第4話-1 新たなる少女

 いつもの通学路。

 いつものように遅刻ギリギリを争い、走っていく。

「今日は転校生が来るんだって!」

 めいの言葉に、みさおは興味を惹かれた。

「こんな時期に転校生なんて珍しいね、どんな人かな」

 めいは何故か知らないが苛立ちを覚え、ムッと睨んで話を強引に逸らす。

「私達だってその珍しい転校生でしょ?」

「それはそうだけど……」


 めいの方を向いてそんな話をしながら、みさおはT字路に差し掛かった。

 すると角の向こう側から、ホバーボードに乗って食パンを咥えた茶髪の女の子が飛び出してきた。

「どいてどいてーーーっ!」


 不可避の衝突。


 お互いに頭を激しく打ち、その場に尻餅をついた。

 地面に落ちた食パンは、スズメについばまれている。


「いてて……危ないじゃないか、こんな場所でホバーボードなんて」

 みさおは頭を抑えつつ前を向く。

 すると黒い布地が見えた。

「黒……?」

 思わずみさおは声に出す。

 その少女をよく見ると、整った顔立ち。

 ウェーブのかかったロングの茶髪。

 着崩された制服からも明らかなほど胸が大きく、太ももも魅力的だった。

 目を開いた彼女の瞳は青い宝石のよう。

 そして、その目と同じ色合いの宝石を首から下げている。

「あ、今、見てたっしょ……えっち!」

 少女は顔を赤く染めながらスカートを抑えた。

「あっ、チョーやばい! 先急いでるから、またねーっ!」

 そして、彼女はホバーボードに乗り、トラックの荷台に掴まって去っていった。



「……」

 めいはじとーっとみさおを睨む。

「いや、これは事故で」

 そんな弁明も途中で途切れた。


「変態、ド変態、Der変態!」

 電撃三連発とみさおの悲鳴が今日も響く。



 担任の女性教師の大きな声が教室に響く。

「喜べ男子共~~~っ、今日は転校生を紹介する!!」

 入ってきたのは朝衝突したあの少女だった。

 チョークを使い、電子黒板に名前を書いていく。

「ち~~~っす、あーしは大宮 睦月おおみや むつきでーす、シクヨロ~っ!」

 独特な挨拶をすると、睦月むつきは辺りを見渡す。

「あーっ、さっきのパンツ見てた人!」

 そして、突然指を差して叫んだ。

 クラス中の視線がみさおに向く。

「待って、それは誤解で、事故で、その……」

 男子生徒達がみさおへとにじり寄った。

「聞き捨てならんぞ!」

「これより異端審問を開始する。被告人、罪状はパンツ覗き」

「有罪、死刑に処すべし」

「おい! 何色だったか言え!」

 突然始まる馬鹿騒ぎ、みさおは思わずめいに助けを求めた。

天城あまぎさぁん、助けてぇ!」

 めいはそっぽを向いて知らんぷりした。

「フン、女の子の下着を見るのはそれくらいの罰が相応しいわよ」



 授業が終わり、喫茶店アルカディアへ真っ直ぐ向かう。

 電車に乗って一時間ほど。みさおめいの他に、もう一人来ていた。

「ねえねえ、今度勉強教えてよ、あーしあんまり勉強できなくてさー!」

 睦月むつきが同じ電車に乗り、同じ駅で降りていた。

 そして、同じ場所で立ち止まり、同じ喫茶店へと入っていった。

「なんでアンタがここに居るわけ?」

 めいは手を腰に当てて言い放つ。

 その答えは副長が言った。

「彼女は種子島支部から移送されてきたダブルのSクラス超能力者サイキックよ」

 睦月むつきは副長の姿を見ると、そっちに駆け寄っていく。

「あっ、マネジ!」



 エデン本部の司令室。

 睦月むつきはスタービジョンの制服に着替えていた。

 基本的には同じデザインだが、胸元のリボンの色はめいの赤色とは違い、綺麗な青色だ。

 彼女は胸元を開くように着崩しており、周りの男性職員が顔を赤らめている。

「あの、この制服さ、別に……デザインはいいんだけど……もうちょっとスカート丈短くできない?」

 睦月むつきはスカートにハサミを入れようとしていた。

「さっきからハサミの刃が通らないんだよー」

 めいは「やれやれ」と言いながらも彼女にアドバイスした。

「防刃素材だから当たり前よ。貸して、もう少し上で止めればいいのよ」

 めいが彼女のスカートを緩めると、ぐいっと持ち上げる。

「ありがとーっ、サンキュー、チョー助かるー」

 黒い下着が見えるくらいまで上げた彼女は、めいの手を掴んでブンブン振り回す。

 その様子をみさおが見ているとめいが睨んでくる。

「あっ、そこのボク、今見てたでしょ。朝もそうだし、結構見かけによらずムッツリちゃんなんだね! ま、見られても困らないし見てもいいけど?」

 睦月むつきにそんな言葉を掛けられたみさおは頭を抱えた。



 日が沈むとバータイムが始まり、店の雰囲気がガラッと変わる。

 先程まで働いていたみさおめいも喫茶店の制服を脱ぎ終え、ラフな格好となっている。


 店長はハチマキを巻き、青い法被を着て寿司を握っていた。

「店長、ビンチョウマグロと炙りサーモン、カンパチ、ホタテとエンガワと赤貝もお願い」

 みさおが皿を重ねて次々と注文する。

「あと、ハンバーグ寿司とカルビ寿司ってありますかね……」

 その不安げなみさおの問いに、店長は自信満々に答えた。

「あるぞ」

 先程まで言っていた注文全てが寿司下駄に乗った状態で提供された。

 みさおは寿司ネタを醤油につけて頬張りながら聞く。

「店長……あのさ、大宮おおみやさんってどんな子かな。今のところ痴女にしか見えないけど」

 そのストレートな疑問に店長は言葉を詰まらせる。

「ち……いや、まあ半分それは合ってると思うが、本人の前で言うなよ」

 みさおは炙りサーモンを飲み込むと理由を聞いた。

「どうして?」

「いや……どうしてって言われてもなあ。ただ、あの子はあの子なりに事情を抱えているんだよ」

 その釈然としない回答にみさおは首を傾げた。

「まだ話すわけにはいかん。時期が来たら知るだろうし、知らないほうが幸せってものもあるだろうよ」

「そんなものかなぁ」

 みさおはわだかまりを抱えたまま、ハンバーグ寿司を頬張っていた。

「やっぱりハンバーグ寿司が一番美味しいね! 店長、ドクターペパーお願い」

「頼むから寿司屋でそれ言うなよ。ドクターペパー了解、あいよ!」

 そうして二人が話していると、後ろから迫りくる影が。



「うぇーーいっ!」

 睦月むつきがいきなりみさおの背中を叩いた。

 その勢いで思わずむせる。

「な、なにするんだ……げほっ」

「メンゴメンゴ~。いやー、やっと荷物を運び終わったからね!」

 睦月むつきは軽薄に謝りながら舌を少しだけ出して笑う。

 今の彼女の姿は黒いボディコンにアウターを腰で巻くスタイルだ。

 下はホットパンツにルーズソックス、そして蛍光色のスニーカー。

 昼間はあまり注視していなかったが、ボディコンであるが故にモデル顔負けの美しいラインがくっきりと出ている。

「なんか、すごい格好だね……」

 そう言うみさおは照れた様子だ。

 生真面目でキッチリした服装のめいとは対照的なスタイルは新鮮だった。

「でしょ~?」

 睦月むつきは得意げな表情を浮かべると、ハッとなって本来の目的を思い出した。

「んと、あーしがここに来たのはそういうんじゃなくって……。明日は二時限で終わりだし、放課後に遊びに行こって誘いに来たの! 同じチームなんだし、親睦は深めたほうが良いって言うじゃない!」

 しかし、みさおは乗り気じゃなかった。

「遊びに行くったって、僕はそういうのよくわからないよ」

 不安がるみさお

「へーきへーき! あーしは色々知ってるよ、カラオケとかショッピングとかボウリングとか!」

 背中を何度も叩く睦月むつき

 みさおは苦笑いしながら、店長に明日の予定を聞いた。

「店長……喫茶店の都合は?」

 店長はニヤリとして言った。

「大丈夫だ、麗華れいかと一緒に何とかする。和をもって貴しと為す、って奴だ。行ってきなさい」

 それで行くことに決まった。睦月むつきは飛び跳ねて喜んでいる。

「にははー、ダブルデートって奴だね! いや、チョット違ったかな?」

 そして、手を広げて走りながらバックヤードへと向かう。

「んじゃ、明日はよろしくねーーーーーー! あ、制服のままで来るなよ?」

 顔を半分だけ出してみさおに一言告げると、そのまま十六夜寮へと戻った。

「……あの子も僕達と一緒に暮らすことに?」

 みさおは聞いた。

 その問いに、所長は白い歯を輝かせて答えた。

「当然だ」


――天城あまぎさんとは別の意味で嵐みたいな人だ。

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