極まる内弁慶


「怜人。わしはな、自分より位が高い神には絶対に逆らわん。常に、その時その場所において、位が一番高い神に味方すると決めておる。それだけなら誰にも負けるつもりはない」

 と、央香は誇らしげに言い放った。


「キメ顔で言うことじゃないんだよ。めちゃくちゃ情けないなぁ」


「そして誠に遺憾ではあるが、位の高い神がおるとわしは気分が悪くなるのじゃ」


「内弁慶にも程があるでしょ」

 手で口を押さえながら身体を丸める央香を見て、怜人はうなだれた。


「怜人ぉ……おんぶをしてくれぃ……」

 目に涙を浮かべ、央香が言ってきた。


「えー」

 声に出して渋る怜人だったが、吐くような仕草を繰り返す央香を見兼ね、仕方なくおんぶをすることにした。


「わしは今から神気を完全に消す。何も見ないし、何も聞こえない振りをする。三分以内に全て済ませろ。よいな?」

 そう言うと央香は怜人にギュッとしがみつき、顔を背中に押しつけてきた。


「十分って約束だったろ? 何で急に三分になったんだよ? 境内にある三狐稲荷神社にも行きたいし、お守りだって買いたいのにさ」

 怜人は不満を口にしたが、央香はしがみつく力を強めてくる。


「わしがもたんのじゃ! 怜人ぉ……頼むぅ……後生じゃからぁ」

 央香はそう言い、怜人の背中に顔をグリグリとこすりつけてきた。


「わかった……わかったよ。でも、三狐稲荷神社には行かせてもらうからな」

 怜人が身体全体で頷くと、央香は顔を押しつけてくるのをやめた。


「残り一分を過ぎ始めたら、警告音を鳴らす」


「お前はウルト〇マンか。警告音を鳴らすって、神気は消すんじゃないのか?」

 そう、怜人が溜め息まじりに後ろを向くと、

「ぐっ! そうであった! ……あっ!」

 声量が普通に戻った央香だったが、他の神様に見つかりたくないのか、慌てて怜人の背中にまた顔を押しつけた。


「……だったら……お前の首元に噛み付く。わしの八重歯を舐めるなよ」

 そう、ドスを利かせて央香は言ったつもりなのだろうが、口が怜人の背中に引っついているので、声がこもっており凄みは何一つなかった。


「弱そうなドラキュラだな」

 怜人はクスッと笑い、央香をおんぶした状態で歩みを再開した。


 直後、怜人の徒歩速度が気に入らなかったのか、

「こら! キビキビ歩け! パパッと済まさんか!」

 央香は小さな声で怒ってきては、脇腹をボコスカと殴ってきた。


 相手が幼女とはいえ、地味に痛い。


「はぁ……わかりましたよ」

 怜人は気怠そうに返し、小走りになった。


 結局、央香に急かされたので怜人はまともに祈願ができず、鴻神社での参拝は早々と終了してしまった。


 帰り道、央香は気疲れからかグッタリとしており、一言も喋らなかった。


 このまま帰宅しても良かったが、少しでも央香に元気が戻ればと思い、怜人は快央神社へ行くことにした。


 それに、明日山中に告白するつもりなので、鴻神社でしっかりと祈願できなかった分を、快央神社で補おうと怜人は考えたのである。


 日はすっかり落ちてしまい、ゆっくりと快央神社への階段を上がっていく二人だったが、突然央香が階段を駆け上がっていった。


 怜人は階段を上り終えると、境内の真ん中で全身を仄かに赤く光らせている央香の姿が目に入った。


「わし! 参上!」

 親指で自分をさし、央香はキメポーズと共にそう言った。


「わしは最初からクライマックスじゃあ!」

 央香が仰け反りながら大声を上げた。


 元気になったようで良かった、と怜人は小さく拍手をした。


「わしの必殺技! パートワン!」

 恐らく神気で剣を出した央香は、それを握り締めると剣身を赤く光らせ一閃する。ボンッという軽い爆発が起き、央香はまたもやキメポーズ。


「おー、凄いねぇ」

 と言い、怜人は拍手を続けていた。


 気を良くしたのか、央香は剣を握ったままジャンプをし、

「央香あたたっーく!」

 床に着地すると同時に剣を振り下ろし、大きな光を放ってきた。


 マジックショーとかをやれば稼げそうだなという考えがよぎったが、見えるのが自分と沙織のみだから無理だなと怜人は瞬時に思い直した。


 央香は剣を消すと、今度は左肘を曲げた状態で手をかざし炎を出した。


 炎をかざした左手を大きく斜め下へと振り、央香は鮮やかに散る炎を見せつけてきた。


「へへっ、燃えたろ?」

 央香は人差し指の先に火を出し口へ近付けると、息で火を消して微笑んだ。


 某格闘ゲームのキャラの所作で、再現度は高かった。

 

 怜人はパチパチと拍手をし続けていたが、異変に気付く。


「央香! 燃えたろ? じゃなくて、燃えてる! そこの草に火がついちゃってる!」

 央香が炎を放ったからだろうが、境内に生えている草に火がついていたのである。


「何じゃと? ええいっ!」

 何やら次の動作に入っていた央香であったが、すぐさま神気で突風を出して鎮火させた。


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