Episode:12-5 Dead End
青白く照らされる窓際。
柱の陰にしゃがむ。
「……」
そこに、黒い軍服達が歩いてきた。
自動小銃に備え付けられたタクティカルライトで当たりを照らす。
足音が近づくと、
その呼吸音でバレないか……。
冷や汗が垂れる。
ぽたりと。
「ここから匂うな……」
その時、軍服の無線機に通信が入った。
『こちらHQ、こちらHQ』
「こちらアルファ。どうした」
『タフガイが自爆した。しかし目標は依然健在! 非常招集が掛けられたし。オーバー』
「了解。今から向かう」
その通信を終えると、隣りにいた軍服が戸惑いを見せた。
「しかし……」
「もう行くぞ」
そして、軍服達は廃ビルを後にした。
何とか助かった
――所長はきっと無事なはず……、今は
所長は
一人残された
それがさっきまでの状況。
駐車場に着いた
「頼む、メカビートル3号!」
小型のてんとう虫型ロボット。
それが車のドアを這い回り、ロックを解除した。
ドアを開き、ハンドルを握った。
その時、
銀色のやいばが当てられていた。
ルームミラーを覗くと、ナース服の少女が後部座席に座っていたのだ。
「従順に従わないなら殺して処す」
真夜中に輸送ヘリCH-47J チヌークが飛んでいく。
「……まさか!」
――あのヘリの中には
電磁波で中にいる人を捉える。
鋭く赤い目が、気を失っている
「電子機器を麻痺させ、このまま落下させる。着地寸前で磁力操作、後は乗員の制圧……!」
「な!?」
助かった
よく見ると、彼女の目は充血しており、手足も震え始めている。
カリウの薬による人為的暴走作用だ。
ナース少女は
「コイツは殺し死なせていない。交渉を有利にするための人質としての有用な価値があるからな」
「……」
その相貌を見つめるナース少女。
彼女が静かに呟いた。
「満天の星空の元、十字架に磔て磔刑に……射撃を撃つ! プレアデス!」
ナース少女は指を
指先から光の柱が射出された。
それは強力な水銀の銃弾だった。
その一撃は隣のビルの壁を容易に破壊した。
――回避は……不可能!
ナース少女の周囲に無数の水銀球が宙に浮く。
そして、それぞれ光の柱として射出された。
瓦礫の盾に直撃すると
それによって
――後、20m!
苛烈になる光の柱。
――後、10m!
その時、ナース少女は
――こんの……卑怯者!
「ムダムダムダムダ、そんな攻撃、ワタシには無効で通用しないよーん?」
しかし、赤い電撃は本命じゃない。
そうしてナース少女を油断させて
間一髪で
「……よかった、脈がある!」
引き上げようとした時、ナース少女が腕に水銀の刃を纏って走ってきた。
「チッ……」
ガキィィィィィィン!
激しく火花が散り続けるシルバーレイピアと水銀の刃。
――少しでも踏みとどまる力を弱めたらこのまま二人で地面に落下してしまう……。
――自分一人ならともかく、
「そろそろ観念して諦めたらどう!?」
ナース少女は自分の背後に銀色の蒸気を噴射させた。
水銀蒸気による推進。
――もう、力が……!
誰かを守りながらの連戦、
そこに、ステラが跳んでくる。
「……ステラ、
「お、おっと! セーフ……」
ステラはなんとか空中で
身を乗り出してビルの下を除くナース少女。
「……あと一歩でしくじったか……まあいい、奴はもう死に体の瀕死だ。刻印の儀を早々に終わらせ任務完了する他あるまい」
そう言うと、水銀が再び集結し、銀色の球体になる。
「……索敵捜索!」
水銀の塊が蜘蛛の糸のようになり、周囲に張り巡らされた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ビルに突入する際のガラスの破片で切り傷を更に増やしていた。
体力もない。
そう、辛うじて生きているに等しい状態だった。
灯りもないオフィスの一角。
――このまま逃してくれるわけないわよね……。
――!?
――これは……恐らく敵の索敵ね。
――考えなさい、私。
――
――そう、遠隔操作。
――遠隔操作をするにしても、何らかの方法でこちらの位置を探らなければいけない……。
――あの
――あの水銀は
――なら、この場合の索敵方法……呼吸音、心臓の鼓動……。
目から光が消える。
水銀の網はまだ消えない。
呼吸が止まった今、この状況が続けば
――まだなの……?
そして、水銀の網が消えていった。
瞬間、
「さあて、ドコにいったのかなー」
ナース少女の声。
――3、2、1……。
「今だ!」
ナース少女の隙をついて、
「PK荷電粒子砲!!」
ナース少女は咄嗟に水銀を盾のように展開した。
しかし、強力な一撃により、大きくよろめく。
「チッ……たわけぇ!」
体勢を立て直して水銀の槍を構えるナース少女。
「そして、聴覚に頼った時の弱点……それは!」
高圧電流を目の前に放ち、空気を爆発させた。
その爆発は特定周波数の音を生み出すように調整されたもの。
キィィィィィン。
「がっ……うっ!」
ナース少女は
「音響攻撃に弱いってね!!」
耳を塞ぎながらフラフラとするナース少女。
しかし、
ナース少女は周囲をデタラメに水銀による打撃で吹き飛ばした。
「……ここは……」
目の前には倒壊した工場がある。
近くのビルから、何かが吹き飛んできた。
ボロボロの下着姿で、全身には無数の切り傷や火傷。
ステラは咄嗟の判断で足を瞬間的に強化し、地面を蹴って飛び出した。
宙で彼女を捕まえ、筋力強化で落下の衝撃を緩和した。
ようやくスタービジョン四人が一堂に会する。
そこに、水銀の塊が飛んできた。
中からはナース少女。
しかし、最初に見たときとは違う、身体の至る部分が溶け始め、目からは水銀が溢れ始めていた。
カリウの薬による人為的暴走の限界だ。
「もう、戦うのをやめろ……これ以上は……」
「だマれ!」
ナース少女の
「ワタしらはこウするしカなかッタんダ! 刻印の儀は……おワらせル!」
身体が崩れながらもなお歩みを止めないナース少女。
「……違う、君達には力があった。君達は自分でその道を選んだんだ、そうするのは勝手にしろ。でもな、彼女たちを巻き込むな!」
「ほザけ、今の惨めニ馴れ合イヲして足掻いテる姿よリは醜悪でハナい!」
「惨めだろうが何だろうが、より良い方向に進むために足掻き続ける、それが人生ってものだ……」
「減ラず口を……アナタみたイな、なンの
水銀の刃が振るわれ、周りにあった有刺鉄線が切断される。
「……っふぅ……確かに、この力があって……苦労したことは……たくさんあったけど……後悔なんてないよ……」
それでも気合いだけで立ち上がり、ナース少女の方へと向かう。
心配そうに見つめる
「大丈夫……私は……目の前の不届き者に、おしおきをするだけだから!」
彼女達も満身創痍の身体でありながら自分自身に言い聞かせ、なんとか立ち上がり、戦いを諦めずにいた。
「皆、もう躊躇するな、全力で奴を倒すぞ!」
「持てる力、全てをぶつけるんだ!」
――あの子を……止めるんだ!
――これ以上、
――ボク達は限界、でも、それでも! 負けられない戦いがここにある!!
その時、三人のSクラス
道は金色の稲光と化し、空を金色に染め上げた。
その稲光は
背中からは白く光り輝く六枚羽、後頭部にはエンジェル・ハイロゥが出現しており、いつの間にか
そして、彼女達は10m程の上空へと飛んでいた。
「ナ……に……?」
ナース少女はその圧倒的すぎる力に畏怖を覚える。
「これは……?」
また、
「……力を象徴的に収束している……力を束ねる……これは……」
それでも、その周囲を舞う輝かしい光の粒子に心を奪われ、その先を見守ろうと改めて彼女達に微笑みかけた。
「力が、溢れ出す……これなら!」
「ああ……その力を全力で相手にぶつけろ! その技は、
その名前は、
「PK
三人の力に一人による命名、スタービジョン全てを束ねたその技は、最強無敵無双。
「PィィィィィKェェェェェェェ……、
それは赤、黄、青の三原色の乱雑な幾何学模様として視える。
そのエネルギーに対し、反射的に水銀の盾を構えるナース少女。
しかし、水銀の盾は糸を解くように簡単に霧散していく。
「イソクセエエエエエエェェェェェェェェェェェェッ」
正体不明のエネルギーの奔流がナース少女を上空へと吹き飛ばした。
浮いていた周囲の瓦礫が落下し、それと同時にナース少女も倒れ込んだ。
彼女の白く輝いていた髪は黒く艶やかなものに戻り、体中のエラ状器官は閉じる。
力を使い果たした
落下する彼女達を
「ぐっ……」
力が足りず、三人の下敷きになるような形になったが、皆が無事であったことに安堵した。
「……あのね。私、わかっちゃった」
「認められたい、必要とされたい、
夜の風が吹きすさぶ。
「え、今何か言った?」
「ううん、なんでもない、なんでもないの」
その時だった、
ジャキン!
「がふっ」
そして、ゆっくりと銀色の刃が引き抜かれ、
信じられないものを見たという面持ちで、
「
彼は市街地にまで聞こえるんじゃないかという程の音量で叫んだ。
後ろに立つのは全身から血を流すナース少女。
「我が悪は永久に不滅!」
フラフラと立ち上がり、ケタケタと笑いながら話を続ける。
「ワタシにはワタシの美しい美学がある……これで仕事完了。さらばだ、
彼女はそう言い終えると、自らの脳天を水銀で撃ち抜いた。
誰もいない夜の工場の敷地内で、
暗い空間の中、赤いローブを身に纏いペストマスクの者達が円卓を囲んで会議していた。
「刻印の儀は終わった」
「しかしスタービジョン1号の力は予想外だな」
「問題ない、全ては予定通りに事を進めております」
「ジェニー・モルガン復活のリスクは……」
「依然98.92%だが問題あるまい」
「そのためのスタービジョンだ」
「パンドラ要塞の解禁は最優先事項だからな」
「やはりスタービジョン2号が因果誘導存在か……厄介だな」
「イマニティか……アラスカでの研究はどうなっている」
「問題ない、後一ヶ月あれば実用化に至るさ」
「よい、スタービジョン5号の候補も上がった、刻印が正確に行われた以上、セフィロトも完成するだろうよ」
その視線の先には怪しげに光る赤い隻眼のガスマスク。
体格の殆どを覆う黒いマントと邪悪なパワードスーツ。
そんな不気味な出で立ちの男が現れた。
「――これでいいんだな、アレイスター・クロウリー」
アレイスターと呼ばれた男は、静かに頷いた。
全裸の少女が極寒の地に立つ。
綺麗な銀髪が月明かりに照らされ、青白く染まる。
「Freude, schöner Götterfunken, Tochter aus Elysium Wir betreten feuertrunken. Himmlische, dein Heiligtum」
歌を終えると、静かに呟く。
「始まったよ」
そして、涙を流した。
「泣かないで。アナタを取り巻く運命が、始まった」
地面にオレンジのデザインをした時計を落とす。
「この時計みたいに定められた運命がね」
TO BE CONTINUED…→
次回予告
新たにやってきたスタービジョン5号。
過酷になっていく戦い。
絆が消え、街が崩れ、日常は音を立てて壊れていく。
全てを失う中、
次回、救世超能JKs 破界編
救世超能JKs 冬見ツバサ @fuyumi283
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