Episode:09-4 A Nightmare on NO.6

 みさおは先程の行動から、双子の役割分担を大まかに推測した。

 厄介なのは催眠能力ヒュプノシス

 これさえ突破できれば勝ち目があると睨む。

「右にいるミチルって方が催眠能力者ヒュプノシストだ! 天城あまぎさん、島風しまかぜさんの同時攻撃で突破だ、眠らされる前にケリをつけるんだ! 大宮おおみやさんはいざとなったら空間跳躍ジャンプで彼女らをアシスト、いいね?」

「うん!」

「おっけ!」

「ラジャー!」

 そして、三人はアイコンタクトをとる。

「ゴーゴーゴーゴーゴー!!」

 みさおの合図にあわせ、ステラとめいが突っ込む。


 ミチルは精神系超能力者サイキック特有の敵意を察知する感覚で狙いを察した。

「げぇ、あの敵意、こっちを狙ってる! 私は複数催眠を行う。チルチルお姉さまはアレを!」

 ミチルは手を交差させ、指で輪を作った。

「アレね。わかったわ!」

 チルチルの方がスカートの中からワルザーPPS拳銃を出した。

「あんな物騒なもの、どうやって手に入れたんだ!」

 車内でのM1918を思い出すみさお

 超能力者サイキックに武器を与え、暴れさせている組織でもあるのかと推測した。

 しかし、それは頭の片隅に置く。

「用心しろ、相手は銃を持っている!」

 チルチルの正確な拳銃射撃。

 それは、夢空間ナイトメアを応用した睡眠学習による産物だ。

 ステラはジグザグにステップを踏むことで、めいは電磁バリアを展開することで銃弾を逸らした。

「ステラ、飛ぶよ!」

 めいが合図を出し、ステラと共に跳躍した。

 目標はミチル。

 二人は拳を構える。

「PィィィKェェェェェ、ツインドッグゥゥゥ!」

 激しい衝撃音が響き渡った。

「やったか!?」

 みさおは手を握って言った。


 バリスティックシールド。

 ミチルが咄嗟にスカートから取り出した軍用の防弾盾が、二人の拳を受け止めていた。

 二人は生身の彼女らに攻撃するために手加減していたのだが、それ故に盾で防がれてしまった。

 そして、それは二人にとって大きな隙となった。

「羊が二十匹ィィィィ!」

 催眠能力ヒュプノシスを受けたことにより、めいは眠る。

 元々眠っていて催眠能力ヒュプノシスは効かなかったものの、咄嗟にめいを受け止めたステラ。

 空中制動を失った二人は勢いよく後ろへと投げ出され、電車の最後尾を越え、線路の上へ。

「二人共ぉぉぉぉぉ!」

 みさおは最後尾の車両から叫ぶ。



 双子はみさおに狙いを定める。

「厄介な司令塔ね。先にあっちから潰しちゃいましょ?」

「わかったわ、チルチルお姉さま」

 チルチルは拳銃をみさおに向ける。

 そこに、睦月むつき空間跳躍ジャンプで急接近した。

「あーしの事忘れてないかにゃ!?」

 その声にチルチルは向き直り、睦月むつき目掛けて発砲した。


 トンネルに差し掛かる。

 お互いの姿が見えなくなる。

 トンネルの暗闇に電車の音、そして銃声と爆音が響く。

「ッ!」

 マズルフラッシュや睦月むつきの鬼火で断続的にお互いの緊迫した表情が露わになる。

「はぁっ!」

 お互いに一歩も譲らない攻防。

 睦月むつきが本気で発火能力パイロキネシスを使用すればここのトンネルごと消し飛ばせる。

 しかし、それをしないのは乗客を巻き込みたくないがためだった。

「守りながら戦うってこんなに大変なのよね!」

 睦月むつきは肩で息をしながら銃撃を回避する。


 トンネルを抜け、再び両者が見える。

 双子は目に隈ができ、充血し始める。

 睦月むつきは疲れが見え、胸の星が点滅し始めた。

 お互いに体力の限界だ。

 双子はカリウの薬βによる副作用で身体に毒素が回り始めている。

 それでもチルチルは拳銃で睦月むつきを狙った。

「テレポセパレーション!」

 睦月むつき空間跳躍ジャンプを繰り返し、分身を作り出した。

 銃弾が命中するも、その睦月むつきは分身で、通り抜けていった。

 再び睦月むつきが一人になり、双子の方へと走っていった。


――もう縮地はできない……けど、鬼火なら!


「ミチル!」

 チルチルはミチルに催眠能力ヒュプノシスの発動を命じる。

 しかし、そうはさせまいと睦月むつきが神札をミチル目掛けて投げつける。

「させない! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前、悪霊退散!」

 ミチルの周囲に神札が貼り付き、そこを起点に青白い炎が吹き上がる。

「きゃあっ!」



 めいは地面に激突したときの衝撃で目が覚めた。

「あらら……置いていかれちゃった……どうしようかしらね」

 線路の上でめいがうなだれる。

「大丈夫、ボクは速度なら自信あるよ!」

 自信満々なステラ。

「でも、もう私は……」

 しかし、めいは体力の限界だった。

 胸の星が点滅し始めている。

「そうだ!」

 めいは名案を編み出した。

 空中に浮いた自身を起点に、直径5m程の電子ビームで輪を作り出した。

「PKパンジャンドラム!!」

 その輪は徐々に太くなり、回し車のようになる。

 それは車輪のように、線路の上に乗った。

「これでどうするの?」

 ステラは首を傾げる。

「決まってるじゃない、アンタがこの回し車でハムスターみたいに走るのよ!!」

 当然という顔でめいは言い放った。

「ええええええええええええええええええええええええっ」



 ステラが筋力を最大まで強化し、電子ビームの回し車を加速。

 レールによる電磁加速もあり、速度は時速300kmを越えていた。

 余裕で追いつく。

 最後尾の客車に迫る。

「乗り上げるよ!」

 壁をつたい、勢いよく上に飛び上がり、車体の上へと乗り上げた。

「うわあぁっ!」

 みさおは慌てて端に避ける。

 電子ビームの回し車はそのまま双子の方へと向かう。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 ミチルは睦月むつきと攻防を繰り広げながら、それを見て睨む。

「邪魔! 羊が三匹!」

 強烈な眠気がめいを襲う。

 それによって、回し車が解除され、空中にいためいは再び後方へと投げ出される。

 みさおめいに命令を出した。

天城あまぎさん、自分に向かってPKエレキボールだッ!」

 めいは空中でなんとか眠気と戦いつつ、手に赤い球電を作り、天高くへと飛ばす。

 それは、フラフラと動きながら、再びめいの元に戻ってきて直撃した。

 バッチリと目を開けためいは磁力操作で再び電車へと張り付いた。

 胸の星が点滅し始めている通り、残りの力はほとんどない。

 それでも、前へと進む。


 双子は焦った。

「くそ、こうなったら、死なば諸共!」

 二人共スカート中からロケットランチャーを取り出した。

 構えた先はめい達ではない。

 電車の向かう先、前方の線路だった。

「いけない、ロケットランチャーで線路を粉々にするつもりだよ!!」

 ステラは声の限り叫んでめい達にそう伝えた。

 遅かった。

 ロケット弾が放たれ、線路へと一直線する。

 暗い夜に目立つ爆炎を上げ、前方の線路が粉々になった。

 ステラ、めい睦月むつきはすぐに飛び出した。

 電車は破壊された線路を越え、足場を失いバランスを崩す。

「こいつには解除したとはいえ爆弾もあるんだ、下手に衝撃を与えれば乗客も犠牲になる! 皆、頼む!!」

 みさおは通信で指示を出した。


 睦月むつきとステラは先頭車両を抑えて全力で減速させる。

 めいは電磁力を操り、横転しないように車体のバランスを取る。

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 前方には森。

 このままの勢いで激突したら多数の怪我人どころか死者が出る。

 一歩も引けない。

 めいは今までの事を思い起こす。


――私は……この力を……。


「護るために振るうって決めたんだァァァァァァ!!」

 火花を散らしながら草原を横滑りする車体。

 九両がジグザグに折れ、森へと向かう。

 エラ状器官から黒い液体が垂れ、それが赤い火花へと変わり、その赤黒い電撃が全ての車体を包む。

「うわああああああああああああああああああああっ!!」

 電車はギリギリの所で衝突を免れた。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 全員が満身創痍だった。

 皆の胸の星は光が消えている。

 もうPSIサイは使えない。



 そこに、目を真っ赤にして全身から血を吹き出す双子がフラフラと歩いてくる。

「こうなったら道連れにしてやるヨぉ!」

 全身が血の噴水と化しながら双子はまだPSIサイを使おうとしていた。

「バカな!」

 みさおはその姿に驚愕する。

 カリウの薬βによる肉体のリミッターを外した結果だ。

「私達は……望まれてなかったのよぉ! でも、それでもこうしてェ……周りを不幸にすれば……相対的に……私達が幸せになると思って!」

 チルチルは涙を流しながら嘆き叫ぶ。

 みさおは真っ向からそれを反論した。

「そんな事、無理だ! 憎しみは憎しみを呼ぶ、君達だって幸せになれる方法はあったんだ! 力は人を傷つけるためじゃない、人を幸せにするためにある、僕達は君達のことだって!!」

 大声でそれを否定する。

「黙レ!!」

「……君達は悪夢を見ているんだ、だから、今から、覚まさせてやる!」

 みさおは彼女達を憎悪から開放することを決意し、足を引きずりながら歩きだす。

 メガネは割れ、端末は砕けている。

 服はボロボロで手足には無数の切り傷。

 その姿に、睦月むつきは手を伸ばして止めようとした。

「無茶よ!」

 めいが残った力を振り絞って駆け寄る。

「待って、アンタ、何をするつもり!?」

 心配するめいみさおがなだめる。

「大丈夫だよ、天城あまぎさん。今の僕は誰にも負ける気がしないんだ」

 めいは涙を流して呆れる。

「ばか……無茶するなら、私も一緒!」

 めいみさおの手を握る。


 双子は吐血しながら再びPSIサイを行使する。

「悪夢を見るのはおまえ達だ! その微塵も力の残ってない惨状で如何するつもりか!?」

「ファファファ、悪夢にうなされたまま、死ねい! 羊が十匹!」

 催眠能力ヒュプノシスのフィールドが広がる。


 めいは目を瞑って静かに呟く。

「確かに今の私には力が残ってない」

 今までサポートをしてくれたエデンの司令室の人達を思う。

「でも、信じてくれる人の想いが!!」

 日常を支えてくれた学校の友人達を思う。

「願いを託してくれる人の心が!!」

 一緒に戦ってくれる睦月むつきやステラの事を思う。

「未来を委ねてくれる人の魂が!!」

 そして、みさおを思う。

「届いてるんだからあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーー!!」

 その思いが、一つの力ととなり、道になった。

 金色に輝く稲光とともに、白く光り輝く六枚羽とエンジェル・ハイロゥが出現し、めいの白く光る髪と合わせて天使のような姿にも見えた。

 衝撃が周囲の芝生を撫でる。


 エデン本部では混乱の様子だった。

『ありえない……全ての数値が振り切れています!』

 女性オペレーターがコンピューターによる計測に驚愕する。

『覚醒……!?』

『さあ、でも、どうして』

 誰もが理解を超える事態だった。


 真っ直ぐ前の敵を見つめるめいの肩に、みさおが手を乗せる。

「行こう、天城あまぎさん」

 めいみさおの方を向いて頷く。

 二人は同じように拳を振りかざす。

「これが私の!」

 めいは全体重をその拳に乗せる。

「僕の!」

 みさおは強く握った拳を前へ、前へと突き出す。

 想いを束ね、力を一つにする。

「私達の、ゼンリョクゼンカイ!」

 めいは前方に巨大な赤黒い球電を作り出した。

 そして、二人はその球電を殴り抜ける。

 球電は雷撃の槍と化し、赤い電撃で出来た獅子の頭を持つ龍"ガオウ"へと変化した。

「PKガオウ・ギガボルト!」

 お互いの好きな生物を組み合わせたかのような中国神話上の伝説の生物。

 二人の心象を模したエネルギーが双子を捉える。


 瞬間、夢空間ナイトメアによって諸共取り込まれた。

 しかし、ガオウはその程度では止まらない。

 天球のような、書割のような夢の壁をガオウはすぐに食い破る。

 パリーンとガラスが割れるように破壊された夢空間ナイトメアを見て、双子は慌てふためく。

「ギャオオオオオオオオオオオオオ!」

 ガオウが吠える。

「ミチル!」

「羊が百匹ィーー!」

 目から血を垂れ流しながらミチルは催眠能力ヒュプノシスを放つ。

 それも多重に。

 しかし、直進するガオウは催眠能力ヒュプノシスを次々と割っていく。

「――!!」

「ゴオオォォォギャオオオオオオ!」

 能力による干渉を食い破りながら突き進み、頭部から姉妹を丸呑みした。

 そして、無数の赤い火花となってガオウが散ると、姉妹はその場に倒れ込んだ。


 その力の代償はめいみさおにも回ってきた。

 めいの羽は消え、エンジェル・ハイロゥは粉々に砕け散った。

 そして、彼女の白く光る髪が元に戻り、その場に倒れ込んだ。

 みさおも彼女の放ったガオウに体力を吸われたからか同じように倒れ込む。



 エデン付属総合病院 101号室。

 めいみさおはそこで目覚めた。

「ここは……」

 見知らぬ天井。

「も~~~、やっとめざめたぁ!」

 睦月むつきは涙ぐみながらベッドに顔を埋める。

「僕達は……」

 みさおはぼんやりとした記憶しか残っていなかった。

「勝ったんだよ! 死者も重症者も0! あーしらを除いてね! でもめいちゃんもキミと同じだよ! 大丈夫!」

 みさおはふと、双子が気になった。

「あの双子は?」 

「彼女達は病院で毒素を取り除かれて治療を受けたから無事よ~ん」

 睦月むつきはその後に付け加える。

「その後はあーしが殺しておいたよ」

 その物騒で睦月むつきから出たとは思えないワードにみさおは跳ね起きる。

「こ、殺し!?」

 睦月むつきは慌てて彼を抑えてベッドに寝かせる。

「わー、ダメダメ、絶対安静ってゆわれてるんだから! 別に命奪ったわけじゃないってば。別の人として生きるってコト!」

 その言葉にみさおは安堵する。

「あのドラゴンに噛み砕かれたお陰で記憶が消えているっぽくてね~」

 良かったのか良くなかったのかわからない報告にみさおは耳を傾ける。

「それにほら、あーしの能力って発火能力パイロキネシスでしょ? だから、炎で顔を変えてエデンの手引きで遠い山奥の村でひっそりと超能力者サイキックとかそーゆーしがらみから抜け出して開放してほしいなってコト!」

 炎で顔を変えるという物騒なワードに背筋を冷やしつつ、それなりに無難な処置をされたことにみさおは安心した。

「しかしあのドラゴンはどういうコト? あの時めいちゃんには少しも力が残ってなかったんでしょ?」

 それはみさおが知りたいことだった。



 暗い空間の中、赤いローブを身に纏い、ペストマスクをつけた長身の者達が円卓を囲む。

「報告は以上です」

 岩松いわまつが事の顛末を伝える。

「ふむ、下がってよい」

 岩松いわまつが暗闇に消えると、それぞれは話し合いを始めた。

「想定よりも早い覚醒であったな」

「100通りのパターンに含まれているさ、問題はない」

「それよりもスタービジョン2号の影響がイレギュラーになりかねんな」

「我々の計画に支障が出る場合は軌道修正を行わねばな」

「因果誘導存在、厄介だな」



 次回予告


 デート。

 それは、関係性の分岐点。

 人の愛、青春、果たしてそれは正義のヒーローにそれは必要なものなのか。


 次回、一方通行の分岐点

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