第6話-2 月をみるひと
青のランデルギーニ・ガヤルドが高速道路を走り、小樽へと向かった。
「どうして小樽……?」
「ドイツで開発された新型の
「だからってどうして僕達まで……」
前方の座席に座る副長と
皆休日らしくラフな格好だ。
最低限の準備として
「最終調整が必要だからって向こうからの指示なのよ。それは仕方ないじゃない?」
「仕事で行くにしては皆さん観光気分過ぎません?」
そう言う
副長は片手で運転しながらコーヒーを飲み干す。
「まあ時間もあるから遊んでていいよって感じね、こういう時は羽根を伸ばすものよ」
「イェーーーーーイ!」
ステラと
水路が縦横無尽に広がり、ゴンドラが行き来する。
カラフルなレンガ造りの建物、異国情緒漂う町並みが広がっていた。
沿岸部や運河の広い部分には駆逐艦が行き来しており、道路には軍用車両が停まっていた。
『ようこそ、水の都、小樽へ、ここでは……』
スタービジョンの女子三人は露店で買ったソフトクリームを食べながら歩く。
「あんなに朝食食べてよく食べるよな……太らないんだろうか」
「いてっ、いてっ!」
「ほんっとーにデリカシー皆無すぎるんだから……」
ガラス細工の店。
照明が数々のガラス細工を照らし、色とりどりで幻想的な雰囲気を出していた。
棚に並んだ赤い獅子、青い狐、緑の龍、黄色のモルモット、紫の蜂。
それは
「そういえばいつもその宝石を着けてるよね。それはなんなの?」
「
ガラス細工の青い狐を見つめる彼女の悲しげな目が印象的だった。
その狐の視線の先には、白い魔女と黒い騎士、ピンクの天使が置かれていた。
薄暗く狭い路地が続き、その間にも水路が張り巡らされている。
「なんだか迷路みたい……」
「そうだね。昔は簡素な運河だったのだが、オセアニア戦役後の対ソを意識した軍拡の一貫で、軍事物資の内陸部への輸送、広い場所に艦隊を配備できるように五度に渡る改築が行われたからね……今では日本海軍管轄の軍用都市って感じだよ」
目の前の大きな運河に出ると、巨大な戦艦が通り過ぎていった。
可動式の石橋が下り、信号が青になって向こう岸へと渡れるようになった。
「しかし、どうして対ソの軍備だけ異様に重要視されてるんだろう。オセアニアだって日本の仮想敵国なわけだけど……。それに各国での戦艦の復元もそうだし、石狩の陽電子砲なんかは明らかにオーバースペックな気がしてるんだ」
「大艦巨砲主義なんて前時代のものだもの、まるでここ数年で軍備が第二次世界大戦に戻ってるような気がしてならないんだ。まるでソ連でもオセアニアでもない別の何かと戦うような……」
その言葉に、副長は暗い表情を浮かべる。
「少し黙りなさい」
気づけば皆黙ってしまい、ステラ以外は暗い表情で歩いている。
「ねーねー、皆どうしたのー? ニコニコしていないと幸せは逃げていくんだよ?」
「今そんな空気じゃないわ」
「……せっかく観光に来たのにこれじゃ……」
ステラがうなだれると、それを副長が叱った。
「観光じゃなくて仕事よ、履き違えないで」
ますます空気が悪くなる。
「悪い、僕が原因かもしれない……」
「そういうのがムカつくってのよ」
「えっとー、ボク、なんかお腹空いてきちゃったなー! アハハ」
ステラが空気を変えようと、一つ提案を出した。
かまぼこ工場直営店。
テーブル席に着いた五人は、かまぼこをパン生地で包んで揚げたかまぼこロールを頬張っている。
そんな彼女達の姿を見て、
――僕は彼女達の事を何も知らない。
――否、この世界のことすらもろくに知らないのかもしれない。
――誰も教えてくれないから……。
――違う、知ることを拒んでいるのか?
――僕は怯えている。
――何に?
「食べないの? 食べないなら貰っちゃうよー?」
ステラが食いかけのかまぼこロールに齧りついた。
「あっ、こらっ!」
「あっ、じゃあ代わりにボクのあげるよ。食べかけだけど」
その時、
「ちょっと、か、か、か、間接キスとか考えなさいよ!」
赤くなりながら手をブンブン振る彼女に
「え? そんなに変なことした?」
「ふ~ん、
そして、かまぼこロールを
「ねえねえ、あーしのも食べる? 美味しいよ! はい、あーん」
「へぇー。そ・ん・な・に美味しいんだ」
「え、
「うるさいっ!」
赤黒い電撃が迸り、
オルゴール館。
洋式で倉庫のような広い店内。
多種多様な心地よい音楽が流れる。
「
「まあね~」
様々な音の中で、ある音色を聞き取った。
「これはトロイメライね」
綺麗で癒される音色が心を包む。
「ねえ、いいのあった?」
そこに
「ったく、二人でベタベタしてないで、ほら、こっちにも一緒に来てよ!」
――……一緒に。
そうして
その時、
親しい人が死んでいる。
周りの命の灯が消えゆく中、自分だけが残った。
恐らく
理由は知らないが何故かそう理解できる。
目の前には、
今から何年経った姿だろう、美人でスラリと伸びる手足、凛々しい顔つき。
滅びゆく町の中、M2019という文字が彫られたブラスターを構える。
――WHELIMOT FARATCOS...
――TEDVENTH WHEPATATIE...
そんな歌を歌う彼女。
「殺して……」
白い羽根が舞い、視界が花びらに包まれる。
――因果誘導存在。
――サイクリック宇宙論。
――螺旋円環世界。
――運命の接続点。
『私はアンタを……愛してる……』
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、なんなのよいきなり……」
突然店内で叫びだした
実はフェンシングが得意らしい。
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