Episode:10-4 Don't be afraid
35階に差し掛かった時、後ろからついてくる
「止まって!」
「……敵か」
「武器をゆっくりと置きなさい、ゆっくりよ」
そこにいたのは新選組隊服に身を包んだ少年、サブロウだった。
サブロウは優美な反りを持った白い刃の刀の峰を舐める。
「この
玩具のように見えるその刀は、振らずともサブロウが落としたホテルの鍵を用意に真っ二つにした。
その切れ味はそれが本物である事を知らしめ、
「……
「うん!」
個室が並ぶ廊下。
――戦いは相手の立場に立って考える事が重要だ。
――あの業物の間合いは廊下の幅をカバーできる程。前方から向かってくることだけを意識していればいい。
――Sクラスの
サブロウは静かに告げる。
「間合いに入ったら斬るぜよ」
――あの刀、金属製じゃなく硬化樹脂ね……私に対するメタを張っているつもりかしら。
ホテルの内部である以上、不用意に電撃は放てない。
火災になれば周囲に被害が生じるからだ。
じりじりとお互いに睨み合いが続く。
「銃は剣よりも強しって言葉、知らないかしら」
「それを言うなら"ペンは剣よりも強し"ぜよ」
「今私が考えた言葉だもの。でも、リーチの差を工夫以外で変えられるかしらね! ステラが言ってたわ。投げキャラじゃ飛び道具に対抗できないって」
サブロウは刀を構え、低い姿勢を取る。
「現実はゲームじゃないでござる。試してから言うんだな!」
サブロウがその一声と同時に地面を蹴って飛び出す。
低い姿勢、かつ隙のない持ち方。
――あの足運び、飾りでなく本当に剣術を心得ている!
しかし、
「PK電磁砲!!」
超音速で飛ぶビスが3発。
狙いは左肩、右肘、左膝の三点。
――これは回避できない!
しかし、寸前で弾道が真っ二つに割れ、周囲の扉や壁を破壊する。
砲弾を
「
ペンシル爆弾5。
着火することで目標へと直進し、閃光と爆音を生じさせるものだ。
推進炎を上げながら直進する。
瞬間、強烈な音と光でサブロウの視力と聴力を奪った。
「何奴っ」
そして、怯んだ隙をついて
「これでチェックメイト! 卑怯とか言わないでよね!」
しかし、すぐに刀を構えなおし、
「嘘っ!?」
サブロウは
「無明の剣士など、腐るほどいる! 座頭の盲目剣士を知らないか!」
「気をつけろ! 本命は刀じゃない、光のラインだ!」
咄嗟に周囲の瓦礫をかき集め、盾を作る。
「たわけ! 空間に対する斬撃だ、盾など意味を成さんぜよ!」
その四本線が瓦礫をいともたやすく切断する。
電磁力による後方跳躍で危機を逃れるも、制服の胸元を大きく裂かれた。
彼女のスポブラが露わになり、真っ二つになった胸の星マークが火花を散らしながら地面を転がる。
「タッチの差ね……良い腕だったわよ」
「ふっ、こっちのセリフぜよ。この距離でおいどんの
「どうでもいいけど、そのキャラ統一しない?」
「う、うるせぇ!」
相手の手の内を探るには心理戦からと
一方で、防刃すらも効果がない一撃を確認した
――四本線、あれだけの威力のものを連発できるとは思わない。
――間合い、つまりは範囲がある程度決まっているし恐らくインターバルや剣閃の本数も決まっている。
「
「ふっ、何をごちゃごちゃと……そろそろ本気を出そう、二天一流、これにてお命頂戴致す」
サブロウは腰に下げていたもう一本の刀を抜いた。
「来な、銃弾切って映画の騎士ごっこは終わりよ。現実に戻してあげるわ」
もちろん狙いは直撃コース。
再び剣閃がその瓦礫を切り落としていく。
四つが斬られた。
そして、一つは軽やかな足運びで避け、もう一つは二刀で弾いた。
斬られた瓦礫は再びサブロウを狙って飛ぶ。
――1.43秒が経つと、再び瓦礫が切り刻まれる。
切り刻まれた瓦礫は勢いよく天井に突き刺さった。
「アンタの
「それがどうした……この勝負、拙者の勝ちだ!」
サブロウは二本の刀を構えて
「上を見なさい」
天井に刺さった瓦礫が高速回転し、天井を切り裂く。
そして、大きな一つの瓦礫となってサブロウの頭上に落下した。
サブロウはそれを十字に切り裂いた。
次に、
「くそっ!」
サブロウは残り二回の剣閃をそこで使った。
十字に裂ける瓦礫の影から
「アンタは、PKサヨナラだ!」
接触による電気ショックでサブロウは気を失った。
その頃、3階のエレベーターホールで戦っていた。
ステラは別の敵と戦っていた。
銃弾が壁に弾痕を次々と残していく。
照明が破壊され、弾丸が曲線を描いた軌道でステラの肩を撃ち抜いた。
「かはっ」
右肩から血を流すステラの方へ、ガンマン風の少年、イーストが二丁拳銃を構えて迫ってくる。
「指揮官、タイチョー! ボクもセカンドフロアの中央リフト前で
『聞いて、見てる。相手の
銃弾を自由自在に操作する、鉛をベースにした
「お遊びはここまでだ。一発であの世へ送ってやる」
イーストがリロードする。
『あの武器はデザートイーグルか!』
「デザートイーグルって何!?」
そして、
『彼の
イーストは二丁拳銃を構えて同時発射した。
まったく反動を感じないようなその仕草、そして、正確な狙いと銃弾を操作する
近接戦がメインのステラにとっては相性最悪の敵だ。
万事休すかと思われた時、ステラは銃弾を
「――オレを目覚めさせたな……」
ドスの利いた声はまるで彼女が別人になったかのように豹変した。
「ガンマン気取りか……西部劇はオレも好む所だ。ジョー・ウェイか? クリンター・イーデンウッドか?」
ステラの赤い瞳は猛禽類のそれのように鋭くイーストを狙っていた。
その圧倒的な圧にイーストは声一つ出せない。
「さしずめ、自分をスペースヒーローだと思いこんでいた量産型の玩具って所だな」
『おい、
「来いよ、エセガンマン。苦しむ間もなく殺してやる」
『ころ……おい、それはやめろ! やめてくれ!』
しかし、ステラは
「この化け物が……俺は……早打ちの天才だ! これでも喰らえ、クソッタレ!」
デザートイーグルからマズルフラッシュと硝煙が生じる。
射出された弾丸は正確にステラの脳天へと向かっていた。
しかし、一瞬でそれらは地面に叩き落され、潰れていた。
「バカなっ!?」
先程まで数十メートルの距離があったステラとイーストの間はこの一瞬で至近距離まで迫っていた。
ステラの拳がイーストの横っ腹に叩き込まれる。
それは重く内蔵を破壊する程の一撃。
イーストの身体は大きく吹き飛ばされ、個室の扉を破壊しながら吹き飛んだ。
その一撃だけで呼吸するのがやっとの致命傷。
しかし、ステラは容赦をしない。
「まだ生きてるか。ならば死ね」
姿勢を低くし、追撃へと向かう。
ステラの背後に、
「PKスタン・サブジェクション!」
強力な電撃がステラの首筋に生じ、彼女を気絶させた。
「何があったのか知らないけど間一髪だったわ」
『
困惑する
「多分、私達と同じように闇を抱えてるのよ。そうでなければあんな事……」
『……後で聞こう。
「うん、わかった。……無理しないで」
上へと向かう中央エレベーター。
スキンヘッドの男、
そこについてくるキャバ嬢風の女性、ミリーナと
「サブロウとイーストは恐らくやられたわ」
ミリーナが報告すると、
「ほっとけ、この莫大な金があれば保釈金なんてすぐに引き出せるさ」
「リーダー、この子はどうしますか」
ミリーナは自身にくっついている
「こいつには利用価値がある。助走があれば長距離の
「それで屋上に……しかし、屋上には警察の完全武装ヘリが来てるわ」
「問題ねえ、そのためのスティンガーだ」
そう言って、
そして、三人は屋上へと出る。
強い風が吹く屋上に、ヘリのプロペラ音が鳴り響く。
一機の警察の武装ヘリUH-1が待機していた。
屋上から下を見下ろすと、無数のパトカーと警察用の
『貴方がたは完全に包囲されている、大人しく投降しなさい!』
「だってさ、ミリーナ」
「フフ、バカな人達」
ミサイルが煙を上げながら飛んでいき、ヘリへと直撃した。
夜間の黒に目立つ紅蓮を咲かせ、木端微塵になったブレードやボディが地上へと落下していく。
一部は回転しながら向かいのビルに衝突し、二次災害を齎した。
「やるぅ!」
ミリーナは
「これで後はトンズラするだけだな」
「そこまでだ!」
「こいつをケツの穴にブチ込まれたくなかったらとっとと投降しろ!!」
震える手足を抑え、いつになく真剣な眼差しで拳銃を構える。
無論、彼は撃てない。
人を殺す覚悟もないし、戦闘技術もない。
でも、他の子達が戦い、
それが彼の恐怖を抑え込んでいた。
その小学生が武器を構えている異様な姿に
「おいおい、俺はゲイじゃないぜ。ボウズ。帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだ」
軽薄なノリで言った後、冷淡にミリーナに命じる。
「やれ」
「はい、リーダー」
そして、ミリーナは両手を広げて体中にピンク色の痣が浮き出した。
「
すると、ミリーナの肩を舐めていた
「こいつが……うぐぐぐ、殺すゥ!」
普段からは考えられない表情を浮かべ、両手に鬼火を纏い、流れを練る。
それは、
「PKインフェルノォォォォ!」
青白い炎が
「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「PKポルターガイスト!」
その時、巨大な金属製のテーブルが
「ギリギリだったようね!」
「
「ねえ、これはどういう状況!?」
困惑する
「おそらくあの女の
「そして、今の
未だに
「ぐぬぬぬぬぬ」
ミリーナは髪をグシャグシャにして、地団駄を踏みながら
「こうなったら、あの男をやっておしまい!」
「させないっ!」
スパナや電気スタンドが飛び、それは
「おい、この私を守りなさい!」
しかし、既に遅く、無数のそれらが顔面に直撃した。
「がはっ」
「……うえーっ、ぺっぺっぺ、なんであんな下品な女の肩を舐めてたの……今すぐ口をゆすぎたいよーーっ」
「
その様子を見た
「ひ、ひいいいいぃぃぃぃぃぃ」
ミリーナは顔を抑えながら再び立ち上がる。
「
「よくも……世界遺産国宝アカデミー賞級の私の顔に……許さねぇ、貴様を私の犬にしてやる……!!」
ミリーナが鼻血や額から流す血を抑えながら怒りを露わにした。
「出来るものなら、してみろ、外道」
しかし、それを遥かに上回る怒りがその場にあった。
「バカなっ、まだ、こんな力が!!」
白く輝く髪、赤く光る目、そして、体中のエラ状器官が開き、背後に白く光り輝く六枚羽とエンジェル・ハイロゥが出現した。
赤黒い火花が周囲をピリピリと焼く。
それは
気づくと、ホテルの電気どころか周囲の灯りも消えている。
否、力が
「これは……電力を……いや、電気を力という概念的に吸収している……この力は一体……!?」
「バカな、私の
ミリーナは慌てた口調で逃げた
「アンタに相応しいジャッジは決まった!」
ミリーナを指差した。
「人のものを奪ったこと!」
「世の秩序を乱したこと!」
「そして、私の友人を利用したことォォォォォォォォォォォォ!」
赤く巨大な獅子の頭を持つ東洋龍、ガオウが
「裁きを受けなさい、ガオウ・ギガボルトォォォォォォォォォォォォ!!」
そして、それが大きな口を開き、ビルの屋上ごとミリーナを食らい付くした。
ズドォォォォォムと衝撃が街を揺るがした。
ホテルの38階にある会議室。
横には逃走用のアンカーフックがある。
「10数える前に失せな」
「10、9、8」
「ぐはっ」
サブマシンガンが転げ落ち、
それを
「馬鹿め、コイツで終わりだ!」
狙いは
「
――もう、さっきバリバリ
「ハハハ、逃げても無駄だ、小僧。たっぷりいたぶって殺してやる」
長テーブルを貫通する銃弾が
四つん這いで逃げる
しかし、周囲を見回し、火事になる危険性を考慮して止めた。
「なら……」
備え付けてある消火器を取り、
「うわっあああっ」
怯んで隙ができ、
パイ皿はそれに命中し、大きく弾き飛ばされる。
「……この、ガキがぁ! 殺してやる!」
彼女は
「馬鹿め、もう遅い!」
その時、
「イピカイエ、マザーファッカー!!」
「おうっ!」
奇妙な声を上げ
その隙に
しかし、
彼の重みに耐えられず、ズルズルと引きずられる
「離さないでくれ……」
その時、
それを見逃さなかった
「馬鹿め、落ちるのは貴様だけだ!」
引き金を引き、銃弾が発射された。
安定しない場だったため、狙いは大きく逸れ、誰にも当たらなかったが、その衝撃で
「うわあああああああああああああああああああああああああああっ」
「
そこに、白く光り輝く六枚羽を持った天使のような姿の
二人を空中で掴まえ、ふわりと地上に舞い降りた。
着地すると、土埃が舞い上がり、六枚羽を折りたたむ。
高所から落下する恐怖で気を失っていた
「
「バカ、無茶しないでって言ったのに……」
「助けに来てくれるって言ったから、信じたんだ」
「警察だ!」
手錠が掛けられ、逮捕完了を意味する赤いランプが点灯した。
「あなたには黙秘権がある。あなたの供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる場合がある。あなたは弁護士の立会いを求める権利がある。もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、質問に先立って公選弁護人を付けてもらう権利がある」
一つの事件が解決した札幌の街に、朝日が昇り始める。
ホテルから出てきた
次回予告
水着、それは夏の風物詩であり、男の浪漫でもある。
夏を謳歌する彼女達に危険な任務が届いた。
そこにメカビートル4号が発進する。
次回、水着だよ、全員集合
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