告白の結果は想定外
『山中さん。一目惚れでした。俺なんかじゃ頼りないかもしれないけど、一生懸命釣り合うように頑張ります。俺と付き合ってください!』
『んー』
『……』
『んー。学年が上がれば、ほとんど会わないし。もういいか』
『……え?』
『君には勉強を教えてもらっていたし、その点は感謝してる。でも、勘違いさせちゃったみたいだね。悪いけど、君のことは何とも思ってない』
『そ……うですか』
『フッ。釣り合うように頑張ります? ……ウケる。どうやって頑張るのよ? ワックスつけて香水つけてさぁ、何か勘違いしてない? 鏡を見たことないわけ?』
「覚悟はしてたよ。けど……何だろうね……」
目を覚まさせるには充分すぎるほどの衝撃。
山中から放たれた鋭利なナイフで、怜人は容赦なく切り刻まれた。
『それかもしかして、従妹が美人だからイケると思った? 調子に乗らないでよ。従妹が美人なだけで、君はただの陰キャじゃん。ていうか、君の従妹も美人っていうのを鼻にかけてる感じが透けて見えるから、私は好きじゃないかな』
「……何だろ……何だろ……」
そんな風には思っていないし、図に乗っていたわけでもないけれど、山中にはそう映ったのだろう。
だが、自分のことだけならいざ知らず、央香のことをバカにされたことがムカついた。そしてそのことを言い返せない自分に、怜人は心底腹が立った。
『ふふっ。大崎君、自惚れないで自重してよ。私が君を好きになるわけがないじゃない。好きでもない奴から向けられる好意は、単なる悪意でしかないんだからさ』
『……』
『君は、気持ち悪いことをしているのよ』
『……ごめん』
『もう、話しかけてこないで。じゃ』
「……何だろうね……何だろ……何なんだろう……」
なぜここまで言われなきゃいけなかったんだ?
自分は、山中を不愉快にさせることをしたのであろうか?
それとも、今日はたまたま山中の機嫌が悪かっただけか?
おいおい現実を見ろ、そんなわけがない。
脳内で山中擁護の意見が出た途端、怜人は自虐するような笑みを浮かべた。
これが、山中の本心なのだ。
「……央香の言う通りだったよ……だけど……何ていうのかな……何だろ……」
キツイ振られ方だったが、ある意味ここまでは怜人の想定内だった。
しかし、想定外の出来事が起きた。
山中に告白したことがクラス全員に知れ渡っていたのだ。
しかも、怜人から厳しい言い方で交際を申し込まれて怖かったと、山中はクラス内で泣いていたのである。
言わずもがなだが、皆から総スカンを食らい罵倒を浴びせられ、担任教師にも疑われて態度を改めるようにと説教を受けた。
仲が良かったクラスメイトにも直ぐに見放され、怜人は完全に孤立した。
身の程知らずが高嶺の花に告白をしたので、クラス内外で吹聴や軽蔑されることは甘んじて受け入れたが、ただ……事実を捻じ曲げられたのは納得できなかった。
休み時間の度に責められ続けていた怜人は、逃れようと顔を背けた。
刹那、遠目で眺めている山中と視線が合うと、怜人にしかわからないように山中は口角を上げた。
これが、山中の本性だったのだ。
「……何だろ……何なんだろう……何で……だったのかな……」
思い返せば、小中学校は恵まれていた。
親友である駿太がスクールカーストの最上位にいた奴だったから、地味な怜人も孤立することはなかった。
だからといって自分が駿太と同じだと勘違いしていたわけではないが、どこかに慢心があったのかもしれない。
怜人がそう猛省していると、
「取り繕わなくて良い。遠慮なく吐き出せ」
央香が優しい口調で言ってきた。
怜人は涙腺が緩みそうになり、必死に抗おうと奥歯をギュッと噛む。深呼吸を繰り返し、気持ちが落ち着いたのを確認してから話しを始める。
「振られる覚悟はしていたし、わかってはいたんだ。色々思うこともあるけど、山中さんを好きだった気持ちに偽りはないし、告白したことを後悔はしていない」
「そうとは思えんがな」
央香がすぐさま否定してきたが、怜人は薄く笑う。
「本当だよ。央香にやめろと言われて嫌な予感があったのも事実だけど、かといって他の女子を好きになることはできなかった。生まれて初めて好きになった女子なんだ。自分の気持ちに嘘をつくことはできないよ」
怜人は真実を語ったが、央香は不服そうな溜め息を返してきた。
「だから、何ていうのかな。山中さんを恨んでるとか、クラスメイトの誤解を解きたいとか、そういうのじゃないんだ。ただ……何だろ……自分が情けないかな……」
今感じていることを、怜人はありのまま吐露した。
「見る目がなかった己を悔いておるのか?」
「……まぁ……それもあるけど……そうじゃない……」
央香の見解を怜人はたどたどしく否定した後、
「自分を客観視できていなかったんだよ」
と言い切った。
「ん? どういう意味じゃ?」
純粋にわからないと、央香が聞いてきた。
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