Episode:06-3 CrewⅢ

 コンテナターミナルにあるコンテナヤード。

 ガントリークレーンやトランスファークレーンの下に大量の貨物が積まれている。

 フォークリフトや作業用人型重機ワークロイドが動き回り、荷物を運び入れていく。


「突然倒れたりしたけど、大丈夫かしら」

 副長が尋ねる。

 みさおは近くにあるベンチに寝そべり、氷で額を冷やしていた。

「……大丈夫だ」

「ならいいわ。そろそろ時間よ」

 副長が目的の場所へと歩き出し、みさおもそれに着いていく。


 しかし、取引の場には誰も来ていなかった。

 副長はバングルフォンで時刻を見ながら、苛立たしげにつま先を鳴らしている。

「もう時間はとっくに過ぎているのに……」

 みさおは悪寒を感じた。

「嫌な予感がする……!」



 誰かの足音がする。


「ヘヘヘヘヘ」

 コンテナの影から現れたのは筋骨隆々のガラの悪い男達だった。

 既に四方を囲まれている。

 彼らはナイフや鉄パイプといった武器を持っていた。

「特務超能力者サイキックのガキ共だ……」

 みさおは相手の素性を言い当てる。

超能力者サイキック狩りか!」

 瞬間、めいみさお達の前に出て、両手に赤い電気を纏わせた。

「そう、なら、手加減なしでやっちゃうわ!」

 前髪から赤黒い火花を散らし、腕を十字に交差して放射電撃を放った。

 しかし、思ったよりも出力が出ない。

 普段であれば、目の前の男達を一撃で気絶させられるものが、彼らまで届かない。

「力が……! どうして!?」

「あーしも縮地ができない……どうして!?」

 睦月むつき空間跳躍ジャンプもわずか数センチのみしかできなくなっていた。

 戸惑う彼女達に、男の笑い声が響いた。

「クククク、ハハハハハハハ!」

 その笑いに、副長は察する。

PSIサイジャマーね……」

「ああ、そうだ。超能力者サイキックという殺人兵器を破壊するためなら必要な手段さ。まんまと騙されおって、特務機関とやらも大したことはないようだ」

 目の前から歩いてくる顔に入れ墨が入った金髪サングラスにアロハシャツの男。

 PSIサイジャマー。特殊な高周波を発生させ、無意識下に干渉し超能力サイキックの発動を封じる装置だ。

 Sクラスともなると、かなり大型のものが必要で、それでも完全には封じれない。


 超能力者サイキック狩りの男達の中で、三人が前に出る。

 天然パーマが特徴的な二十代くらい。

 それぞれ、黒い無地のTシャツに1・2・3と数字が振られていた。

「我々は、黒の三兄弟」

「俺は三兄弟では二番目に強い、トライゴン・タロウ」

 彼はトンファーを回しながらポーズを決める。

「オイラは一番目より弱いが三番目より強い、トライゴン・ジロウ! ホワーーーーーーチョゥ!」

 彼はそう言ってヌンチャクを振り回す。

「ワシは三兄弟の中では中間くらいの強さの織田 信長おだ のぶなが(自称)じゃい!」

 彼はそう言って蛇腹剣を構える。


 どう見てもギャグテイストな三人だが、持っている物々しい武器にみさおはつばを飲み込む。

 めいとステラは前に出る。

「……そこで大人しくしてて!」

「油断するなよ」

 みさおの忠告にめいは静かに頷いた。


「行くぞ、兄者、弟……ジェット・ブラザーズ・アタックだ!」

「おうさ!」

 黒の三兄弟は合図を取り合うと、それぞれの武器を振り、めい達の命を狙わんと襲いかかる。



 めいとステラはその大振りな攻撃を掻い潜り、格闘術だけで三人を下した。

「ボ、ボス……アイツら強いよ!」

 三兄弟の一人がアロハシャツの男に泣きつく。

 アロハシャツの男はそれを蹴り飛ばし、右手を挙げる。

強化外骨格パワードスーツ部隊、前へ」

 すると、コンテナが開き、白黒に赤いランプを搭載した強化外骨格パワードスーツが中から出てきた。

 基本装備はライオットシールドに暴徒鎮圧用電磁ロッド。

 中には電磁ロッドの代わりに五連装リボルバーを持っているものや武器を装備していない姿もある。

「……警察もグルってわけか」

 みさおは声を上げる。

「忘れたか、超能力者サイキック狩りはどこにでもいる」


 アロハシャツの男が無情に右手を振り下ろした。

れ」

 強化外骨格パワードスーツが一斉に走り出した。

 めいは、彼らのライオットシールドを構えての突進によりノーバウンドで壁に叩きつけられる。

 ステラは胸ぐらを捕まれ、腹部を電磁ロッドによる強打され、感電と衝撃で気を失い、失禁する。

 副長と睦月むつきみさおに五連装リボルバーが向けられる。

 絶体絶命。

 副長がM92F拳銃を取り出しながらみさおに耳打ちをした。

「いざとなったら引き金を引いて。演習でやったでしょ?」

 みさおは、オルゴール館で見た幻像を想起させ、拒否した。

 僕がめいに向かってブラスターの引き金を引いた生々しい感覚。

 命の危機を感じる今でさえ、それを超える嫌悪感はなかった。

「僕は銃を撃てないんだ……」

 副長はそれでも拳銃を押し付ける。

「でも、このままだと皆死んじゃうのよ!?」

 圧に押され、拳銃を受け取る。

「……話をしてくる」


 みさおが前に出て、拳銃を構えた。

「彼女らに手を出すな」

 その小さい姿を見下ろし、アロハシャツの男は吐き捨てるように言った。

「つまらん脅しだ」

 そして、鼻で笑いながら続ける。

「貴様は俺を撃てまい。その手の震え、殺人童貞だな」

 彼の言う通り、みさおの手は震えている、手汗も足の震えも、青ざめた表情も、殺しをしたことがないという他ない。

 それは、みさおに拳銃を渡し、自身も拳銃をアロハシャツの男に向ける副長も同じだった。

 そんな彼らに、アロハシャツの男は軽く言った。

「俺は17人殺したさ。捨てられた超能力者サイキックのガキなぞ、人間社会にとって害虫でしかない」

 その言葉はみさおに怒りを覚えさせた。

「そんな酷い事、一体誰が!」

 みさおの目線に苛立ちを覚えたアロハシャツの男は彼の胸ぐらを掴んだ。

「あの超心理学の権威、オーボラ・ウソツキーが言ってんだよ!」

 アロハシャツの男はみさおを威圧しながら続ける。

「デタラメだ、そんな人知らないし、そんな権威に縋って彼女らを殺そうってのか!」

 アロハシャツの男は真っ直ぐな眼差しのみさおを投げ飛ばし、彼の横っ腹に蹴りを食らわせた。

 みさおの小さな体は、軽く遠くのコンテナまで吹き飛び強打する。

 グシャ。

 メガネが割れ、口から血を吐いた。

 彼の肺の空気が全て吐き出される。

みさお君!」

 その姿に睦月むつきは叫ぶ。

「やかましい!」

 そんな睦月むつきに対して銃弾が飛んできて太ももを貫通した。


 悲痛な声を上げる睦月むつきを見て、みさおは血を纏めて吐き出し、強い口調で聞いた。

「一つ聞いていい? PSIジャマーって封じるPSIにも限度があるはずだけど……。僕達が油断するふりをして、本当は超能力者サイキックを使った反撃を企んでたりするかもしれないとは思わない?今、この瞬間とか!」

 ゆっくりと起き上がる満身創痍のみさおに対し、アロハシャツの男は大声で笑った。

「ハハハハハハハ。面白いことを言う、この周囲のコンテナには八基の大型PSIジャマーを仕込んでいるんだ、それに、それを知ったからって、その身体で何が出来るっていうんだ! 貴様らは死ぬだけだ」

 みさおは俯いた。

 そして、背中に隠したリモコンを入力する。

「そうか、なら! 出てこい、メカビートル!」

 その大声と共に、地響きが近づく。

「なんだなんだ!?」

 それは睦月むつきの表情を明るくさせた。


 地中から勢いよくメカビートルが飛び出す。

 青く丸い甲虫みたいなボディに八輪の車輪、先端には角の代わりに巨大なドリル。

 背中の前羽が開き、ジェット噴射で飛び上がった。

「いつのまに飛行機能を!」

 周囲のコンテナをドリルで破壊していく。

「な、なんだありゃあ!」

 慌てる超能力者サイキック狩り。

 その間に副長がめいの目を覚まさせ、睦月むつきみさおの元に駆け寄る。

 青い甲虫はコンテナヤードをものすごい勢いで破壊していき、火花が散り、爆炎が舞い散る。

 クレーンが倒れ、フォークリフトや作業用人型重機ワークロイドを巻き込んだ。


 アロハシャツの男が無線機を取り出し、焦りながら命令を出した。

「ブラックマンバ、急いで出撃だ!」


 貨物上屋から何かが飛び出した。

 黒く四脚の大型重機。

 前方には尖った作業用の爪が装備されている。

「ブラックマンバ……XT-092!? あんなものまで!」

 みさおは驚いた。

「奴をスクラップにしろ!」

 見かけによらず大きく跳躍したそれは、空を飛ぶメカビートルにしがみついて爪を食い込ませた。

 メカビートルは火を噴きながら高度を下げ、地上で爆発四散した。

 ブラックマンバは華麗に着地すると、狙いをみさお達に定め、ゆっくりと迫りくる。

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