Episode:12-4 Dead End
ビルの屋上。
ノートパソコンを操作する気だるげな少年が焦りを見せ始めた。
「ほんまかいな! 嘘やろ!?」
「ウーマナイザー、状況説明を報告して」
「あかんて、アイツら、こっち向かって来よるで!」
その時、上空に
「なっ!? スタービジョン3号!」
唖然とする気だるげな少年。
「危険が危ない!」
目の前を水銀の幕が庇った。
「アリャリャ、ギリギリで間一髪って感じ~」
ナース少女が肩をすくめて笑う。
気だるげな少年には傷一つない。
その二人に警戒し、
「デモデモ~~~ワタシの操りマリオネットは消えちゃったよ。一体しか操る操作できないんだからー」
「……安心しいや、タフガイはんが奴らを追っている。わてらは目の前の敵を倒すのとちゃいますか?」
気だるげな少年の軽い冗談を受け流すようにナース少女は笑った。
「アナタは戦えない非戦闘員でしょう?」
そして、ナース少女は目の前の
気だるげな少年は、それを尻目にノートパソコンに二枚の金属板を追加する。
「キザミ、アオノリ、任せるで!」
眼帯少年が爆発の反動で摩天楼を駆る。
目標は赤いフォーゴ・マスタンズ。
所長達が相手を追い詰めるために夜の市街地を走っていると、上空に破裂音が何度も轟く。
そして、目の前にスタ……と眼帯少年が降り立った。
所長は急ブレーキを踏み込んだ。
眼帯少年はマントをはためかせながら目元を抑えて言う。
「我が名は暗炎の奏者。ブラッディ・ブルート・タフガイ!……故あって、お命頂戴する」
その名乗りに、
「……
少年は、眼帯を外し、金色の目を露わにする。
「砕の魔眼、開放!」
「油断するな、奴は
所長はショットガンを構える。
「所長!」
――相手は少年だ。
そう葛藤していると、所長は戦うよう促した。
「武器を構えろ!」
ショットガンによる攻撃を物ともしない少年。
「こういう時、引き金を引く時躊躇するな。相手は人ではない、
所長はそう言ってスピンコックで装填を行い、再びショットガンを放った。
しかし、ショットガンの弾丸は全て空中で爆発した。
――なるほど、さっきのショットガンを受けても傷一つないのはそういう事か。
「
少年はジリジリと歩いて距離を詰める。
「……」
「アンタの相手はこの私でしょ?」
そう言って両腕から赤い電撃を迸らせる。
「雷鳴と鮮血の
大仰な少年の仕草に、
「小難しい事言って……格好つけてんじゃないわよ!!」
そして、最大出力の
――縮地で懐に潜り込めれば楽になるけど……。あの水銀は自動探知で敵を切り裂く……
――PK火焔直撃破を使えば一瞬でケリは付くけど……消耗が激しくこの距離では使う前に阻止される……。
そう思索しながら
それはナース少女の範囲内に入った瞬間に水銀の刃で無惨な姿になっている。
その横の給水タンクが綺麗に切断され、水が流れ続けていた。
――大した切れ味ね。あれじゃ人体なんてもう、バターを切るように……居合の達人が
ナース少女の横には大きな水銀の球体。
「愚かな馬鹿者が! このビルはサーバーを借りてるだけ、だから普通の民間人が大勢いるんだ! アナタはそれでもヒーロー気取るツモリ!?」
そのナース少女の言葉に
「隙だらけよ、間抜け!」
水銀の槍が空中に出現し、それが
そこで
『おまたせー! ちょっと手間取っちゃったけど、このビルの制圧と避難は完了したよー!』
ステラの声だ。
ステラは軍服の男達を抱えてビルから飛び出した。
『派手にやっちゃって!』
水銀の槍が命中する瞬間、
「あいよ!」
空高くまで届き、雲を突き抜けるほどの鬼火。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前、悪霊退散!」
そのエネルギーを纏った神札が投擲され、水銀の槍を消し飛ばした。
初速の勢いを保ったまま回転して飛んでいく青白い炎を纏う神札。
水銀による多重の盾を展開するも、それらを全て貫通する。
ナース少女は気だるげな少年を抱えて飛び出した。
「くっ、危険が危ない! 後ろにバック!」
炸裂した青白い炎はビルの屋上どころか一階まで貫通し、ビル全体を炎の柱へと変えた。
「これがSクラス……!」
落下し続けるナース少女と気だるげな少年。
「あかん、リライアブルはん!」
気だるげな少年の差した先には
ナース少女は着地用に秘めていた水銀を振るって迎撃を試みるも、
気づいたときには三人とも地上に転移し、
そして、
周囲には大勢の倒れた軍服。
「
駆け寄ってくるステラ。
「ステラっち! 怪我とかない!?」
「平気平気! それより、
そこに大型バイクに跨がり、ライダースーツとフルフェイスヘルメットに身を包んだ女性が声をかける。
「GPSが回復したわ、早く乗って頂戴!」
その声は副長のものだ。
しかし、倒れたナース少女の身体から、再び水銀が流れ出した。
眼帯を外した少年は掌を爆発させ、自身を吹き飛ばして
距離を取った後、コインを数枚投げ飛ばした。
それが
「何か嫌な予感がするわ!」
「爆ぜよ、価値無き硬貨!!」
そのコインに向かって火花が進み、コインが爆発四散し、広範囲に炎を撒き散らす。
「……カリウの薬か……
そこに、爆音と煙を周囲に撒き散らしながら一台の大型バイクが走ってきた。
ヤマダ・V-RAXの1700ccクラス後期生産モデル。
P626E型 4ストロークに水冷DOHC4バルブV型4気筒。
並大抵の人ではマトモに扱えない程の馬力を持ったモンスターマシンが機体を真横に向け、横滑りさせる。
運転しているライダースーツにフルフェイスヘルメットの女が地面に足をつけ、摩擦で煙を上げながら停止させた。
そこから後ろに座っていたステラと
「水銀使いの女とハッカーは倒した。ついでに大勢の軍隊も……」
フルフェイスヘルメットに見を包む副長は、大声で
「乗って! 彼の狙いは貴方よ!」
少年は爆発の反動を使い、ビルとビルの間を三角飛びする。
「もう、狙いが定まらない!」
「貴様らの弱点なぞ把握済みよ、如何に最強の武器とてそこには必ず弱点がある……我が暗黒竜の魔眼は其れを見逃さん!」
少年がそのまま逃げる
「追わせん、馬鹿野郎!」
所長は近くに停車していた車のエンジンを、ショットガンで撃ち抜いた。
撃ち抜かれた車は巨大な火柱を上げて大爆発し、ルーフが少年目掛けて飛んでいった。
「何奴ッ!?」
ルーフは至近距離の爆発により真っ二つ。少年は二枚に裂かれたそれの間から顔を覗かせ、所長の車目掛けてコインを投げた。
「消し飛べ……」
夜空にキラリと光る硬貨を見た所長は、
コイン目掛けて火花が奔る。
轟!!
その音とともに、所長の車は爆発炎上。
粉々に砕け散ったボディが散乱する。
所長達が呆気にとられている間に少年は
「……どうするの? このままだと
「いい、このまま二手に分かれて攻略しよう。奴は
そして、
副長は狭い路地を突き進む。
ガコン!
急カーブで消火栓を吹き飛ばした。
それにより、周囲が水浸しになる。
野良猫が悠々とくつろいでいた飛び跳ね、シャーっと威嚇した。
「まだやってくる……迎撃する!」
副長は運転しながらも、
「こんな狭い路地じゃ無茶だわ。それに市街地での戦いは周囲を巻き込んでしまう。豊平川の河川敷まで我慢して!」
ビルの上を軽快に跳ぶ少年。
コインの数枚が近くに落下する。
少年の金色の目から火花が飛び、それがコインに着火、ズババババババッと連続爆発が発生した。
副長は40度まで傾けながら、豪快にそれを回避していく。
そして、バイクが無造作に置かれていたゴミ箱をはね飛ばす。
再び明るい中央通りへと抜けた副長達。
「後1600mで豊平川に着く……ここが耐え時よ!」
副長が速度を上げ、対向車を避けながら前へと進んだ。
そこに、ヘリコプターの音が響く。
攻撃ヘリ AH-64D。通称アパッチ・ロングボウだ。
『ターゲット捕捉、対地ミサイル ヘルファイア発射用意』
その狙いは副長達。
交通量が多い通り目掛けて躊躇なく放たれた。
「危ない!」
バシュウウウウウッ!
ズドオオオオオオム!!
放たれたヘルファイアは地面を木端微塵にし、街路樹、周囲のショーウィンドウや車両を吹き飛ばした。
「PK100万パワーッ!! ヤァーーーーッ!」
ステラの拳がアパッチ・ロングボウの機体尾部をもぎ取り、それをメインローターにぶん投げた。
そして、周囲が突然青い炎に包まれる。
「うわあああああああああっ」
操縦者達が慌てていると、彼らの周囲が突如見知らぬ屋上へと変わった。
「あ……?」
振り向くと
『
「らじゃ!」
休業中の
「無駄だ、貴様の衆としての
少年がコツコツと歩いてくる。
満月が雲から姿を表した。
その時、
それぞれは自動小銃で武装している。
「これは流石に分が悪い……か……」
横には気絶している副長。
このままでは彼女を死に追いやってしまう危険すらある。
満月が姿を消し、辺りが暗黒に包まれる。
「次に円鏡が姿を顕現させし刻、貴様に攻勢を向ける……運命には逆らえぬぞ、
その時は、静かに、刻一刻と迫った。
「……ショックアブソーバーを最大、パラシュート展開に失敗しなければ助かるはず。パラシュート展開とともにビーコンを出すからそっちで回収お願いします……」
そして、近くにある大型の金属板に副長を横たわらせた。
「……よし!」
徐々に雲が晴れ、再び満月が露わになる。
その時、激しい轟音と赤い稲妻が作業台の陰から何かを吹き飛ばした。
「面妖な!」
少年がコインを慌てて構える。
しかし、それが全て赤い電撃で叩き落された。
続いてやってくる無数の金属塊が周りの軍隊を投げ倒す。
少年の方にも飛んできたが、それを至近距離で爆破して防いだ。
作業台の陰から
「運命だとか、定めだとか、私達の運命を勝手に決めないでちょうだい。私の未来は、私が切り開くんだからぁぁぁっ!」
いつになく本気の眼差しが、
エラ状器官が開き、髪が真っ白に発光、周囲の金属が宙に浮き、夜空を染め上げるほど赤々とした大放電が放たれた。
少年は咄嗟の判断で爆発の反動を使い、建物の外へと出た。
「先刻までの接戦はあくまで瀬踏み……序章にすぎないという事か。では此方も出方を変えよう!」
少年は建物の通し柱など荷重の集中する部分目掛けて、数枚のコインを投擲する。
「
少年の金色の目から複数の光が奔り、それぞれのコインへと飛ぶ。
――柱の破壊……建物で私を押しつぶす気!?
それを見た
100センチほどの刃渡り、刃には
「……シルバーレイピア!」
爆炎とともに、支えを失った工場施設。
天井が勢いよく落下してくる。
彼女は八つ裂きになった天井を抜け、月夜を舞う。
そして、そのまま少年の方へと向かった。
少年は足元を爆発させ、それを軽々と回避した。
「
そして、
「何っ!?」
爆炎と轟音に包まれ、
工場の敷地内に黒煙と紅蓮の炎が立ち込める。
「勝負あったな……此れが実戦経験の差という物だ。安心しろ、手加減はした。容易く死なせはせん。生き地獄を永劫に引き伸ばしたかのような宿命を貴様に植え付けながら嬲ってあげよう」
轟々と燃え上がる炎を見てブツブツと呟く少年。
そこへ、
「
少年が振り向いた。
「フッ、
炎の中に倒れた
「この……」
ステラの目は前に露わにした別人格、
「がうううううう……」
『よせ、落ち着け! ……クソ……どうしたら!』
静止する
少年は意外にも
「ふむ、その容貌は……見覚えがあるぞ! そうだ、あの時の……そうか……蒼炎の狐巫女……此処で相見えようとは……ククククク、アハハハハハハハハハ!」
「何が……おかしい……」
理性を失いかけ、たどたどしくなる
少年は更に煽りを入れる。
「七年前の両神村大火災。我は其れを見ていたぞ! 忌々しい獣……よもや特務
その言葉一つ一つに
「お、おい、
攻撃的なステラの別人格すらも動揺する程の怒りだった。
彼女には殺人の躊躇はなくても理性はあった。
しかし、
『
「グ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアッス!」
地面を蹴り、少年目掛けて我を失って飛びかかる。
「好都合だ、貴様には何の躊躇いもない、消してやる!」
少年は後ろに跳躍しながら十数枚のコインを目の前に投擲した。
お構いなしに突っ込む
至近距離の爆発。
無数の破裂音と火炎が
しかし、それを物ともせず、
間一髪それを避けた少年は風圧だけで一撃が必殺のものであると理解した。
「其のエネルギー……まるで別の次元から引き出されているような……道……そうか……矢張りな」
少年は
「では、其れ毎貴様を木端微塵に砕いてあげよう!」
少年は腕を交差させ、金色の目に光を滾らせる。
「煉獄より舞いし紅蓮の焔よ、此処に在れ。我の力、心、魂の全てを贄に、汝らの不屈を打ち砕かん、死して爆ぜよ」
その詠唱を終えると、少年の身体が金色に輝き出した。
そんな少年に再び襲いかかる
「自爆する気!? 駄目!!」
炎の中、起き上がった
少年の身体が膨張する。
ズドオオオオオオム!!
刹那、音が消えた。
光により、影も消えた。
真昼を超える明るさ、離れていても伝わる熱量。
結論から言うと、
寸前で
彼女の目の前には黒いスポブラとスカート姿の
体中に切り傷ができ、一部は火傷を負っている。
「どうして……」
「私達……友達でしょ……だから、痛みを引き受けるから、溜め込まないでよ……!」
「……ごめん」
「友情……か……フッ」
ステラは一人、満月を背にして呟く。
静かな夜に響く声。
それはまるで先程までの激しい戦闘が嘘だったかのようだ。
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