思春期の男子が全員そうだと思うなよ


 怜人はエジプシャンマウ神が爛々と映っている画面を凝視し、携帯電話を持っている手が震え始めた。


 ……俺……もしかして明日死ぬのか?


 そんなことがよぎった怜人。一旦落ち着こうと側にあるトイレへ行って用を足し、トイレから出たタイミングで丁度央香がやってきた。


「……疲れた」

 そう言葉を漏らした央香は、心なしか憔悴しているように見受けられた。


「お疲れ様。お前ずっと沙織ちゃんに着せ替えさせられていたもんな」

 怜人が仕方なさそうに笑うと、

「……はぁ。わし、服に興味ないんじゃがのう」

 央香は大きな溜め息を吐き、表情が死んでいった。


「綺麗なのに勿体ないって、沙織ちゃんや店員さんが言っていたじゃん。今着ている服も凄く似合ってると思うけど、お前はオシャレとかに興味ないのか?」


「ふん……わしは元々美しいからな。オシャレをする必要はないし、何を着ようがこの美貌は変わらんのじゃ」

 央香は鼻を鳴らし、勝ち誇ったような顔をした。


「お前、女性に嫌われるタイプだな」

 男性の自分がイラッときたので、女性は尚更腹を立てるだろうと怜人は思った。


「沙織はわしのことが大好きではないか」


「沙織ちゃんが特別央香に甘いだけで、一般女性からしたら嫌味でしかないぞ。そういうことを他所では言うなよ」

 不満げな顔をする央香に怜人は忠告したが、直ぐに違和感を覚えた。


「ていうか、沙織ちゃんはどうした?」

 そう、央香と一緒にいたはずの沙織がいないのである。

「まだ下着売り場におるぞ」


「沙織ちゃんを置いてくるなよ。何でお前だけ来たの?」

 怜人が眉をひそめると、央香も渋面になる。


「わしだって、置いてきたかったわけではないわ。沙織のブラを選んでやって、試着室で乳繰り合っておったら店員に叱られてのう。沙織が泣きそうになったので、やむなくこっちに来たというわけじゃ。あの店員、沙織を泣かせようとして許せんわな」

 と述べ、央香は最後にふんっと鼻息を出した。


「完全にお前のせいだろうが!」

 怜人は憤慨したが、央香は悪びれずにぷいっと顔を背けた。


 ……ダメだこいつ。


 怜人は暖簾に腕押しだと感じ、ドッと疲れた。


「ったく、後で沙織ちゃんに謝らないと……」


「よっこらせと」

 怜人は呟きながら端っこのベンチに座ったが、央香に割り込まれてしまいどかされた。


「隣が空いていただろ? 何でわざわざ俺の座っているところにくるんだよ?」

 怜人は不快感をあらわにしたが、

「わし、端っこが好きなんじゃ」

 澄まし顔でふんぞり返る央香であった。


 央香の態度にイライラし始める怜人だったが、携帯電話を取り出してメイプルファンタジーを起動させる。先程の僥倖によって、怜人のイライラは収まっていった。


「怜人、何か機嫌が良さそうじゃな」


「良かったのに、お前のせいで悪くなったがな」

 怜人は央香に嫌そうな顔を向けた。


「わしの美しさに見惚れたのか、全く仕方がない奴じゃのう。今日は特別に好きなだけ見ても良いぞ」

 意気揚々と髪をかき上げる央香であったが、

「違うわ」

 と、怜人は即答した。


「では何じゃ?」

 央香が眉間にしわを寄せた。


 怜人は口角を上げると、エジプシャンマウ神を画面に表示させ、

「さっき、デイリーガチャで出た」

 と言って央香に見せた。


「……何……だと……」

 央香の表情が固まった。


「いやぁ、どうもどうも! 今日は運がいいですね」

 怜人はわざとらしく照れた仕草をしたが、依然として固まったままの央香。


「……わしの霊〇が……消えた?」

 こんな時でもブレない奴である。


「ま、央香様も頑張って出してください。ちなみに課金はさせませんからね」

 怜人は央香の肩をポンっと叩き、にっこりと笑った。


 そしてようやく央香の硬直が解けたようで、表情が元に戻った。


「怜人よ。お前に重大なことを告げねばならん」

 いつになく真面目な顔つきとなった央香に、怜人は何事かと身構える。


「わしのおっぱいじゃが、サイズはGだった。沙織より二段階も上じゃ」


「あ……そう」

 何事かと思ったが、どうでもいいことだった。


「そんなわしの……超絶美人なわしの! おっぱいを拝めるとしたら、対価としてお前は何を差し出したい?」

 訴え掛けるような眼差しで央香が言ってきたが、怜人は表情一つ変えなかった。


 というか、央香の意図を察した。


「見たくないし、何も差し出さん」


「たわけたことを申すな。思春期の男子はおっぱいを見るためなら何でもするんじゃ! それは有名なバレーボールの映画で証明されておる!」


「あれはフィクションだろ。思春期の男子全員を一括りにするんじゃない」

 央香の言い分に、怜人は力が抜けた。


「何じゃ? 照れておるのか? わしのおっぱいのせいで怜人のあそこがギ〇ド〇ル ブ〇イクぅう! してもわしは気にせんから心配は無用じゃぞ」


「勝手に天〇突破をさせるな。見たくないって言ってんだよ」

 こいつ、無駄にクオリティが高いんだよな。

 と、そこは感心したが、怜人の態度が変わることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る