俺の神様ヘッポコSSR
宗治 芳征
プロローグ 央香登場①
家から徒歩三分。
石造りの階段が七十五段。
そこそこ高い位置にあるが、鳥居、門柱、拝殿、賽銭箱しかないこじんまりとした神社。
快央神社。
平時は閑散としており、正月に多少人が来るくらいのマイナーな神社である。
そんな快央神社に、
きっかけは小学一年生の時に心不全で父が入院し、このまま父が死んでしまうかもしれないと思ったことであった。
当時幼かった怜人は、神様に父の病気を治してもらえば良いと考えたのだ。
現代医療において神頼みとはおかしな話だと思われるだろうが、幼い頃は医者がというよりは見えない神様の方がなぜか頼もしく感じたのである。
直ぐ近くにある快央神社へ行き、怜人は持っていたお金を全部賽銭箱に入れ、父を治してくれと必死に祈った。
それから毎朝参拝し、小遣いが入ったら賽銭箱に入れた。
すると、父の容体が良くなっていったのだ。
冷静に振り返れば自分が参拝したところで父の容体が良くなるだなんて、全くもって荒唐無稽な話だ。しかしながら、あの頃は神様が父を治してくれたんだ、祈りが届いたんだと怜人は思い込んだ。
だから、父が全快し仕事に復帰した後も怜人は参拝を続けた。さすがに小遣いを全て賽銭箱に入れることはなくなったが、半分は入れるようにしていた。
そして小学五年生の時、今度はくも膜下出血で母が入院した。
母の病状はかなり悪かったらしく、手術が成功し後遺症がなく元通りになれる可能性は低いと、父づてに聞いた。
怜人は再び持っているお金を全部賽銭箱に入れ、母を治してくれと祈った。
必ず神様が治してくれるから一緒にやろう、と怜人は憔悴している三つ上の姉も誘ったが、怪訝な顔をされるだけだった。
だが、その翌々日。
母が手術を受ける日だった。
朝方いつも通り神社へ行こうとする怜人に、姉は一緒に行くと言ってきた。
当時中学二年生だった姉は、母の病気を神様が治してくれるということに対し、最初は全然信じていない様子だったし、ふざけないでとでも言いたげな態度だった。
後日、姉に信じていたのかと確認したところ、信じてはいなかったがそれしかできることがなかった。母が死んでしまうかもしれない恐怖から、藁にもすがる思いだったと述べた。
姉の本心はさておき、姉弟揃って祈願したことが幸いしたわけではないだろうが、母の手術は無事に成功し後遺症も残らなかった。
結局姉はその日以降神社には来なくなったが、怜人はやはり神様が治してくれたんだと、その思いは確信へと変わった。
疑いは微塵もなかった。
怜人は、百パーセント快央神社に神様がいると信じていた。
引き続き参拝をしていた怜人は中学生になり、小遣いが五千円になった。この時から小遣いの半分ではなく、毎日百円を賽銭箱に入れるようになった。
母の病気以降、家族四人健やかに暮らしていた。
怜人は中学を卒業し、姉は志望大学に合格し仙台へ行った。
同じ頃、父が博多に転勤することが決まり、母がついて行くことになった。父が患っていたのは心不全で、今は回復したといえどいつ急変するかわからない不安が常にあった。母が父の側にいてくれた方が杞憂がなくなると思い、怜人は母の判断に納得していた。
それに、怜人は大宮にある志望校に入学していた。地元から離れたくなかったし、折角受かった高校から転校はしたくなかった。
必要最低限の家事は自分でできるし、月に一度は母が帰ってきて、掃除や料理の作り置きもしてくれたので怜人的には問題なかった。
更に、昔から家族ぐるみの付き合いである隣家の松永家が、何かと面倒を見てくれることも大きかった。
松永家の協力もあり、怜人は高校生活を無事に送っていたのだが、ちょっとした異変が起き始めた。
きっかけは、怜人がクラスメイトの
初めて女子に恋をした怜人は、家族の健康祈願だったはずの参拝が、無意識に有希子への想いもまじるようになった。
その数日後、いつも通り賽銭箱に百円を入れた時だった。
一瞬、黄金色の光が賽銭箱から放たれたのである。
怜人はびっくりし、二礼二拍手一礼をせずに追加で百円を入れた。
また、一瞬だけ光る。
何だこれ?
と、暫し唖然とする怜人であったが、賽銭箱を覗き込んだ。
しかし、賽銭箱は拝殿の真下にあるため暗くて良くわからない。なので、怜人は携帯電話のライト機能で中を照らして確認した。
賽銭箱の中は硬貨、主に百円玉が散らばっているだけで、特に怪しい点はなかった。
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