意外と頼りになる?

 怜人は一拍置いてから口を開く。


「よくよく考えてみれば、俺なんかが山中さんなんかに恋をしちゃいけなかったってことだよ。小中は駿太がいたから浮かなかっただけで、こんな奴が山中さんと付き合おうだなんて思ったこと自体が、そもそもの間違いだったんだ。どこかで自分を過信していた……恥ずかしいなぁ。容姿が良いわけでもないし、スポーツが得意なわけでもない、俺は何の取り得もない奴なのにさ。死ぬほど……自分が情けない……情けないよ」

 自分を笑いながら言っていた怜人であったが、頬には涙が伝っていた。


 我慢を続けていたのにとうとう泣いてしまい、自分への不甲斐なさで更に涙が溢れる。


 怜人は湯を顔にかけ続け、荒れた呼吸を整えることに専念した。


「……怜人」

 央香がそっと言ってきた。


「何度も忠告してくれたのに、言うことを聞かずに告白をしてごめんな。央香が祭りに参加できるよう、今からでも他の女子を好きにならなきゃいけないんだろうけどさ。悪いけど、女子を好きになる自信が全然ない」

  怜人は気を張って答えたが、最終的に沈んだ感情が出てしまった。


「気にするな。祭りは来年もある」


「そっか。ありがと」

 央香の言葉を受け、怜人は少しだけ気が楽になった。


「お前は、情けなくなどないぞ」

 央香は真剣な様子で切り出すと、

「優しいじゃろうが」

 そう、言った。


「……ありがと」

 真っ黒な精神状態に、僅かな光が差し込んだ気がした。


「湯に浸かりすぎるとのぼせるから、もう上がれ。一緒にアイスを食おう。早く来ないと怜人の分もわしが食うからな」

 央香は立ち上がると、最後に曇りガラスをコンコンと叩いてきた。


「わかった。直ぐに上がるよ」

 怜人はそう言い、二、三分後に風呂から上がった。


 自分の目が真っ赤であることは脱衣所でわかっていたが、央香を待たせるわけにもいかないので、着替えを済ませた直後に脱衣所を出た。


 リビングに戻り、怜人は央香と一緒にアイスを食べる。


 央香は怜人が泣いていたことに関して、一切触れてこなかった。


 それどころか、

「祭りには出られないのじゃから、今日はアイスを三個食ってもよいか?」

 と言ってきては、怜人の了解も得ずにアイスを追加していた。


 央香が三個食べることに反対したかったわけではないが、怜人は一言言いたかった。


 というのも、央香は腹を下しやすい体質なのである。


「怜人……何か……腹が痛くなってきた」

 アイス三個を食べ終わってから数分後、案の定央香が腹痛を訴えてきた。


「だからダメだって言おうと思ったのに。白湯を用意しておくから、トイレに行ってきな」


「ダメだなんて言ってなかろ! うう……怜人のせいじゃからな」


「何で俺のせいなんだよ」

 水を入れた電気ケトルのスイッチをオンにし、怜人は肩をすくめた。


「うう……痛い……この痛みに一人で耐えねばならぬのか」


「まさか、トイレまでついて来いとか言わないよな?」


「トイレくらい一人で行けるわ! わしは神じゃぞ!」

 嫌な予感がした怜人だったが、どうやら杞憂であったようだ。


「じゃあ早く行ってきな」


「この痛みに一人で耐えるとか、辛いじゃろうが!」


 あーあ、やっぱりこのパターンか。


「どうすりゃいいのよ?」

 怜人が溜め息を吐くと、央香は脂汗をかきながら睨んできた。


「怜人。携帯は?」


「ここにあるけど」

 怜人はテーブルの上に置いてある携帯電話を指さした。


「怜人! わしがトイレにいる間、SNSアプリで応援をしろ! よいな!」

 央香はそう言ってタブレットPCを持ち、トイレへと走り去った。


 困惑する怜人だったが、数秒後にブブーッと携帯電話が振動し、トイレに着いたから早く応援しろとSNSアプリで央香から連絡がきた。


 ……マジかよ。

 と苦笑するも、応援メッセージやスタンプなどを送るはめとなった怜人。


 腹痛で苦しむ央香にとっては不謹慎ではあるが、先程までの暗い気分はいつの間にか消し飛んでいた。


 央香がいるからいいや。


 怜人は、そう思った。



 翌朝。


 山中に告白した日以来、熟睡できなかった怜人だったが良く眠れた。


 部屋のカーテンを開け、怜人は朝日を全身で受けながら背伸びをする。


 朝一番は快央神社への参拝だなと思い、怜人は央香を起こしに部屋へ行ったが、なぜか央香の姿が見当たらなかった。


 というか、央香の布団一式がなかった。


 怜人が起こす前に央香が起きている場合もあるが、大抵布団の中でゲームをしているか動画を見ているかであった。

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