第六章
何か不機嫌です
三月に入った。
学期末テストも無事に終わり、久しぶりにゆっくりできる週末。
怜人と央香は家で夕食を食べていた。
この後は筋トレをして風呂に入って、まだ読んでいない漫画を読もうかなと、やることを決めていく怜人だったが、テストが終わったら央香とアニメの一気見をするつもりだったことを思い出し、それにしようと表情を緩めた。
その一方で、央香は何やら面白くなさそうな顔をして食べていた。
食べている物は、二人共同じで怜人が駅前で買った野菜炒め弁当。
好物の肉系弁当ではないので不機嫌なのかと思ったが、これは今までにも食べたことがある弁当であり、どうしても食べられない野菜は抜いているので嫌な顔をしないはず。
すなわち、他に不機嫌になる要因があるのだと怜人は推察した。
「野菜炒めに入っていたピーマンと人参は抜いてやっただろ? どうしてそんなに機嫌が悪いんだ? 今日、何かあったのか?」
央香がこれ以上不貞腐れないよう、怜人はできるだけ穏やかに確認した。
央香の態度は変わらなかったが、目だけを怜人へ向けてくる。
「弁当が理由ではないわ。じゃが、肉をもっとくれ」
と央香が言ってきたので、怜人は要求通り自分の弁当に入っている肉をあげた。
「弁当が理由じゃないなら何なわけ? ムスッとされるとご飯がまずくなるんだよ」
一向に機嫌が回復しない央香を見兼ね、怜人はたまらず溜め息を吐いた。
「怜人。わしが以前に申したこと、憶えておるじゃろうな?」
央香は箸を止め、怜人をキッと見つめてきた。
「……以前に話したこと?」
怜人は手を口に当て暫し考え込んだが、央香の言いたいことがわかり目を合わせる。
「あれだな。アダルト用ゲームがやりたいって駄々をこねていた件だろ?」
「そうそう! 鬼畜戦士と奴隷が主役のゲーム! 何でダメなんじゃ!」
央香はくわっと表情を変え、声を大にして言ってきた。
「それは、俺が十八歳未満なんだから無理だって説明したろ」
怜人が素っ気なく返すが、
「とっくに十八歳を超えている者がここにおるではないか! わしが買いに行けば問題ないじゃろうが!」
央香は親指で自分をさし、得意げな顔で言った。
このミニパンダ、五百五十三歳だから年齢制限は一応クリアしているんだよな。
と思い、実年齢とは全く異なる幼い姿を眺めつつ、怜人はお茶を一口飲んだ。
「買いに行くのはお前でいいとして、誰のパソコンでやるつもり? 俺のだろ?」
「無論、怜人のパソコンを使う。しかし、プレイするのはわしじゃ。怜人がやるわけではないのだから関係なかろ」
「関係大アリだよ。沙織ちゃんや姉ちゃんとかにバレたら終わるんだよ」
怜人の眉が中央に寄った。
「その心配は無用じゃ。結構ゲーム性の高い方でコンシューマーゲームみたいなものでのう。実際、わしがYoutubeのプレイ動画で確認しておるし、たまにとんでもなく攻める描写があるものの、パッと見であればわからんよ。それに、沙織や莉子には黙っておいてやるから安心しろ」
央香がしたり顔で講釈を垂れた。
前半何を言っているのか怜人には伝わらなかったが、ゲーム内容云々の問題ではない。
「だから、そういうことじゃないんだよ。俺のパソコンに、十八歳未満がやっちゃいけないゲームが入ることが問題なの。法律的にアウトなんだよ!」
怜人は徐々に語気を強めて説明した。
「あったまデッカーチ、あっそこガチガーチ、そーれがいっかんぞー、ムッツリスケベエルゥ♪」
央香は頬を膨らませた後、大声で歌い始めた。
歌の曲調が完全に某国民的アニメ、猫型ロボットのやつだったので、
「おい、その関係各所に怒られそうな替え歌はやめろ」
と、すかさず怜人が止めた。
「だって怜人が……ってちがぁぁあああう!」
央香は文句を言いかけたが、表情を一変させて叫び出した。
「え? 何? どうした?」
ビクッとする怜人に対し、央香は勢い良く鼻息を出してまたムスッとした様子に戻った。
「あのゲームはどうでもよいわ! いや……どうでもよくはないのじゃが……今はその話ではないのじゃ!」
「今回のノリツッコミは長かったねぇ」
だろうなと薄々感じていた怜人は、そう言ってお茶を飲んだ。
「怜人が振るからじゃろうが」
恨めしそうな目で睨んできた央香に、怜人はフッと笑った。
「で? 以前に話したことって何なの? 央香が怒るようなことはしてないと思うんだけど?」
怜人が表情を戻し改めて確認すると、
「三月二十日に祭りがあると申したであろう」
央香は険しい顔つきで言ってきた。
「あー」
すっかり忘れていたので、思わず怜人の声が出た。
「あー。ではないわ! わしらにとっては年に一度の大切な行事なんじゃぞ! 今朝お前と参拝した時、神界の方から楽しそうな声が聞こえてきてのう」
「その口振りだと、央香も今朝思い出したみたいだよね?」
怜人が非難の視線を向けると、
「ぐっ!」
央香は表情を歪めた。
「図星か」
と言い、怜人はズズーッとお茶を飲んだ。
「いいから、早く告白して想いを成就させんか! 祭りに間に合わん!」
ドンドンとテーブルを叩き自分本位な主張をする央香、こいつはいつだってこうである。
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