第4話-2 新たなる少女
翌日、正午過ぎ。
晴れ渡る青空。
ペット散歩ドローンがトイプードルのリードを引いている。
横には帝産の電気駆動バスが走る。
そして、銀色のボディに赤いラインの入ったモノレールが頭上を通過していった。
「す、すまん、遅れた……」
斜めにかけた黒いバケットハット、厚底ブーツ。
そして、制服の時も、私服の時も欠かさず付けていた宝石のペンダントがあった。
サングラスを外して二人を見つめる。
「そ、その格好で来たの……?」
「……よし、まずは服だね!」
近くにある大型商店街ディエス・白石。
その中にあるアパレルショップ、
ホログラフによる試着、動くマネキンの展示。
色々な服の他、腕時計やアクセサリーなどの小物類まで揃っている。
「ケルバン・クラウスか、バングルフォンがあると言ってもこういうのがあると大人って感じするよなぁ」
「チョットー、大事な事忘れてない? 今日一日その格好で過ごす気?」
「わかってるって、僕は別に気にしないんだけどなぁ……」
「あーしは気にするの! 少なくてもそのダサダサコーデは禁止!」
「まずは
試着室のカーテンが開くと、青い肩出しキャミソールに麦わら帽子、白いフレアスカート。
普段の制服姿では思いもよらないような、爽やかな印象だ。
「地が良いからやっぱり似合うねぇ! じゃ、次これどうぞ」
次はシックなイメージの黒いジャケットに白地のシャツ。
長い黒ズボンが男性的なイメージを強めていた。
「やっぱりこういうのもチョーかっこいい! いいよ、いい!」
続いては上と下をピンクで揃え、可愛い系に。
完全に愉しんでいる
「ちょっと、これはないでしょ!」
「今のトレンドはこういうのだよ? 若い女子たるものトレンドも着こなせなきゃ!」
そして、
「流石に疲れたわ……もう、なんなのよぉ……」
くたびれた
「……待ちなさい」
「待って、僕は……」
慌てて弁明する間に、
「これからが本番に決まってるじゃない。あーしは男の子のコーデってしたことないから楽しみだけどなー」
片手に抱えきれないほどの服を持った
「た、助けてぇぇぇぇぇぇぇ!」
オレンジ色のレザージャケットに青いジーンズ。
何よりも特徴的なのはジーンズのポケットを出している事だ。
「これって本当に今の流行りなんですか!?」
「うん、うん、こういうのだよ!」
緑のTシャツに茶色のロングスカート。
「ってスカート!? 僕、男ですけど!」
「わかってないなぁ、今のメンズトレンドはスカートなんだよ!」
革ジャンに黒シャツ、腰に赤いチェックのアウターを腰で巻いていた。
「絶対これ僕に合ってないでしょ! 合ってないでしょ! ねぇ!」
「ちょっと!?」
最終的に、緑と白の横縞Tシャツに小学生らしさのあるベージュの短パンとなった。
支払いは全額
バングルフォンを操作してNIPO-POINTという非接触型決済アプリを立ち上げた。
目の前にある衣類に埋め込まれたICタグを自動スキャンし、情報を取得し、合計金額を読み上げた。
『お会計は56240円になります』
こんなにするのかと思いつつ、支払いボタンをタップした。
試着室を借りて着替えてから、商店街を歩く。
「この店内BGMは……ドヴォルザーク? 交響曲……」
言おうとしていた所に、予想外の人物が反応した。
「そ、ドヴォルザークの交響曲第九 新世界よりのEDMアレンジかな。あ、今のところはタンホイザー序曲かな? リヒャルト・ワーグナーの」
「今はこういうクラシックのチョー大胆なアレンジが流行りなんだ。あーしはロカビリーやR&Bの方が好きかなー、二年前くらいに流行ってたんだけどぉ……」
「へぇ、詳しいんだな。僕は
「何よそれぇ! マァジで失礼ね!」
「ギャルは音楽に詳しいの! 特にナウなヤングにバカウケな音楽は! そうでなきゃナイトプールもクラブハウスもダンスパーティも楽しさ半減でしょ!?」
「聞いたこともない単語ばっかりなんだけど……」
「えー、マジ? 知らないの? 今流行の若者言葉だよ?」
「アンタ達、さっきから何の話してるのよ……」
完全に蚊帳の外だった
ゲームセンター金冠。
『おめでとう! おめでとう!』
『合言葉はヴィーナスのV!』
騒がしいゲーム音が四方八方から鳴る。
「この……クソっ……」
そこへ
「代わるよ」
バングルフォンを
「……頼むわ」
お目当てはヘンテコなカエルのようなキモカワキャラのぬいぐるみ。
周りのプリンのような人気キャラはどうでもよかった。
チップチューンアレンジのエリーゼのためにが流れ、アームが動き出す。
狙いを定める。
「……そこだ!」
お目当てのぬいぐるみを捉えた。
アームで足だけを掴む。
しかし、穴にたどり着く前にぬいぐるみの海へと落ちてしまった。
「……ばか」
それから何度も挑戦したが、一向に取れる気配はしなかった。
そうしていると、
「おまたせ~~、いや~、待った~?」
ハンカチで手を拭きながらその場に来ると、クレーンゲームを前にして落ち込む二人が
「ん? そゆことか」
「これってチョットさー、コツがいるんだよねぇ~」
慣れた手付きでアームを動かし、軽いジングルとともにぬいぐるみを取り出し口から出した。
「はい、これが欲しかったんでしょ?」
死んだ魚のような目をしていた
それを見ると瞳に光を取り戻して、ぬいぐるみを抱きしめた。
それから、香水コーナーにある疑似嗅覚システムで色々な組み合わせを試したり、ボウリングで
ファミレスで軽く腹ごしらえした後はカラオケ。
流行りのJ-POPや洋楽、有名アニメ映画のテーマ曲で盛り上がっていた。
『二人はチェリー 96.5点!』
「へへん! どんなもんよ!」
「むー……」
その表情に対抗意識を燃やした
『雨に唄ってこう』
『94.0点』
「……」
『初雪』
『88.5点』
「……ッ!!」
『夏花火』
『72.0点』
「はぁ……はぁ……はぁ……」
『サウダデ』
『64.5点』
「
汗と涙を流しながら電目を血眼で見る
――こいつここまで負けず嫌いだったのかよ。
「貸して。あーしがみんなで盛り上がれる曲選ぶから!」
「とととおっと」
狭い通り道で何か引っかかったのか、
「う、うわぁっ!」
そして、ドンガラガッシャーンと大きな音が立った。
気がつくと、
「なんだこれ」
目の前から退けようと手で押しのけようと試みる。
「わっ、
「アンタさあぁぁぁぁぁぁ、この私に向かっての当てつけのつもりかしらぁぁぁぁぁ!?」
赤黒い火花が散り、周囲の空気が変わる。
「
「ぎにゃああああああああぁっ!」
その赤黒い電撃は照明も破壊し、スプリンクラーを作動させる。
そして、警報がカラオケ中に響き渡った。
夜風が吹く白石の町中。
「……あのカラオケの店主がエデン関係者だったから良かったものの、思い切り怒られたじゃないか」
アフロ髪で服がびしょ濡れの
「アンタが悪いんでしょ! そ、そ、その、む、胸を! 胸を」
「あーしは別にイヤじゃないけどねー」
「アンタもそうやって挑発しない! アイツは変態だから、またすぐ揉んでくるに決まってるじゃない!」
「だ、誰が変態だ! 少なくとも
無自覚に彼女の地雷を踏んだ
「二人とも待って待って! 周りに人いるから! ここで喧嘩はストップ!」
そこへ、一人の人影が近づいてきた。
円錐形に尖った頭巾に、長いローブの全身黒ずくめ。
見るからに不審な人物だった。
その黒ずくめは募金箱を差し出し、女性的な声で
「すみません、世界を幸せに導く愛と平和の活動に寄付をお願いします」
「私、そういうの興味ないんで」
すると、声のトーンが一気に変わり、黒ずくめは
「付きまとってやるぞ」
そこに、
「一円でいい?」
軽く舌打ちが聞こえるも、
そして、黒ずくめは去っていった。
「頼まれると断れない性格なのよ、あーしは」
「アレはクワーキー・クオリティ・クアンタム教団……通称QQQ教団。いわゆる新興宗教団体だな」
ニュースで度々目にする不審な集団として有名だ。
「あーしは宗教とかって嫌いなのよね」
「弱者が特別に感じる強者を偶像化して
さっきまでの明るい姿の面影もない暗く重い声色でそう言うと、彼女は宝石のペンダントを揺らす。
すこし自嘲気味に笑って言った。
「……にはは、ごめんね、なんか変な話しちゃった。この事は忘れてね」
実は手品が得意らしい。
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