情けなさすぎますよ
次の日。
快央神社への参拝を朝一番に済ませ、怜人は朝食を食べ終わったら早速鴻神社へ行くと央香に言い、そのつもり満々であった。
が、突然央香が腹痛を訴えてきたので、しばらく様子を見ることにした。
中々良くならないので、怜人は心配して病院へ連れて行こうとしたが、央香は休めば治ると言って横になったままだった。
昼時になり、お粥くらいなら怜人でも作れるのでそうしようと思ったのだが、央香はピザが食べたいと言ってきた。
ここで、怜人は央香の異変の正体に勘付き始めた。
央香の要望通り宅配ピザを注文し、二人で食べる。央香はにこやかに食しており、腹痛に苦しんでいるとは到底思えなかった。
しかし、食べ終えると央香はまた腹痛がきたと言って、ソファで横になった。
うん、これは間違いなく仮病だな。
そう怜人は判断し、鴻神社へ行く準備を開始した。
怜人の動きに気付いた央香は腹痛が辛いとアピールをしてくるが、怜人に仮病だと看破されると横になるのはやめ、怜人への妨害工作を始めてきた。
バッグに携帯電話や財布を入れると取り出され、トイレや冷蔵庫に行こうとすると周りをウロチョロされる。
……マジで邪魔でしかない。
行かないなら自分一人で行くと怜人が言うが、央香は行く気になったら行くの一点張りで、罵り合う押し問答が続いた。
埒が明かないので、もう放っておいて怜人は強引に一人で行こうとしたが、足にしがみつかれ央香に泣き喚かれる。
本当にこいつは五百五十三歳なのか?
と、あまりにも身勝手で幼稚な央香に辟易する怜人であったが、改めて央香と話し合い妥協点を探ることにした。
そうして、鴻神社内へ入ったら片時も離れない、十分以内に全て終わらせる、という条件でようやく央香は行くことをを受け入れてくれた。
時刻は丁度午後三時で、央香はおやつを食べてからと言ってきたが、そこは怜人が突っぱねて鴻神社へ向かった。
時間がないので自転車をかっ飛ばす怜人。
最中、ゆっくり走れだのめまいがしてきただの、央香がブツブツと文句を言ってきたが、言い返すと喧嘩になりそうだったので、怜人は自転車を漕ぐことに集中した。
約三十分後。
鴻神社に到着した怜人は、その外観に驚愕した。
厳かで立派な鳥居からは綺麗な参道が敷かれ、その横には桜の木々が凛々しく立ち並んでいる。満開の時期にきたら壮観であろう、と怜人は容易に想像できた。
更に、境内の中は広く複数の社があり、最寄りに駐車場まで完備されている。
怜人は基本的に快央神社以外を参拝することはなく、他の神社や寺は中学の修学旅行で京都に行った時くらいだった。
したがって、家から自転車で三十分の距離にこれだけ豪壮な神社があること、激狭で殺風景な快央神社との明確な違いがあること、二重の意味で怜人はショックを受けた。
怜人は入り口の前で呆然と立ち尽くしていたが、央香の声が聞こえてきたので意識をそちらへと向ける。
「私ですか? あの者の付き添いです。いやいや、私の力など微々たるものでございます。是非、鴻神社の神々様にあやかりたいので……あっと、連れが待っているので失礼いたします」
央香は鳥居の側で何度もお辞儀をした後、怜人の元へ駆け寄ってきた。
「一人でペコペコして何を喋ってたの? もしかして鴻神社の神様?」
「いや、ただの門番じゃ。サッサと済ませるぞ」
怜人の問いに、央香は目を伏せ小声で答えた。
この神社、門番がいるのか?
と、再び驚きに包まれる怜人であったが、央香にくいくいと服を引っ張られたので、中へ入り参道を歩き始める。
参道を進みながら、キョロキョロと辺りを見渡す。どこもかしこも綺麗で怜人は目を奪われていたが、央香が急に立ち止まったので振り返った。
「あ! これはこれは。私などにわざわざお声がけいただき恐縮でございます。先程門番の方にご挨拶をさせていただきましたが、凄い神気をお持ちだったので一流の神社は違うなと感服しております。……え? 門番はそうでもない? いやいや、それはあなた様が素晴らしい神気をお持ちだからでしょう。私のような若輩には眩しくて敵いません」
怜人には何も見えない空間に対し、央香は仰々しくかしこまっていた。
休日とはいえ夕方だからか人がまばらだったので助かったが、誰かに見られていたら気でも触れているのかと思われてしまう光景であった。
怜人が憮然として央香を見ていると、
「あなたも頭を下げなさい」
と言って央香は怜人の尻を叩いてきた。
……あなた?
そう呼ばれたことがなかった怜人は一瞬硬直してしまったが、何度も央香に尻を叩かれ半ば強制的に頭を下げることになった。
「無作法者で大変申し訳ございません。いえいえ、とんでもないです! お時間をいただきありがとうございました」
そう言って央香は丁寧にお辞儀をすると、怜人へ向き直り大きく息を吐く。
「で? 今度こそ鴻神社の神様?」
「いや、ただの近習じゃ」
央香は苦々しい顔で答えた。
「さっきから『ただの』って言う割りには、媚びへつらい方が尋常じゃないんだが?」
怜人が睨むと、央香は更にしかめっ面となった。
「仕方がなかろ! それでもわしより断然位が高いんじゃから!」
語気は強いが、声量は極僅かな央香であった。
「快央神社を信仰している身としては、情けない限りです」
怜人は大袈裟に肩を落としたが、央香がピッタリとくっつき顔を上げてきた。
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