Episode:12-3 Dead End
「――何も言わず
「……所長、いきなりどうして……」
「ちょっと、こんな夜にどこへ行くつもり!?」
所長は黙って二人を連れ出した。
「ちょっと!?」
赤色のフォーゴ・マスタンズが夜間の高速道路を往く。
ネオンが輝く中華街の一角にある中華料理店
壁には
「おかわりいいいいいいいいい!」
周囲の客の話し声、麻辣醤やXO醤の香り。
チャイナ服に身を包んだ店員が席まで料理を運んでいた。
回転テーブルの上には色とりどりの中華料理が置かれている。
そして、テーブル中央にある人形が喋りだした。
『注文は以上でよろしいアルか?』
「いきなりこんな中華屋に喚び出してなんなんですか?」
「本日付で
その要領の得ない答えに、
「運命、運命って、僕達の未来が決まってるように言わないでくれ! 未来は変えられるって今まで散々やってきたじゃないか!!」
所長は俯いたまま答える。
「……ああ、そうだ」
「ちょっと、それじゃ私達の今までは全部無駄ってこと!? 冗談じゃないわよ!」
そこに、チャイナ服の給仕が止めの声を入れる。
「お客様、店内では静かにしてください」
「うるさいわね!」
「危ないっ、伏せて!」
回転テーブルを磁力操作で浮かせ、即席の盾を作り出す。
それによって上に乗っていた料理は全て地面に落ちた。
同時に、店の外にいた不審な軍服の男達が機銃掃射を行った。
店の中に飛ぶ銃声や跳弾。
辺り一面がパニックに陥る。
「うわーーーーっ、なんだ!?」
「なんなのなの!?」
「うぎゃーーーー、何が起こってるさーーー!?」
回転テーブルで銃弾を防ぎ、
そして、物陰から飛び出した後は前へ前へと跳躍した。
「PK10億ボルト!!」
距離を詰めるとエラ状器官を開いて髪を白く発光、
その一瞬で周囲の軍服は気絶した。
そして、
「早く、厨房を通って裏口から逃げるわよ!!」
呆気を取られた
「ああ……」
驚くのも無理はない。
本物の軍隊が攻撃を仕掛けてきたのだから。
しかし、一番豹変していたのは所長だった。
普段からは想像もできない程青ざめた表情で魂が抜けたかのように座ったまま俯いていた。
「所長、逃げるって、車を出して!」
「……無意味だ」
そう呟いたことに対して、
「
「そうだ。だから今までこうしてきた」
そして、所長は堰を切ったように感情を爆発させた。
「黙って従えば我々は殺されない! それがわからないのか。逆らえば死ぬのは彼女じゃなくて周りなんだ。それで罪に囚われるのは他でもない彼女、
その言い草に、
「だからって、このまま流されろと? 従ったとしても周りが殺されない保証はどこにあるんだ。未来の保証なんて誰もしてくれないんだよ! 居場所や未来は誰かが用意してくれる物じゃない、自分で切り開く物だ! そのために所長は今まで戦ってきたんじゃないのか!?」
どこか諦めたような所長の目。
「無理だ、結局運命なんて変えられない……力不足なんだよ」
「初めから運命は変わらないって諦めないでくれ! 未来ってのは暗いからこそたとえ定められてたとしても手探りで歩む物だ! 人間は機械じゃない!」
「……フッ、それもそうだな。ありがとう。
厨房を走る
ブロブフィッシュがまな板の上に置かれている。
大きな鍋やフライパン、炎が舞う厨房。
先程銃撃があったのにも関わらず、調理を続けていた。
「コラ、お客様、ここは立入禁止アルよ!」
「ホールに戻るヨロシ!!」
コック達が部外者である
「
裏口の扉の前で振り向いた
そこに、銀色の光が奔る。
「何!?」
ティキーン!
そこにやってきたのはナース少女。
無機質な顔でただ
「アリャリャ、最初の初撃に外して失敗しちゃったよ……」
どこか反響するような声でそう言った。
「
コックの一人が皿を落とした。
その皿が地面に衝突して割れるのと同時に、
しかし、直撃しても尚走ってくるナース少女に、
「電撃が効かない!?」
――それなら!
狙いは致命傷にならないような部位。
しかし、痛みを感じないのかそのまま走ってきた。
――この身体、液体金属!?
ナース少女の右腕が振るわれる。
銀色の刃となって振るわれる腕。
間一髪で
その後ろにある扉が真っ二つにされ、
「大丈夫、私は後で合流するから! 先に逃げて!」
「所長、今のうちに車を!」
「ああ!」
路地裏を抜け、近くの駐車場へとたどり着いた。
しかし、所長があることに気づく。
「くそ……鍵を落としちまった!」
「こういう時は……」
そんな時、所長は肘を構える。
「破ァ!」
その放たれた肘はドアウィンドウを用意に破壊する。
そして、ドアのレバーを引いた。
「これで開いたぞ」
冷気が漂う冷凍室。
ぶら下がる肉の間で、
――この子、恐らく液体金属を操る
――しかし、
――それに、この躊躇の無さ、やはり暗殺者かしら……。
銀色の一閃。
目の前の肉が切断される。
周囲の肉が焼け、ナース少女……水銀で作られた
弾けた水銀は再び一点に集中し、銀色の球体になっていった。
その球体から、再び色付いたナース少女が姿を表し始める。
「本体を倒さない限り、撃破は不可能のようね!」
中華街の建物の上をワイヤーアクションさながら飛んでいく
走って
ナース少女は腕を銀色の刃に変えてそれを切断した。
無数のドラム缶が並ぶビルの屋上。
そして、ビルの下に走る赤色の車を見た。
――これなら!
横に磁力操作で跳び、ビルから落下する。
唖然とするナース少女。
彼女の前に並ぶドラム缶。
ビルの屋上が爆炎に包まれる。
そして、
「よっと……」
そこに丁度良く赤色のフォーゴ・マスタンズ……所長の車が止まっていた。
急いで車に乗り込む
「出して!」
所長はアクセルを勢いよく踏む。
車はスキール音を鳴らしながら走り始めた。
爆発により騒然とする中華街。
燃える屋上から、銀色の球体が落下してきた。
それが再び、ナース少女の姿になる。
『リライアブルはん、東区までの監視カメラを全て掌握したで~。目標の位置も送信済みや』
「オーケー了解。それじゃこれより撃滅殲滅、追跡チェイサーを行い実行する」
ナース少女は車道を走り出した。
国道に入り、走って追いかけてくるナース少女を振り切ろうと急加速させた。
強烈なGで
「所長、まだ追って来てる!」
時速50kmを超えているのにも関わらず、徐々に距離を詰めるナース少女。
彼女は腕を前に突き出した。
刹那、鋭い水銀の刃物が伸びてきた。
「危ねぇ!」
所長が叫ぶと、急ブレーキから横滑りさせて、すぐに再度アクセルを踏んで立て直し、ナース少女を逆に吹き飛ばした。
車への被害はテールランプの破壊だけに留まった。
「さすがはアメ車だ。馬力とボディの丈夫さが違うな。日本車やドイツ車じゃぺしゃんこだったぜ」
所長は過激なドライビングテクニックを披露した際にかいた冷や汗を拭った。
吹き飛ばされて溶けた水銀は再び人の形を形成する。
そこに通りかかった一台の大型トレーラー。
「おい、すごい音がしたけどオタク、大丈夫か?」
ナース少女は首を傾げる。
ドスリ、と鈍い音がした後、トレーラーの運転席からは血が流れ出た。
所長達の車は停止していた。
目の前の信号のない横断歩道に老婆がゆっくりと歩いている。
「くそ……このままじゃ追いつかれるぞ」
所長はハンドルを爪でコツコツと叩きながらイライラを表す。
「……来た!!」
フロントガラスには血が付着しており、ナース少女が真顔で運転している。
所長はハンドルを切って対向車線に移動し、アクセルを全開にする。
「やむを得ん、しっかり掴まってろ!」
向かいから走ってくる車を避けながらトレーラーとの距離を開ける。
トレーラーも対向車線に乗り出し、向かいから来る車は衝突し爆発するも、トレーラーはお構いなしに突き進む。
町中に入り、所長の車が果物屋に突っ込んだ。
大量のミカンやパイナップルが転がる。
所長は急いで体勢を立て直す。
アクセルを踏むも、果汁でタイヤが滑り、全く進まない。
「クソっ、いい子だから動け……」
所長がそう唱えると、ようやく走り出した。
車が去った後、店主が飛び出してくる。
「この野郎! なんてことしてくれやがんだ!」
その後、店主の後ろから大型トレーラーが突っ込んで来て慌てて逃げ出した。
「うわああああああっ!?」
トレーラーの通過により、果物屋は全壊した。
「なんなんだよ……」
「私の力で迎撃しちゃだめかしら?」
「あの子の狙いは
その時、突然前の信号が青から赤に切り替わり、キャリアカーが横切った。
「危ねえ!」
所長が荒っぽい運転を行い、車を横滑りさせる。
速度を落としたことで、後ろから大型トレーラーが迫ってきた。
火花が散り、所長の車の後部が思い切り破壊されてしまった。
「野郎……俺の
所長は怒りを露わにした。
トレーラーは前方の交差点を大きく曲がる。
それを見た所長は
「少し運転変わってくれ」
「ちょっと、何する気だ!?」
そして、困惑する
出てきたのはM202 ロケットランチャーとM1887 レバーアクションショットガン。
「へっ、備えあれば憂いなしってな」
「なんでそんな物があるのよ!」
明らかに場違いなそれに
所長がドアウィンドウを開いて身を乗り出してロケットランチャーを構える。
「所長、それ使えるんですか?」
「簡単だ。敵に向けけて撃てと書かれている」
そして、川に架かる巨大な橋に差し掛かった時、引き金を引いた。
爆音とともにロケット弾が放たれ、大型トレーラーの正面に命中した。
トレーラーは大きく行き先を変え、炎上しながら川へと落下した。
ナース少女はトレーラーから抜け出し、橋の車道に降り立った。
「あれは
「
意図を察した
「まさか!」
カーナビに描かれているラインが曲線を描いていた。
それは、まるで一定範囲外から出さまいと何者かによる圧力を掛けられているような感じだ。
「エデン本部のシステムが掌握された。つまりそれはハッカー……それも
「しかし、あの
その説明に
「ねえ、それじゃヘリや車を使って移動してるってことは?」
「ヘリが飛んでいればすぐにバレるはずだ。そして車だが、
「無論、ブラフの可能性もある。だから非常無線で
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