Episode:10-4 Don't be afraid

 めいは非常階段を使って上階へと向かう。

 35階に差し掛かった時、後ろからついてくるみさおに停止を命じた。

「止まって!」

「……敵か」

 めいは髪を白く発光させたまま、赤い火花を散らしてゆっくりと階段を上がる。

「武器をゆっくりと置きなさい、ゆっくりよ」

 そこにいたのは新選組隊服に身を包んだ少年、サブロウだった。

 サブロウは優美な反りを持った白い刃の刀の峰を舐める。

「このの妖刀は血を欲しがっているでござる……」

 玩具のように見えるその刀は、振らずともサブロウが落としたホテルの鍵を用意に真っ二つにした。

 その切れ味はそれが本物である事を知らしめ、めいはつばを飲み込む。

「……天城あまぎさん、まずは敵のPSIサイを分析してからだ」

「うん!」


 個室が並ぶ廊下。

 みさおは階段の影でこっそりとその様子を伺った。


――戦いは相手の立場に立って考える事が重要だ。


――あの業物の間合いは廊下の幅をカバーできる程。前方から向かってくることだけを意識していればいい。


――Sクラスのめいに対してこの自信、Aクラス相当だろう。


 みさおは今の戦いはめいが地形や情報の点から不利と分析、冷や汗をかきつつも、敵の能力を見極めることに専念した。


 サブロウは静かに告げる。

「間合いに入ったら斬るぜよ」


――あの刀、金属製じゃなく硬化樹脂ね……私に対するメタを張っているつもりかしら。


 めいはこっそりと磁力操作や電磁波の手応えから相手の刀が金属製で無い事を把握した。

 ホテルの内部である以上、不用意に電撃は放てない。

 火災になれば周囲に被害が生じるからだ。

 じりじりとお互いに睨み合いが続く。

 めいはそうした状況を壊すべく、相手を煽る。

「銃は剣よりも強しって言葉、知らないかしら」

「それを言うなら"ペンは剣よりも強し"ぜよ」

 めいはビスを手で弄ぶ。

「今私が考えた言葉だもの。でも、リーチの差を工夫以外で変えられるかしらね! ステラが言ってたわ。投げキャラじゃ飛び道具に対抗できないって」

 サブロウは刀を構え、低い姿勢を取る。

「現実はゲームじゃないでござる。試してから言うんだな!」

 サブロウがその一声と同時に地面を蹴って飛び出す。

 低い姿勢、かつ隙のない持ち方。


――あの足運び、飾りでなく本当に剣術を心得ている!


 みさおは焦りを感じた。

 しかし、めいは冷静にビスを指で挟み、磁力線を形成、クーロン力を生じさせて射出した。

「PK電磁砲!!」

 超音速で飛ぶビスが3発。

 狙いは左肩、右肘、左膝の三点。


――これは回避できない!


 めいは勝利を確信していた。

 しかし、寸前で弾道が真っ二つに割れ、周囲の扉や壁を破壊する。


 砲弾を斬った・・・のだ。


天城あまぎさん!」

 みさおは急いでロケット花火のような物を点火する。

 ペンシル爆弾5。

 着火することで目標へと直進し、閃光と爆音を生じさせるものだ。

 推進炎を上げながら直進する。

 めいは目を瞑って耳を塞いだ。


 瞬間、強烈な音と光でサブロウの視力と聴力を奪った。

「何奴っ」


 そして、怯んだ隙をついてめいは急接近、電撃を生じさせた腕でサブロウの首元を狙う。

「これでチェックメイト! 卑怯とか言わないでよね!」

 しかし、すぐに刀を構えなおし、めいの方を向いた。

「嘘っ!?」

 サブロウはめいの動揺に対し、ニヤリと笑った。

「無明の剣士など、腐るほどいる! 座頭の盲目剣士を知らないか!」

 みさおはあるものを視認した。

「気をつけろ! 本命は刀じゃない、光のラインだ!」

 めいもその四本の線を見た。

 咄嗟に周囲の瓦礫をかき集め、盾を作る。

「たわけ! 空間に対する斬撃だ、盾など意味を成さんぜよ!」

 その四本線が瓦礫をいともたやすく切断する。

 電磁力による後方跳躍で危機を逃れるも、制服の胸元を大きく裂かれた。

 彼女のスポブラが露わになり、真っ二つになった胸の星マークが火花を散らしながら地面を転がる。

「タッチの差ね……良い腕だったわよ」

「ふっ、こっちのセリフぜよ。この距離でおいどんの空間斬撃サイコカッターを回避するたぁな。生体電気の操作で反射神経を強化してるといった所か」

「どうでもいいけど、そのキャラ統一しない?」

「う、うるせぇ!」

 めいとサブロウは戦いの最中でも掛け合いを忘れない。

 相手の手の内を探るには心理戦からとめいみさおから教わったからだ。

 一方で、防刃すらも効果がない一撃を確認したみさおは攻撃が直撃していたら即死だった事を理解し、敵の弱点を考える。


――四本線、あれだけの威力のものを連発できるとは思わない。


――間合い、つまりは範囲がある程度決まっているし恐らくインターバルや剣閃の本数も決まっている。


天城あまぎさん、瓦礫の砲弾でインターバルと剣閃の本数を探るんだ、それで敵の弱点を掴むんだ!」

 めいが静かに頷く。

「ふっ、何をごちゃごちゃと……そろそろ本気を出そう、二天一流、これにてお命頂戴致す」

 サブロウは腰に下げていたもう一本の刀を抜いた。

 めいは磁力で周囲に瓦礫を浮かせて宣言する。

「来な、銃弾切って映画の騎士ごっこは終わりよ。現実に戻してあげるわ」


 めいは六つの瓦礫を一斉に飛ばした。

 もちろん狙いは直撃コース。

 再び剣閃がその瓦礫を切り落としていく。

 四つが斬られた。

 そして、一つは軽やかな足運びで避け、もう一つは二刀で弾いた。

 斬られた瓦礫は再びサブロウを狙って飛ぶ。


――1.43秒が経つと、再び瓦礫が切り刻まれる。


 切り刻まれた瓦礫は勢いよく天井に突き刺さった。

 めいはサブロウのPSIサイを掴み、勝ち気に宣言する。

「アンタのPSIサイ、一度に発動できる剣閃は四本まで、そしてインターバルは1秒半って所かしら」

「それがどうした……この勝負、拙者の勝ちだ!」

 サブロウは二本の刀を構えてめいへと走り出す。

 めいはその様子を静かに笑った。

「上を見なさい」

 天井に刺さった瓦礫が高速回転し、天井を切り裂く。

 そして、大きな一つの瓦礫となってサブロウの頭上に落下した。

 サブロウはそれを十字に切り裂いた。

 次に、めいは磁力操作で大きめな瓦礫を前から投擲する。

「くそっ!」

 サブロウは残り二回の剣閃をそこで使った。

 十字に裂ける瓦礫の影からめいの姿が現れる。

「アンタは、PKサヨナラだ!」

 接触による電気ショックでサブロウは気を失った。



 その頃、3階のエレベーターホールで戦っていた。

 ステラは別の敵と戦っていた。


 銃弾が壁に弾痕を次々と残していく。

 照明が破壊され、弾丸が曲線を描いた軌道でステラの肩を撃ち抜いた。

「かはっ」

 右肩から血を流すステラの方へ、ガンマン風の少年、イーストが二丁拳銃を構えて迫ってくる。

「指揮官、タイチョー! ボクもセカンドフロアの中央リフト前で超能力者サイキックと交戦中! 銃弾が変な動きで飛んでくるんだよーぎゅいーんって……。肩を撃たれたのー!」

『聞いて、見てる。相手のPSIサイ射撃狂トリガーハッピーだな』

 射撃狂トリガーハッピー

 銃弾を自由自在に操作する、鉛をベースにした念動力サイコキネシスの一種だ。

「お遊びはここまでだ。一発であの世へ送ってやる」

 イーストがリロードする。

 みさおはその武器を見極めた。

『あの武器はデザートイーグルか!』

「デザートイーグルって何!?」

 そして、みさおはその武器からPSIサイを考察する。

『彼のPSIサイ射撃狂トリガーハッピーだけじゃないはず、あの華奢な腕で、それもデザートイーグルを片手撃ちはあり得ない。おそらく反動を打ち消すPSIサイがあるはずだ……。衝撃拡散ショックアブソーバー。力をアストラル界に分散させているのか……!? 厄介な相手だ、今から天城あまぎさんを向かわせる!』


 イーストは二丁拳銃を構えて同時発射した。

 まったく反動を感じないようなその仕草、そして、正確な狙いと銃弾を操作するPSIサイ

 近接戦がメインのステラにとっては相性最悪の敵だ。

 万事休すかと思われた時、ステラは銃弾をはたき落とした・・・・・・・


「――オレを目覚めさせたな……」


 ドスの利いた声はまるで彼女が別人になったかのように豹変した。

「ガンマン気取りか……西部劇はオレも好む所だ。ジョー・ウェイか? クリンター・イーデンウッドか?」

 ステラの赤い瞳は猛禽類のそれのように鋭くイーストを狙っていた。

 その圧倒的な圧にイーストは声一つ出せない。

「さしずめ、自分をスペースヒーローだと思いこんでいた量産型の玩具って所だな」

『おい、島風しまかぜさん! 返事をして、どうしたんだ!』

 みさおが必死に呼びかけるも、ステラには全く届かない。

「来いよ、エセガンマン。苦しむ間もなく殺してやる」

『ころ……おい、それはやめろ! やめてくれ!』

 しかし、ステラはみさおの静止虚しく床を蹴ってイーストの方へと真っ直ぐ向かった。

「この化け物が……俺は……早打ちの天才だ! これでも喰らえ、クソッタレ!」

 デザートイーグルからマズルフラッシュと硝煙が生じる。

 射出された弾丸は正確にステラの脳天へと向かっていた。

 しかし、一瞬でそれらは地面に叩き落され、潰れていた。

「バカなっ!?」

 先程まで数十メートルの距離があったステラとイーストの間はこの一瞬で至近距離まで迫っていた。

 ステラの拳がイーストの横っ腹に叩き込まれる。

 それは重く内蔵を破壊する程の一撃。

 イーストの身体は大きく吹き飛ばされ、個室の扉を破壊しながら吹き飛んだ。

 その一撃だけで呼吸するのがやっとの致命傷。

 しかし、ステラは容赦をしない。

「まだ生きてるか。ならば死ね」

 姿勢を低くし、追撃へと向かう。

 ステラの背後に、めいが飛び出した。

「PKスタン・サブジェクション!」

 強力な電撃がステラの首筋に生じ、彼女を気絶させた。

「何があったのか知らないけど間一髪だったわ」

島風しまかぜさん……どうしちまったんだ』

 困惑するみさおに、めいは悲しげな声で言った。

「多分、私達と同じように闇を抱えてるのよ。そうでなければあんな事……」

『……後で聞こう。大宮おおみやさんが敵と一緒にエレベーターで最上階まで向かってるみたいなんだ。幸い外に警官隊が到着している、ステラとそこで倒れている人を引き渡して急いで直行してくれ。僕も今から屋上に向かう』

「うん、わかった。……無理しないで」

 めいは彼の指示通り、ステラと倒れているイーストを担いで窓から飛び出した。



 上へと向かう中央エレベーター。

 スキンヘッドの男、かじは莫大な債券を袋に詰めて運ぶ。

 そこについてくるキャバ嬢風の女性、ミリーナと睦月むつき

「サブロウとイーストは恐らくやられたわ」

 ミリーナが報告すると、かじは静かに言った。

「ほっとけ、この莫大な金があれば保釈金なんてすぐに引き出せるさ」

「リーダー、この子はどうしますか」

 ミリーナは自身にくっついている睦月むつきを指差す。

「こいつには利用価値がある。助走があれば長距離の空間跳躍ジャンプが出来るんだそうだ。終わったら殺せばいい」

「それで屋上に……しかし、屋上には警察の完全武装ヘリが来てるわ」

「問題ねえ、そのためのスティンガーだ」

 そう言って、かじは巨大なミサイルランチャーを組み立てた。

 そして、三人は屋上へと出る。


 強い風が吹く屋上に、ヘリのプロペラ音が鳴り響く。

 一機の警察の武装ヘリUH-1が待機していた。

 屋上から下を見下ろすと、無数のパトカーと警察用の強化外骨格パワードスーツ

『貴方がたは完全に包囲されている、大人しく投降しなさい!』

「だってさ、ミリーナ」

「フフ、バカな人達」

 かじはスティンガーを構え、警察のヘリ目掛けて引き金を引いた。

 ミサイルが煙を上げながら飛んでいき、ヘリへと直撃した。

 夜間の黒に目立つ紅蓮を咲かせ、木端微塵になったブレードやボディが地上へと落下していく。

 一部は回転しながら向かいのビルに衝突し、二次災害を齎した。

「やるぅ!」

 ミリーナはかじを称賛した。

「これで後はトンズラするだけだな」

 かじはそう言って下卑た笑い声をあげる。



「そこまでだ!」

 みさおはM92F拳銃構えて屋上へと立ち入った。

「こいつをケツの穴にブチ込まれたくなかったらとっとと投降しろ!!」

 震える手足を抑え、いつになく真剣な眼差しで拳銃を構える。

 無論、彼は撃てない。

 人を殺す覚悟もないし、戦闘技術もない。

 でも、他の子達が戦い、睦月むつきが敵の手に落ちている今、なりふり構っていられなかった。

 それが彼の恐怖を抑え込んでいた。

 その小学生が武器を構えている異様な姿にかじは笑った。

「おいおい、俺はゲイじゃないぜ。ボウズ。帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだ」

 軽薄なノリで言った後、冷淡にミリーナに命じる。

「やれ」

「はい、リーダー」

 そして、ミリーナは両手を広げて体中にピンク色の痣が浮き出した。

心理矢印マインドアロー、識別名ムツキの識別名ミサオに対する心的ベクトル量を最低に! 奴を焼き殺せ!」

 すると、ミリーナの肩を舐めていた睦月むつきみさおを突然睨み始める。

「こいつが……うぐぐぐ、殺すゥ!」

 普段からは考えられない表情を浮かべ、両手に鬼火を纏い、流れを練る。

 それは、みさおに向かって放たれた。

「PKインフェルノォォォォ!」

 青白い炎がみさおの目の前に迫る。

「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


「PKポルターガイスト!」

 その時、巨大な金属製のテーブルがみさおを守った。

 めいが周囲に大量の電気スタンドやスパナを浮かせ、真横から飛んできた。

「ギリギリだったようね!」

めいちゃん!」

 睦月むつきが思わずその名を叫ぶ。

「ねえ、これはどういう状況!?」

 困惑するめいに、みさおはおおよその推測を述べた。

「おそらくあの女のPSIサイは心的距離感を操作できる類の能力だ……いや、ベクトルと言った所から誰か一人から発する心的距離か……」

「そして、今の天城あまぎさんの位置は射程範囲外、大宮おおみやさんは天城あまぎさんを攻撃できないはずだ!」

 未だに睦月むつきめいを攻撃できるのに攻撃しない状況を見てみさおはそこまで見抜いていた。

「ぐぬぬぬぬぬ」

 ミリーナは髪をグシャグシャにして、地団駄を踏みながら睦月むつきに命令した。

「こうなったら、あの男をやっておしまい!」

 睦月むつきが再び鬼火を練り始める。

「させないっ!」

 スパナや電気スタンドが飛び、それは睦月むつきではなくミリーナを狙っていた。

「おい、この私を守りなさい!」

 しかし、既に遅く、無数のそれらが顔面に直撃した。

「がはっ」


 睦月むつきが正気に戻った。

「……うえーっ、ぺっぺっぺ、なんであんな下品な女の肩を舐めてたの……今すぐ口をゆすぎたいよーーっ」

大宮おおみやさん!」

 みさおはすぐに彼女のもとに駆け寄った。

 その様子を見たかじは慌てて逃げ出した。

「ひ、ひいいいいぃぃぃぃぃぃ」

 ミリーナは顔を抑えながら再び立ち上がる。

天城あまぎさん、ここは頼んだ、僕と大宮おおみやさんは奴を追う!」

 睦月むつきみさおかじを追って屋外階段を降りていく。


「よくも……世界遺産国宝アカデミー賞級の私の顔に……許さねぇ、貴様を私の犬にしてやる……!!」

 ミリーナが鼻血や額から流す血を抑えながら怒りを露わにした。

「出来るものなら、してみろ、外道」

 しかし、それを遥かに上回る怒りがその場にあった。

「バカなっ、まだ、こんな力が!!」

 白く輝く髪、赤く光る目、そして、体中のエラ状器官が開き、背後に白く光り輝く六枚羽とエンジェル・ハイロゥが出現した。

 赤黒い火花が周囲をピリピリと焼く。


 それはかじを追って走るみさおも気づいていた。

 気づくと、ホテルの電気どころか周囲の灯りも消えている。

 否、力がめい一人に集中している。

「これは……電力を……いや、電気を力という概念的に吸収している……この力は一体……!?」


「バカな、私の心理矢印マインドアローが通用しない……どういう力なのよ! リーダーッ!!」

 ミリーナは慌てた口調で逃げたかじに助けを懇願する。

 めいはその情けない姿を睨み、強く言い放つ。

「アンタに相応しいジャッジは決まった!」

 ミリーナを指差した。

「人のものを奪ったこと!」

「世の秩序を乱したこと!」

「そして、私の友人を利用したことォォォォォォォォォォォォ!」

 赤く巨大な獅子の頭を持つ東洋龍、ガオウがめいの頭上に顕現する。

「裁きを受けなさい、ガオウ・ギガボルトォォォォォォォォォォォォ!!」

 そして、それが大きな口を開き、ビルの屋上ごとミリーナを食らい付くした。

 ズドォォォォォムと衝撃が街を揺るがした。



 ホテルの38階にある会議室。

 睦月むつきみさおはそこへ突入した。

 かじがサブマシンガンHK94を持って待っていた。

 横には逃走用のアンカーフックがある。

「10数える前に失せな」

 かじはサブマシンガンをみさおの頭に向けたまま言う。

「10、9、8」

 睦月むつき空間跳躍ジャンプかじの後頭部を蹴る。

「ぐはっ」

 サブマシンガンが転げ落ち、かじは怒りで睦月むつきに掴みかかる。

 それを空間跳躍ジャンプで回避、しかし、かじは地面に転げ落ちたサブマシンガンを手にする。

「馬鹿め、コイツで終わりだ!」

 狙いはみさおだ。

みさお君!」

 睦月むつき空間跳躍ジャンプを試みるも、胸の星が点滅し始める。


――もう、さっきバリバリPSIサイ使うからもう空間跳躍ジャンプできないジャン!


 みさおは小柄な体を活かし、長テーブルの下に潜り込む。

「ハハハ、逃げても無駄だ、小僧。たっぷりいたぶって殺してやる」

 長テーブルを貫通する銃弾がみさおの前数センチの所に命中した。

 四つん這いで逃げるみさお

 睦月むつき発火能力パイロキネシスならと発動を試みる。

 しかし、周囲を見回し、火事になる危険性を考慮して止めた。

「なら……」

 備え付けてある消火器を取り、睦月むつきみさおをいたぶるかじに向かって放水した。

「うわっあああっ」

 怯んで隙ができ、みさおはその間に長テーブルの上に置かれていたパイ皿を掴み、サブマシンガン目掛けて投擲する。

 パイ皿はそれに命中し、大きく弾き飛ばされる。

「……この、ガキがぁ! 殺してやる!」

 かじみさおの胸ぐらを掴んで窓ガラスに叩きつけてぶち破り、落とそうとする。

 みさおの下は摩天楼。

 かじが手を離せばみさおは落下して潰れたトマトになってしまう。

 睦月むつきの持つ消火器はもう水が尽きたのか、勢いがなくなった。

 彼女はみさおを助けるために走る。

「馬鹿め、もう遅い!」

 かじ睦月むつきの方を向いた。

 その時、みさおは目を瞑って言った。

「イピカイエ、マザーファッカー!!」

 みさおは蹴りで金的を食らわせた。

「おうっ!」

 奇妙な声を上げかじが悶える。

 その隙にみさお睦月むつきに引っ張られてホテル内へと戻った。

 しかし、かじはバランスを崩してフラフラと窓の外へと落ちていってしまう。

 みさおは慌ててかじの右手を掴んだ。

 彼の重みに耐えられず、ズルズルと引きずられるみさお睦月むつきが止める。

「離さないでくれ……」

 みさおが息を切らしながら引き上げようとした。

 その時、みさおの胸元から拳銃が落ちる。

 それを見逃さなかったかじはその拳銃を左手で掴み、すぐに構える。

「馬鹿め、落ちるのは貴様だけだ!」

 引き金を引き、銃弾が発射された。

 安定しない場だったため、狙いは大きく逸れ、誰にも当たらなかったが、その衝撃で睦月むつきは手を離してしまった。

「うわあああああああああああああああああああああああああああっ」

 みさおかじは38階の高さから落下する。

みさお君~~~~~~~~っ!!」

 睦月むつきが泣き叫んだ。


 そこに、白く光り輝く六枚羽を持った天使のような姿のめいが舞い降りる。

 二人を空中で掴まえ、ふわりと地上に舞い降りた。

 着地すると、土埃が舞い上がり、六枚羽を折りたたむ。



 高所から落下する恐怖で気を失っていたみさおが目を覚ます。

天城あまぎさん……?」

 めいは目から涙が溢れ出して強くみさおを抱きしめた。

「バカ、無茶しないでって言ったのに……」

「助けに来てくれるって言ったから、信じたんだ」


 かじの元には複数の警官隊がやってきた。

「警察だ!」

 手錠が掛けられ、逮捕完了を意味する赤いランプが点灯した。

「あなたには黙秘権がある。あなたの供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる場合がある。あなたは弁護士の立会いを求める権利がある。もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、質問に先立って公選弁護人を付けてもらう権利がある」


 一つの事件が解決した札幌の街に、朝日が昇り始める。

 ホテルから出てきた睦月むつき、そして目を覚ましたステラがやってきて、四人は手を繋ぎながら太陽に向かって歩いていった。



 次回予告


 水着、それは夏の風物詩であり、男の浪漫でもある。

 夏を謳歌する彼女達に危険な任務が届いた。

 そこにメカビートル4号が発進する。


 次回、水着だよ、全員集合

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