Episode:06-4 CrewⅢ

 アロハシャツの男は指を差して命令した。

「慌てるなァ! 奴らを踏み殺せ、ブラックマンバ!」

 徐々に距離を詰めるブラックマンバ。

 巨大で鋭い脚部がみさおまで後一歩という所まで近づいた。


 瞬間、赤黒い電撃が迸り、轟音とともにブラックマンバは大きく吹き飛んだ。


「何ッ!?」

 めいが白く光る髪を靡かせながら、凛々しく立っていた。

「さっきはよくもやってくれたわね、お返し!」

 そう言うと、トランスファークレーンの残骸を磁力操作で操り、残ったコンテナにぶつける。

「ボ、ボ、ボ、ボスゥ! PSIサイジャマーが全部破壊されました!」


 アロハシャツの男は黒Tシャツの後頭部を思い切りぶん殴って怒鳴る。

「俺がなんとかする、役立たず共が!」


 睦月むつきがステラを強化外骨格パワードスーツから取り戻し、めいの所へ合流した。

「さて、総仕上げね!」

 吹き飛ばされ、火花を散らしながらも立ち上がろうとするブラックマンバ。

 そこに無数の神札とクレーンの残骸、コンテナが飛ぶ。

 慌てて操縦者が中から逃げ出し、ブラックマンバは色とりどりの爆発をして木端微塵になった。


「さて、後がなくなったわよ、お馬鹿さん」

 赤い火花を散らしながらめいは睨む。

 燃え盛る炎を背に立つ三人の少女。

 アロハシャツの男は情けなく尻餅をついたまま怯える。

「さあ、観念する気になった?」

 めいの言葉に、アロハシャツの男は震えながら両手を上げる。

「ああ、降参だ。全く、仕方ない……仕方……」

 ゆっくりと両手を下ろし……。

「なくねえええええよ! ヴァアアアアアカ!! この沙羅曼蛇サラマンダー タマキ、ただではやられん!」

 そう叫ぶと、男は内ポケットから何かを取り出して、勢いよく地面に叩きつけた。

 ガラスの割れる音、広がる紫色のガス。

 咄嗟にめいが空気を爆発させてステラと睦月むつきを遠くに吹き飛ばした。

 めいはそのガスを吸ってしまい、酩酊状態に陥る。

「何を……」

 アロハシャツの男は笑いながら答えた。

「クックック、超能力者サイキックを暴走させるカリウの薬さ、貴様の醜い本当の姿をさらけ出せ!」


「止まらない……うぐ……あああああああああああああああああああ!!」

 叫びが轟く。

 赤黒い光が天に向かって一直線。

 雲を突き抜け、周りのコンテナやアロハシャツの男を吹き飛ばし、更地へと変えた。



 みさおは目を覚ます。

 すると、周囲は瓦礫やコンテナの山だった。

 目の前には黒々とした柱が立っている。


「皆は!?」

 すぐに周りを捜索した。

 近くに倒れていたステラと副長はかろうじて無事そうだった。

 睦月むつきはコンテナの山に足だけ出していた。

「んんん~~~~~っ」

 三人で協力して彼女を引っ張り上げる。

空間跳躍ジャンプすればよかったのでは?」

 開口一番そんなことを聞いた副長。

「ぷは~~~っ、あーしの力は空間が把握できないとうまく使えないんだってば! ……ってなんだこりゃ!?」

 睦月むつきは深呼吸すると、周囲を見渡して慌てふためく。

「何、何、どんな状況?」


 空が赤黒い。

 そして、異様に黒々とそびえ立つ柱。

「おい、天城あまぎさんは何処だ!?」

 本部からの連絡が来た。

『ただいま、スタービジョン1号の位置データ……送信しました』

 みさおはその位置情報を確認すると、思わず声を荒げる。

「そんな……あの柱が……天城あまぎさんだって言うのか!?」

 よく見ると、黒い柱の中に、赤く縁取られた人影が見える。

「コナ……イデ……」

 赤い火花がみさおの目の前に散った。

 副長は状況の解析結果を伝えた。

PSIサイの暴走、これは危険な状態ね、あの子自身が力を制御できていない、このままだと肉体ごと崩壊するのよ……」

 その事実に、みさおは顔面蒼白になる。

「まだだ、緊急用PSIサイリミッター剤注射!」

 バングルフォンで緊急キーを入力し、めい首輪型通信機サクラメントからPSIサイの発動を封じるリミッター剤注射を試みる。

 しかし、信号すらも拒絶。

「信号を電磁バリアで防いでいる……なんて出力!?」

 距離にしてわずか500m程。

 それなのに電波信号がかき消された。

 副長はその桁違いな力に驚く。


「なら、至近距離で信号を送るしかない! 大宮おおみやさん、僕をあの近くまで飛ばしてくれ!」

 みさおは、睦月むつきに駆け寄る。

「無茶だよ、みさお君は普遍人類ノーマルでしょ!? チョー無謀だって!」

 睦月むつきは止めようとする。

 しかし、みさおは一歩も引かない姿勢を見せる。

「……もーしゃーないなー。でも死なないでね」

 睦月むつきは頭をかきながら彼のお願いを受けた。

「僕は現場主任だ、死ぬわけにはいかないよ」

 みさお睦月むつきに密着する。

「じゃ、ボクは陽動に出るね! ボクだけなにもしないのは違うでしょ!?」

 ステラは足の筋力を異様に膨張させ、めいの前へ出た。


 みさおが一拍置くと、大声で命じる。

「……スタービジョン、緊急出動ディスパッチ!」


 ステラは地面を蹴ってめい赤雷レッドスプライトを避ける。

 一発一発が即死級の一撃。

 コンクリートの地面を溶かし、衝撃すらも風の刃と化す。

「ヤメ……テ……」


 その間に睦月むつきは座標演算を済ませ、みさおめいの傍に飛ばす。

「ヤバっ!」

 睦月むつき空間跳躍ジャンプさせた瞬間、ミスに気づく。

 否、それはミスではない。

 みさおめいからやや離れた位置、100m程の距離に転移されてしまった。

めいちゃんの周りの空間がゆがんでる! 本当に彼女って発電能力エレキネシスだけなの!?」

 睦月むつきは空間座標系や熱力学以外の科学的な知識はほとんどない。

 それでも、この光景は異様だと理解していた。

 睦月むつきのような瞬間移動テレポートはあっても、空間そのものを操るという能力は文字通り前例がない。

 みさおは信号を放つも、届かない。

「100mでも届かないか……こっちでなんとかする!」

 みさおはそのままめいへと近づいた。

 赤い火花が散り、黒い風が吹き荒れる。


――残り80m程。


 足元に赤黒い電流が迸る。


――残り60m程。


 黒い風がみさおの小さな身体を押し戻そうとする。

「ここまでか……!」

 まるでランニングマシーンの上を走っているかの如く、全く前に進めない。

 諦めかけた瞬間、何かが飛んでくる。

 フォークリフトだ。

 睦月むつきがステラに渡し、その後ステラが投げ飛ばしたもの。

 それはめいの落雷で分子レベルで分解される。

 しかし、その間は隙になった。

「行って!」

「ありがとう!」


――残り30m程。


「止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!!」

 バングルフォンで信号を送る。

 赤い稲光がみさお目掛けて放たれる。

「止まれ~~~~~~ッ!」

 めい首輪型通信機サクラメントが信号を受け取り、リミッター剤を首に注射した。

 すると、周囲の赤い空は千切れるように消え、めいを覆っていた黒い光は霧散した。

 服は完全に焼き消え、全裸のめいが姿を表す。

 めいは力を使い果たしたのか、その場に倒れ込む。

 みさおは彼女の元に駆け寄り、受け止めた。

「アンタ……無茶しちゃって、ほんとにバカね……」

 涙を流すみさおめいは優しく髪を撫でた。

 みさおは彼女に深緑色の上着をかけた。



 数日後の喫茶店アルカディア。

 みさおは無事退院して、バータイムのカウンター席に座っている。


「店長、カツ丼……」

 遠慮のない注文を笑顔で受ける店長。

「あるぞ、あいよ」

 一瞬でカツ丼が出てくる。

「ったく、病み上がりだってのにこんなもん食うのはどうかと思うがな」

 みさおはカツを頬張りつつ答えた。

「育ち盛りだからこそと言ってくれ。病院食は美味しくないんだ」

「そうか? 昔よりはマシだよ。……後、食べながら喋るな」

 店長はみさおが知らない苦労を思い出しながら語る。


「しかし、あの件で完全に情報統制もうまくいかなくなったぞ」

 店長は樽を振りつつ、エデンの現状をみさおに伝え始めた。

「第三艦隊の件も含めてちらほら露呈して、国内の反超能力者サイキック・反エデン感情は再び高まりつつある」

 みさおは頭を抱えた。

「ふりだし……と言うより前よりも酷くなってるか……」

 店長は落ち込むみさおに優しく声をかけた。

「不安か……? なんならこっちで学校に連絡して彼女らを特別欠席させることも」

「大丈夫、スタービジョンはこっちでなんとかやっていくよ。ここで諦めちゃ今までの積み重ねもパーになる」

 暗い表情でも前向きなみさおに、店長は笑顔で答えた。

「そうだな、いざとなったら上層部の力でも借りるさ」

 みさおはカツ丼を食べ終わると、ドクターペパーを飲み干した。

「頼む」


 みさおは少し熟考してから、店長に話し始めた。

「……店長、僕とめいの未来について何か知らないか?」

 店長は即答した。

「知らんよ、君達の運命は君達の物だ」

「そう……」

 相槌をうって、十六夜寮へと戻った。

 店長の持っていた端末には、M2019のブラスターが表示されていた。



 次回予告


 スタービジョンを逃げ場所にしているめい

 その精神の弱さが作戦に支障を来たした。

 落ち込む彼女にみさおは優しい言葉をかけられなかった。


 次回、曇り空、そして

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