Episode:08-4 Stand by Mei
夕食後の十六夜寮。
ご飯もロクに食べず、荷造りを進める
ラップを掛けた焼鮭とキャベツの千切りにはラップがかけられていた。
キッチンで皿洗いする
「ねえ、本当は
「余計なことしないでくれ」
「身体を重ねればきっとわかりあえるから、あーしがやり方教えてあげる」
「やめろよ、気持ち悪い」
外で雷が鳴る。
「……そんな言い方ないでしょ」
「ごめん、わるかった。でも、そんな気持ちで抱きたくない。今君を抱いたらきっと、君じゃなくて
「本当に酷いね。あーしは誰かのためになりたいだけなのに」
彼女の言葉に
「そうやって皆としてるんだな」
だから今この場で、それに対しての嫌悪感を吐き出した。
――他者を救うとか他者の為になる事をするという形で他者を見下して、自分には価値があると認めたいだけだろ。
しかし、スタービジョンの関係性を壊したくない以上、それを言葉にするわけにはいかなかった。
何より、先程所長に言われた通り、
「女の人が嫌いなんだ?」
気まずい空気が流れる中、
「皿、あーしが拾うよ」
「いい、そういうのが余計なお世話で気味悪いって言ってんだよ」
彼女は繋がりを欲してるから。
「
「ねえ、
あまりにも鬱陶しく感じた
「うるさい! そういうお節介をやめろって言ってんだよ、土足で人の心にズカズカと踏み込んできてさぁ」
その怒りの圧に押され、
「……ごめんね」
そこにステラが下着姿でリビングにやってきた。
ゴミ箱に奇妙な紙くずが入ってるのを見て、それを拾い上げた。
その衝撃的な姿を見た
「こら、ステラっち、そんな格好で徘徊しないの!
「え~~~。涼しいのに……ぶーぶー!」
駄々をこねるステラを宥めながらリビングから去っていった。
「ほら、部屋に戻って!」
誰も居なくなると、
「どうせ、僕には主任なんてできないよ……」
翌日、雨が上がり、綺麗な朝日が登る。
「お世話になりました」
背後にある段ボールは後日引越し業者が来て
最後に
「いいか。ここから出ても監視の目は光ってる。自由なんて何処にもないんだ。そのつもりで。じゃあ、元気で。君といた時間は楽しかった」
返事はない。
ドアが閉まり、お互いにもう会うことはないだろうと思っていた。
十六夜寮を出て、バス停へと向かった。
雨上がりの水たまりができた道路。
近くにある二階堂精肉店の看板からは雫が滴っていた。
帝国女学院の横を通り過ぎる。
雨に濡れたCCCヘアサロンのサインポール。
左にある車道には少ないものの車通りがある。
――もう、私には関係ないんだ!
ふと、ラベンダーの香りが立ち込める。
目を開くと、見渡す限りのラベンダー畑だった。
振り返ると、白いワンピースを着た金髪の女性が立っていた。
「母……?」
瞬きをすると、その姿はステラに変わっていた。
「えっと、ボク、こういう時なんて言えばいいかわからないけど。これから新しい場所で元気でやってね! さようなら!」
その言葉だけを聞いて
バスの時間に遅れてしまう。
「あ、待って!」
ステラが引き止めつつ、駆け寄ってきた。
何かを手渡した。
一枚のくしゃくしゃになったメモ用紙。
「えっと、昨日リビングで見つけたんだ。えっと、とにかく読んでほしい! それじゃ!」
それだけを言い残してステラは走り去っていく。
涙の跡が滲んだ紙には、書いてる時は手が震えていたのだろうと思うほど汚い、しかし確かに
『ちゃんとしたもの食べてなかった●だろうし。天城さんの分、冷蔵庫にあるよ。また一緒に食べよう。●●●ごめんなさい』
何度も書き直した形跡、黒く塗りつぶした場所。自分と同じでコミュニケーションが苦手なんだと
――不器用なやつ……。
――アイツはいつも破廉恥な事してきて、世間が天才少年とか言う割には
――でも、どこか似てるけど違ってて。
――違う……。
――違うから……何?
――この気持ちはなんなの……。
啓明ターミナル行きのバスが横を通り過ぎる。
――お互いにすれ違ってるのは、違いを知ることに怯えてるから?
――何に怯えているの。
――変化する事?
――違う、傷つく事。
――でも、それじゃ私はいつまで経っても変わらないのかも。
思いを胸に秘め、行くべきだったバス停とは反対方向に。
十六夜寮の方角に。
それでも立ち上がり、泥だらけのまま、十六夜寮へ走る。
インターホンを押した。
ドアを開けたのは
「忘れ物?」
その言葉に、思わず
謝罪、言い訳、怒り、あらゆる感情が入り乱れ、何を話せばいいかわからなくなった。
「ただいま」
一言。
それだけが
それが
「おかえり。先に風呂に入ろう」
わずかで小さな一歩だけれど、不器用な二人の距離は一つ縮まる。
夜になると、十六夜寮の一部屋に再び灯りがついた。
――カンペキじゃない僕達だからこそ、これから始まる物語があるんだ。
次回予告
それは
夢の世界で自らのトラウマと立ち向かう彼女達。
勝負の行方は!?
次回、夢幻列車
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