借金力、十八万五千円!

 負債額が増えているのは、沙織から央香がもらい、最終的に怜人が返したお金が加算されているからだと怜人は判断した。


 バロンと散歩した日に沙織へ返した分だけではなく、その翌々日にも央香は沙織から一万円をもらっていたので、怜人は合計二万円返していたのだ。


 負債額は一旦置いておいて、神気量の上限が増えていることが怜人は気になった。


「央香、神気量の上限が八百から八百二十に増えてるんだけど、何でかわかる?」

 怜人は透晶を持った手をテーブルへ下ろし、央香に聞いた。


 央香はメイプルファンタジーをやっていたが、手を止め顔を上げる。


「あー、沙織のお陰じゃろうな」


「ん? 沙織ちゃんが? どういうこと?」

 怜人が訝しげな顔をすると、央香はタブレットPCをテーブルへ置き顔を向けてきた。


「母様からの手紙に、神気は人の祈りあってこそと書いてあったじゃろ? 正しくその通りで、わしの神気は今まで怜人が祈っている分しかなかったが、沙織も祈ってくれるようになったから増えたんじゃ」

 そう理由を述べた央香の表情に偽りはなさそうであった。


 確かに、央香が神様だということを沙織には打ち明けたが、信じてくれたとは思っていなかったので怜人はびっくりする。


「お前が神様だっていうこと、沙織ちゃんは本当に信じているんだ?」


「そういうことじゃな」

 ほんの少し口角を上げた央香を見て、怜人も同じ所作をした。


「沙織ちゃんも信じてくれるようになって良かったな」


「ふん……わしも沙織のことは結構好きじゃぞ」

 央香は顔を背け、照れくさそうに言った。


 その様に微笑む怜人であったが、まだ気になる点があった。


「でも、二十しか増えていないのはどういうことなの? 沙織ちゃんの祈りが弱いのか?」


「いや、祈り自体に強弱はない。年月の差じゃな。幼い頃から祈っている怜人と、最近祈り始めた沙織とではそこが違う」


「へぇー。じゃあ、信心し祈る年月によって神気量は変わるってことか?」


「うむ」

 怜人の解釈に、央香は大きく首を縦に振った。


 怜人が央香に話そうと思っている内容は、央香が成人状態であること、つまり神気を使う必要があった。神気量の上限は自分が祈り続けることでまだ増えるだろうが、今後は両親や姉など他の人にもやってもらった方がいいなと怜人は思った。


 怜人はもう一度透晶越しに央香を見る。


 神気量:六百五十/八百二十


 帰宅時のアホな行動で百七十も使ったのか、と怜人は呆れた。


「何かそれ、ス〇ウターみたいじゃな」

 央香がニヤッと笑った。


「IQたったの五か……ゴミめ」

 怜人は央香の遊びに付き合ってやるかと振ったが、

「だっ誰がIQ五じゃ! 指で弾丸を弾き返したろか貴様ぁ!」

 央香は怒りからかその先をやらなかった。


「やかましい。借金力だけ高くなりやがって」


「……借金力って何じゃ?」

 と、眉をひそめる央香に、


「お前が抱えている負債額だよ。今、十八万五千円だからな。央理様から言われた通り、神界へ帰る前にちゃんと完済しろよ」

 怜人はそう言って訴え掛けるような目を向けた。


「はぁ? ちょっと待て! なぜ負債額が二万円も増えておる? わしの負債額は十六万五千円だったはずじゃろ?」

 央香が即座に反論してきた。


 お金に関しては頭がフル回転する、卑しい性格の央香であった。


「お前が沙織ちゃんからもらったお金、最終的に俺が返しているからな。負債額として加算されたんだろ」


「何じゃそれ! 沙織との取引は正当なものだと申したであろう! 怜人が勝手に金を返しているだけなのに、わしの負債額になるとか納得できんわ!」

 央香は怒り心頭な様子で、テーブルをバンバンと叩いた。


 だが、怜人の冷ややかな態度に変化はない。


「沙織ちゃんに迷惑をかけているんだから、ダメに決まってるだろ。納得しなさい」


「ふんっ! 国民生活センターに電話で抗議してやる!」

 央香はぷいっと顔を振った。


「絶対にやめろ。国民生活センターの方達は忙しいんだから、お前みたいなクズが時間を奪うんじゃない」


「わしがクズだと? お前いい加減に……」


「央香伍長、返事は?」

 怜人が真顔で操玉を出すと、

「イエッサー!」

 央香は瞬時に敬礼した。


 怜人は操玉をテーブルの隅に置き、央香に目を向ける。


「央香。ちょっと話がある」


「ん?」

 真剣な面持ちで言葉を発した怜人に、央香は眉をピクッと動かした。


「お前が抱えている負債額についてだが、俺としては早くこれを返して欲しいし、お前も返さない限り神界へ帰れないだろう。お金を工面する方法とか考えてる?」

 そう、怜人が話したいことは央香の負債額、その返済方法についてであった。


「遺憾の意を表します」

 央香はわざとらしく苦々しい顔をして言った。


 こいつ、回りくどい言い方しやがって、結局何も考えてないだけだな。

 と、怜人は溜め息を吐いた。


「負債額を返すにはお金が必要なわけです。お金を稼がないといけませんね」

 怜人が厳しい視線を送ると、央香は腕組みをして唸り出す。


「んー、そもそもどうやって金を稼ぐんじゃ? ……あ! 浦和競馬場にボートレース戸田、後は最寄りのパチンコ店か!」


「ギャンブルで稼ごうとするあたりが、お前の腐った性根そのものだな。ていうか、見た目が幼女なんだからギャンブルは無理に決まってんだろ。真面目に働くんだよ」

 目を輝かせてきた央香に、怜人は半目で言い返した。


「えー、元の姿で行けば問題なかろう。やらせてくれ。最初は少しでいいから……な? 先っちょだけでいいから」


「気色悪いねだり方をすんな。働けって言ってんだよ」

 怜人はそう返し、また溜め息を吐いた。

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