が増えてばかりな毎日だった。
でもまぁ、もう少し我慢するか。
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