第12話-1 恋の原子核
所長は一人、閉めた後の喫茶店のカウンター席で悩んでいた。
「スタービジョン1号の引き渡しか……」
渡された書類を読み通し、こめかみに手を当てた。
「俺はどうしたいんだろうな……」
その書類にはラムダ・フィールドの事が記されている。
「
「彼らの背中を支えてやるのが大人の役割だなんて大言吐くのはいいが、どうしたらいいかなんてわからないぞ。
「アンタ達は本番まで死ぬ気で練習するのよ! 口答えは禁止、何か言われたら口からクソを垂れる前にサーと返せ! その後にイエス・サーをつけなさい!」
「サー・イエス・サー」
「声が小さい! それでも誇り高き私立星見学園 高等部2-A!? ちょっと男子、真面目にやりなさい! 夏休みのナイトプールでタマでも落としてきたかしら!?」
「サー・イエス・サー!!」
「何あの米軍式は……俺達は海兵隊志願者じゃないんだぞ」
「まさに鬼軍曹でありますな……」
そこに、
「パイなんて食べてるヒマじゃないわよ!」
「そう言うな、この店のパイはおすすめなんだ」
「はぁ……後で2時間コース延長よ?」
「ぼえ~~~~~~~~~~ほげほげ~~~~~~」
その歌……とも言えない音響兵器はステラが奏でているものだった。
「ボォ~~~~~ク~~~~~はステ~~~ラ~~~~~~~~」
あまりにも酷い殺人的な芸術の冒涜に、周囲の生徒は耳を塞ぐ。
担任の女教師は苦笑いして肩をすくめる。
「先が思いやられるわね」
「いっち・にっ・さん・し、高・等・部!」
「私の!」
「貴様の!」
「我らの!」
「先生の!」
「合唱コン・優勝!」
皆は基礎体力づくりのために、校舎の周囲を走っている。
追いつくのがやっとな
「張り切ってんなー……」
後ろから、物凄いスピードでステラが通り過ぎた。
「やったー、八周目!」
「うへぇ、まだあーし達三周目だよ!? ステラっち、よく疲れないよねぇ。コツとか教えてくれない?」
「……んーっと、まず最初に全力疾走で飛び出す」
「うんうん」
ステラは手を振り回して身振り手振りで説明した。
「中盤から更に加速してスピードフルに走る!」
「うん……?」
雲行きが怪しくなった事に
「ラストスパートでダメ押し!」
ステラが満足げな顔で説明すると
「……完璧な走法ね。不可能という点を除けばだけど」
「はぁ……ぜぇ……」
そして、水飲み場の前に立ち止まり、水分補給した。
「隣失礼するわね」
隣に
「な、何よ。別に怒ったりしないっての」
――僕……やっぱり変なんだ、スタービジョンの三人といると、おかしくなるというか、冥と一緒にいると……特に。
――わからない。感情? 僕は彼女達の上司だ。こんな不完全な感情を捨てて大人にならなきゃいけないのに……。
そこに
「どうしたんだ。サボってると学級委員長にドヤされるぞ」
「なんでもない、なんでもないんだ」
「そうか……」
「キャーーーッ、誰か倒れたぞ!」
声の先では、三つ編みにそばかすが特徴的なメガネの図書委員が倒れていた。
「大丈夫か? ……俺の水筒だ、木陰で休んどけ」
――
「学級委員長、そろそろ休憩にしたらどうだ!? 人が倒れてんだぞ」
その反発には周りの多くも賛同した。
「こんなの無茶だよ!」
「虐待と何が違うんだ!」
「そうね……私、異常に張り切ってるみたい、ちょっと頭冷やすわ……30分、休憩しましょ」
校庭で汗を拭う女生徒、体育館にもたれ掛かって肩で息をする男子生徒、行列のできる水飲み場。
木陰からそんな
そんな視線に気づいた
――私の方を見てた……!?
――いや……自意識過剰……よね?
そこに、数人の女生徒がやってきた。
まだまだ体力が有り余っている合唱部の子達だ。
「ね、ね、彼とはもう寝たの?」
ストレートな質問をされた
「誰があんなやつと!」
「貴方たちを見てるとじれったくなるのよ……」
もう一人の女生徒がしかめっ面で言う。
視線を感じた
「なんの話だ?」
「な、なんでもないっ!」
「お、おう……」
予想以上の大声に
「
その言葉に真っ先に反応したのは周りの女生徒だった。
「え~~~~~っ、名前を呼び捨てしてる~~~~~~~っ」
「なっ!?」
更に追求する二人の女生徒。
「ばかぁ……」
「やっぱり二人ってデキてるじゃん!」
女生徒の放ったその言葉は
「はにゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」
可愛らしい声を漏らしながら、同時に体中に赤い電撃を放ち始めた。
「ちょ、マジでやばくね!?」
女生徒二人が戸惑う中、
「はにゃーーんじゃないって、電気、電気漏れてる!」
その行動が余計に放電を強め、
「ぎゃあああああああああああああああああっ」
しばらくして、
そう、
「え、えぇっ!?」
「バッ、これは、その、そういうつもりじゃないから! 私が悪かったから、ちょっと罪悪感あるだけ、それだけ!」
「そうか……」
耳まで赤い
「見ないでよ、恋するわよ!」
視線を感じて滅茶苦茶な事を言い始める
「
――疲れてるのは僕のほうかもな……。
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