第9話-2 夢幻列車
蝶が舞う。
その蝶の儚い一生は夢の如し。
否、その蝶が現実なのだろうか。
「
目が覚めると、そこは
カーテンを開けると日差しが差し込む。
「あっ、もうこんな時間!」
アラームを握力で破壊して走り出す。
母親がキッチンから顔を出した。
「
そう言って美しさと未来が塗られたトーストを渡される。
「大丈夫、
「あら、そうなの、でもプロセスは読んで行きなさい。ほら、貴方も、古ぼけたマリモを読んでいないで! 会社に遅れても三月にはできませんからね!」
「わかってるっつーの……。しかしこの家は朝から自転軸のズレたキャビンアテンダントみたいにコントラストがハッキリしてるな」
父親がぶっきらぼうな声で返す。
いつもの通学路で
「もう、遅いじゃん! 早くしないとニーソックスが焼き切れちゃうよ!」
「ごめんごめん、でも結果的に満塁ホームランで良かったじゃない」
空の上に
『――夢だ、夢を見せられている、目を覚ましなさい! 敵が来ている!』
瞬間、周囲に赤い稲光が発し、皆が焼け死んだ。
「
途端、施設で手を無理やり引っ張られて実験させられた光景、父親に化け物扱いされて捨てられた光景、
「う、うわあああああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
やがて、声が枯れて音にもならない叫びを上げる。
轟!!
巫女服の幼い
自分の頭には青白い炎の耳、尻からは九本の鬼火で形成された尻尾が生えていた。
「やだ……ああ……」
誰もが死んでいく。
否、自分が殺したのだ。
「たす……けて……」
炭化する少年が助けを乞う。
「この疫病神が……皆の者を返せ!」
長老のような立場の老人が叫ぶと、焼死体となった村人が炎の中から立ち上がり、
――望んでこの力を得たわけじゃないのに!
ステラは薄暗い部屋に居た。
カプセルの中、全裸で液体の中に浮いていて、泡が浮いてくる。
周りを見渡すと、自分と同じような姿が無数にあった。
「……?」
傍に置かれているオシロスコープ、見つめている白衣の男。
徐々に消えていく周りに居る自分。
オシロスコープは直線を描き、次々とピーーーーという音が流れる。
SIGNAL LOSTの文字がカプセルの中に浮かび上がっていく。
次々と。
ステラはその状況を理解できなかった。
――オレの中のオレ……何をしている……。
――ここは任せとけ、だから、現実を頼むぜ、オレ。
ステラの中に、何か得体の知れない声が響いた。
そして、ステラは夢を見たまま目覚めていく。
ステラに止まっていたカラスアゲハが飛び、
レストールカスタムという黒いギターを投げつけられる。
「お前なんか、生むんじゃなかった! どうして彼に似てるんだよ! ふざけないでよ!」
母親にギターを振り回され、追いかけられる。
それはナイフに変わり、何度も刺される。
痛みを堪えつつ、ただひたすら母親に止めるよう叫び続ける。
「やめて……母さん!」
鬼のような形相をする母親に違和感を抱いた。
「違う……さっきまでギターを持っていたのに、ナイフに変わっている……これは、夢だ! そうだ、今は作戦中だ、ここで眠ってる訳にはいかない!」
――覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
しかし、念じるくらいでは夢は覚めない。
「どうしたら……」
夢から覚ますには夢であると強く自覚する必要がある。
深層心理の何処かでここを現実だと思っているのだろう。
――なら!
「母さんの望み通りにしてやるよ!」
母親の手首を掴み、ナイフを自分の首元まで持っていく。
血が溢れ、母親の顔に返り血がついた。
「ぐあああああああっ!」
夢とは思えないほどリアルな感覚に思わず叫ぶ。
母親は涙を流していた。
「嘘……」
「大丈夫だよ、母さん。心配しないで、さよなら。ありがとう」
首を触り、なんともないことを確認した。
目を瞑ったまま立っているステラ。
ステラの姿勢に「器用だな」と思いつつ、目を擦りながら呟く。
「皆眠らされていたのか……?」
その独り言に、ステラが反応した。
「起きたの?」
「
「なんか急に眠気が襲ってきて……。それよりも、周りの状況を見たほうがいいかも……」
見渡すと目を瞑った人々が、ゾンビのようにふらつきながらこちらに向かってくる。
「……
そして、ステラは駆け出す。
「イエス・サー!」
「ヴォアアアアアア」
一人の男性客がステラに襲いかかる。
軽くそれをかわし、後ろから掴まえ、勢いよくブリッジの姿勢で叩き落とす。
「PKジャーマン・スープレックス!」
マダムがアイスピックを持ってステラの頸椎を狙うも、ステラは筋力を爆発させて跳躍。
着地した後、背中から持ち上げる。
「PKバックブリーカー!」
次々と襲いかかる乗客を次々と技で撃破していく。
「PK水車落とし!」
「PK岩石落とし!」
「PKボディ・スラム!」
「PKブレーンバスター!」
最初に襲いかかった男性客がブリッジの体勢のまま起き上がってあるき出す。
目はまだ開いておらず、
ステラは逃さず抑えつけ、関節を決める。
「PKスピニング・トーホールド!!」
「うぅ……うぅ……」
呻き続ける
「起きて! 攻撃されてる!」
「ひはいひはいひはいひはい、何するのよ~~~っ!」
目を開き、
そして、恒例の寝坊助こと
「
激しい閃光が
「あぎゃあああああああああっ」
「あふぅ……も~~~~~、何も電撃浴びせることないじゃん!」
「そうじゃないと起きないからだ」
――来る時に車内が静かだと思っていたら客は皆眠っていたんだ……。
――薬物や暗示による催眠であれば全員を眠らせるのは相当手間だろう、十中八九
――それに、こんな同時に悪夢を見るのは偶然にしては出来すぎている……これは敵の能力だ。
――そしてこの夢遊病らしき人々……。
「恐らく相手の能力は
「了解!」
「おけまる!」
「イエス・サー!」
USE THIS MASTER KEYと書かれた壁に備え付けられている赤い斧を手に取り、その姿見を叩き割った。
「懸念材料はおおよそクリア。頼むぞ、皆!」
そして斧を置いて、端末を片手に持ち、バイタルデータ、メンタルデータを表示する。
「重要なのはメンタルデータだ。
暗い田舎道を走る電車。
車両から漏れる窓明かり、警笛、通過音が静寂の中に轟く。
『爆弾を見つけたわよ!』
「でかした!」
「この手の爆弾魔はぬいぐるみに爆弾を仕掛ける癖でもあるのか?」
首を傾げる
「前みたいに回路を焼き切ればいいかしら」
「待って、この速度計がどういう意図のものか調べる」
そして、そのぬいぐるみにそれを落とす。
小型のてんとう虫型ロボットが爆弾の周りを這い回った。
メカビートル3号。
「これは、速度が時速80km以下に落ちると爆発する仕掛けだ。カーブに入ったら必然的に速度が落ちる……このルートだと次のカーブは32km先……現在の速度は時速106km、18分しかない!」
爆弾の電子制御部分にサージを発生させて無力化すると、
「電車内の乗客全員が人質兼あやつり人形って事? 許せない……!」
同じ怒りを抱いていた
「……一緒に行こう!」
ゲームが得意でゲーセンの女帝という異名を持つらしい。
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