Episode:08-3 Stand by Mei
エデンの所有する軽装甲機動車が雨の中を走る。
後部座席に座る
「久しぶりだね」
猫撫で声のようでありながらどこか怒りを込めた
「そうですね」
淡々と返すだけの
「全部影で見てたよ。君の愚行は」
カプセルホテルの監視カメラ、ゲーセンに入り浸る姿をドローンによる空撮、川沿いで不良と喧嘩している所の衛星写真。
「そうですか」
その後、
「監視カメラや諜報部は使いたくないとか、人に管理される生活に同情したとか、全部ウソだったんですね」
その姿勢に苛立ちを覚えた
「今の君にはそういう手段が必要だっただけだっての!」
それから、汚い雨合羽やボサボサの髪を見て言った。
「非行を繰り返してほっつき歩いて気は晴れた?」
しばらくの無言の後に小さい声で返した。
「……わからない」
「スラム街での出来事は権力と
それから、
「で、スタービジョンは続けるの? やめるの? どっち」
俯く
「わかってるわよ……やればいいんでしょ、やれば!」
「そういう気持ちでやってるのが一番嫌なんだって。居直ればいいとでも思ってるその逃げようとしてる思考がね。嫌ならまた元の生活に戻れよ……。僕は
はじめは冷静になっていたものの、堰を切ったように感情的になる
「でも、私がやるしかないんでしょ? 私がSクラスの
どこまでもヘーコラする態度は
「何かあれば
「君は最初からそうだろ、現実から、親から、状況から逃げて、逃げ続けて、それで仕方なく特務
「やっぱりアンタじゃ私と分かりあえなかったね。さよなら」
「そうやって他罰的な所が気に入らないんだよ……」
エデン本部。
『EDEN ID CARD NAME:
そう記されたカードが細かく十字に刻まれ、破壊される。
「これで貴方はこの組織の人間ではなくなった、荷物をまとめて出て行くがいい」
黒服の人が
副長がエデン本部の噴水広場にやってきて思い悩む。
「本当に良かったのかしらね。あのままじゃ何処へ行っても嫌われるか利用されるしかないわ」
「しかし、この件は上にどう報告するんです?」
副長の率直な疑問に、所長は答える。
「まさか、上がこの程度の事態予想してなかったわけもないだろう」
「代案もあるさ。恐らくな」
「恐らくって……」
どこまでも計画性のない所長に副長は呆れの声を漏らした。
端末を操作しながら去っていく所長は副長に一言伝えた。
「ソ連にトリプルのSクラス
その回答に副長は絶句する。
「ソ連って……それに、まるで使い捨ての道具みたいに……所長の今の言葉は
所長はその言葉に少し時間を置いてから重苦しく答えた。
「運命の奴隷……か……。それは我々も含めてじゃないのかね、
「それはどういう」
意味深な言葉だけを残し、所長は地上へと向かった。
バータイムの喫茶店アルカディア。
外には激しい雷が鳴る。
見かねた店長が
「どうだ、ドクターペパーでも」
「要らない」
それから、少し悩み、現状を言葉に変えていく。
「変だな、始めのうちはうまくやっていけそうだと思ったのに。お互いに似た境遇に同情してだったか。でも、彼女と僕は違ったんだ」
今までの出来事を思い出す。
――ねえ、アンタはどうして監視カメラや諜報部を使わなかったの?
――アンタの見せてくれた外の世界がすごく綺麗だったから、少しでもいたいって思っただけ。別に他意はないわ。
――ねぇ、アンタとなら、特務
店長はその問いに至極真っ当な答えを返した。
「そりゃそうだろう、お前はお前であの子はあの子だ。同じはずがない」
店長はそこから続ける。
「一種のポリアンナ症候群みたいなもんだな」
「最初の内なんてお互いのいい部分しか見えないもんだ。それが人間関係って奴だよ」
「長く一緒にいる内に本質や嫌な部分が目に入る。それを乗り越えた時に本当の絆が生まれるんじゃないかな」
「わかってる!」
「人は誰もが仮面を被って生きている。彼女だって"ホントウノワタシ"を殺して、特務
それから、火災現場での救出作業の後の事を思い出した。
あの日の夜、彼女は弱音を吐いた。
――私ね、精神的に弱い部分があるってわかってるの。だから、力強く生きるライオンに憧れてる。
あの時は無理やり話を断ち切った。
弱い彼女を見たくなかったから。
「僕はそれに気付いてやれなかった。でも、僕の理想は強い特務
カウンターに拳を叩きつけ、俯く
店長はそんな彼に優しく声をかけた。
「だったら本当のあの子も認めてやりゃいい話じゃないか」
しかし、
「そんなの……あの子のパーソナルスペースに踏み入るのは怖い」
変な所で怯える
「無理とは言わないだろ? あの子はまだ高校生なんだぞ。お前だって小学生だけどな。子供達同士ってのは未熟故に何度もすれ違うさ。否、大人でもすれ違う……だからこそ何かきっかけが必要だと思うんだ」
店長の言葉を聞いても、
「もう遅いよ。あの子はエデンとはもう無関係、民間人だ」
「本当にそう思ってるなら今更そこまで気を掛ける必要もあるまい、お前自身の気持ちはどうなんだ」
店長の問いに
店長は構わず続ける。
「まー、なんだ、飯でも作ってやればいい。困った時はそれが一番よ。同じ釜の飯を食えばなんとかなるさ」
「……それでなんとかなったら苦労しないよ。ほっといてくれ」
言われた通りに彼から距離を取り、グラスを洗い始めた。
「デリカシー皆無の割に変な所で繊細なんだよな。いや、お互い様か」
「おい、ゴミくらいは持っていけ。ここは一応店なんだ。汚くするな」
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