SSR スーパーゴッド央香神様

 回せる状態になったと怜人は認識し、ごくりと唾を飲み込む。


 怜人は一回転半回すと、ガチャガチャのハンドル部分は消え、それは始まった。


 七色に光り出し、聞き覚えのある音楽が鳴る。メイプルファンタジーのSSR獲得の演出だった。


 怜人は三歩ほど下がると、自然と表情が和らいでいった。


【SSR スーパーゴッド央香神様 獲得!】


 でかでかと表示され、その下に人物らしき姿が怜人の目に入る。


 一張羅の和服姿であったが、身体は幼女の状態だった。


「ふん」

 そう鼻を鳴らして現れたのは、正真正銘の央香だった。


「やっと帰ってきたか……このバカ」


「さっきから神をバカ呼ばわりしおって、相変わらず無礼千万な奴じゃのう」

 央香がキッと睨んできたが、

「央香に言われたくないね」

 怜人は思わずにやけてしまった。


「ぷっ。怜人、坊主が全然似合っておらんのう。猿みたいじゃ」

 央香にケラケラと笑われたが、怜人は怒る気どころか感傷に浸ってしまい、また涙腺が緩みかけてしまった。


 これ以上泣いたら央香に爆笑されてしまうので、怜人は気を引き締め直す。


「やかましいわ。頭が寒いし、サッサと帰るぞ」

 そう言い、怜人は身体を反転させようとしたが、

「待て怜人」

 央香に止められた、


「実は……尻が痛くて歩けぬ」

 央香が言った。


「はぁ? 何で?」


「母様に尻を千回叩かれたからじゃ。痛くて一歩も動けん。怜人、おんぶをしてくれぃ」

 身体は微動だにせず、央香はそう答え泣きそうな顔であった。


「……はいはい。わかりましたよ」

 怜人は溜め息まじりに屈んだが、

「尻には触れるなよ! マジで痛いんじゃ! そっとじゃからな!」

 央香が強く主張してきた。


「ったく、注文多いなぁ」

 怜人はそう言いつつも、屈んだ状態で央香に背を向けた。


「わしをこんな貧相な背中でおんぶするんじゃぞ! もっとかしこまらんか!」


「確か、家にタイガーバームがあったな。取ってこよ」

 そう、怜人が立ち上がろうとすると、

「あらぁ! 怜人さんったらいつの間にこんな逞しくなったの? 素敵ぃ!」

 央香は甘ったるい声を出して背中に飛びついてきた。


「気色悪いからやめろ」

 怜人は鼻で笑い、

「これでいいのか?」

 央香の太ももを手で支え立ち上がると確認をした。


「うむ。進むことを許す」

 央香のゴーサインが出たので、怜人は歩き始める。


 途端にぐーっと腹が鳴った。


「何か、腹が減ってきたわ。一旦家に戻ったら、コンビニに行こうかな」

 怜人が呟くと、

「ならば、このまま行け。わしも腹が減っておるし、バニラアイスも食べたい」

 そう言って央香は小刻みに身体を揺らしてきた。


「結構寒いのに、よくアイスを食える気になるね?」


「暖かい場所で食うアイスが、格別に美味くてのう。わしの復帰祝いとして、今日は二個食ってもよかろ?」


「前回、三個も食って腹痛で苦しんだのを忘れたのか?」

 怜人は苦言を呈するが、

「二個までならセーフじゃ。わし、胃は弱いが腸は強いぞ」

 という謎理論を央香が展開してきた。


「それ逆じゃない? 腸が弱いから腹を下すんだろ?」


「そうかぁ? よくわからんけど、何とかなる」

 怜人は苦笑するが、央香は呆気らかんとして言った。


 ……この気が抜ける感じ……央香が本当に戻ってきたんだな。


 改めて噛み締め、怜人は階段を下り終えた。


「そういや、祭りには出れたのか?」

 ふと思い出し、怜人が聞いた。


「いや、牢獄に入れられていたから参加できなかった。まっこと……無念じゃ」

 央香は凄く悔しそうに言った。


「そっか……残念だったね。でも、前にも言ったけど来年も出られないかもよ。山中さんとの件で、完全な女性不審になっちゃった。恋愛は当分いいかな」

 怜人は自分を笑いながら言ったが、紛れもない本心だった。


「まぁ……仕方がないのう……我慢してやるとするか」

 あえてだろうが、央香は渋々ながら言った。


「ありがと」

 怜人は素直に礼を述べると、背中越しに央香が頷いたのがわかり頬を緩める。


「不謹慎だけど、山中さんのあの頭には笑いそうになったよ」


「あの女狐にはあれでも足りんわ」


「でもさ。央香、もう二度とやるなよ」

 怜人は、はっきりと口にした。


「……頼まれてもやらんわ」


「それでいい。頼まれてもやるなよ……絶対だからな」

 央香の言葉を肯定し、怜人は語気を強めた。


「……ふん」

 と鼻から息を出し、央香は怜人の背中に顔を押しつけてきた。


 央香をおぶり、ゆっくりと夜道を歩く怜人。コンビニエンスストアが怜人の視界に入ると、央香がひょっこりと顔を出してきた。



 今夜は、コンビニエンスストアの明かりがやけに眩しく感じた。


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