第9話-1 夢幻列車

 ビルの屋上。

 燃える街並み。

 黒く煙が上る。

 超能力者サイキックが起こした最終戦争。

 目の前に居るのは成長しためいだ。

 M2019という文字が刻まれたブラスターを握る。


――WHELIMOT FARATCOS...


――TEDVENTH WHEPATATIE...


 またも、そんな歌を歌う彼女。

「殺して……」

 みさおはブラスターの引き金を引いた。



「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 思わず飛び起きた。

 いつもの天井。

 アラームは20時を表していた。

 それが現実じゃないと知り安堵する。

「またあの夢だ……」

 落ち着いて、額に手を当てながら呟く。



 目を擦りながら洗面室に向かうと、所長が歯を磨いていた。

「起きたか」

 みさおはあくびをしながら自分の歯ブラシを取った。

「昼に寝て夜起きるなんて考えられないですよ」

 昼夜逆転生活。

 これも次の任務に備えての事だ。

 遡ること一日前、とある夜行鉄道に爆破予告が届いたのだ。

 そして、今日はめいの新しいIDカードが発行され、再びエデン所属の特務超能力者サイキックとして活動できる日だ。

 復帰後の活動という事で気合を入れるべくめいみさおで決めた事だった。

 もちろん、育ち盛りの昼夜逆転は成長に響くとエデン職員の反発もあったが、二人なりに考えたことという事で所長は二つ返事だった。

「ステラとめいはもう起きてるぞ。今は寝坊助二人を起こしに行ってる所さ。飯も食っていくぞ、中華のデリバリーとドーナツだけどな」

 キッチンに人数分の白い紙箱に入ってる中華のデリバリーと、ドーナツの入った箱が置かれていた。


 副長、睦月むつきを起こし、食卓に全員が揃った。

「腹ごしらえをしたら君達は札幌駅まで直行。いいな。じゃ、いただきます」

 所長がそう言って手を合わせる。

 みさおがテレビをつけた。

『今回の札幌市長選。市長は怒簑どみの、副市長は日座鳩ぴざはとという結果になりました』

「意外な結果だな……たしか以前が膝荒ひざあら市長、天鳳てんほう副市長か……」

 以外な結果にみさおは驚く。

 所長はそれに冷めた反応をした。

「傀儡に過ぎないさ。この都市の行政は全てソロモンⅢが担っている」

「へぇ~。あの変なの、予知確率とか難しい事言ってるだけじゃなかったんだー」

 ステラがチャーハンを食べながら面白がる。

 行儀の悪い姿にめいは厳しく指摘した。

「ステラ! 食べながら喋るんじゃありません」

「アハハハハ、タイチョーってなんかさ、ドラマでよく見るお母さんみたいだね!」

 ステラは笑いながらめいからかう。

「お母さん……」

 めいはお母さんという言葉の意味に自分と好きな人を重ね、顔が真っ赤になる。

「いや、違うから!」

「何が?」

 みさおは首を傾げる。

 そのいつもの様子に睦月むつきが眠い目を擦りながらもニヤニヤと笑う。



 女性の鳴き声のようなドリフト音を鳴らし、札幌駅前に青のランデルギーニ・ガヤルドが停まった。

 スタービジョン四人が走って改札を通り、ホームへと急ぐ。


 夜の札幌駅に停車している北海道高速交通100形鉄道。

 白いボディに青いラインが施された九両編成の磁気浮上式鉄道車両。

 全体に角張っており、全面ガラス張りの前面が特徴的。

 ニセコ始発で小樽、札幌、滝川、富良野、帯広、陸別、北見へと経由して向かっていく路線だ。

 一日二本しか通っておらず、ほとんどの駅には停車しないという特徴を持っている。

 内装はボックスシート配置。

 電光掲示板に「21:15 麻倉あさくら行き特急」と表示されている。


 車内の機関部のタコメーターが七色に発光する。

「トライセル始動」

望代もちよ運転士。甘空あまそら駅から眠そうですが大丈夫ナンスか?」

 駅員が心配そうに聞く。

 その運転手は目を瞑っていた。

 まるで、眠りながら起きているように。

「問題ないよ」

「そうですか……」

 駅員が安全点検を確認すると、合図を出す。

「出発進行!」

麻倉あさくら行き特急、リニア鉄道。出発しまーす』

 汽笛が鳴り響き、出発を知らせる。


「待ってーーーーっ!」

 ホームにある自走式販売ロボットを避け、駆け込み乗車を行ったスタービジョン四人。

 扉がプシューーーという音を立てながら閉まり始まる瞬間、睦月むつき瞬間移動テレポートで車内へと空間跳躍ジャンプした。

「……セーフっ!」

 ガコンと揺れ、周りの景色が流れていく。

『スタービジョン、目標車両に乗り込みました』

 エデン本部の女性オペレーターが告げる。


 周りを見渡すと妙に静かだ。

「きしゃ~きしゃ~はっしっれ~ボクらをのせて~みらいをのせて~ご~ご~」

 頭に響く妙な替え歌を歌っているステラを除けば……。

 そして、何よりも気になるのが不自然に置かれた姿見。

「へぇー姿見なんて置いてあるんだねぇ。なんか、ちょーいと怖いよね。誰かが姿見に化けてたりして! 未練的に姿見になりたーいとか?」

 睦月むつきは縁起でもないことを言った。

「早朝に髪型直せって事なのかな」

「気にし過ぎっしょ!」

 睦月むつきはポジティブに前髪を整えて背を向けた。

 心なしか、その時に鏡が笑った気がした。


「すみません」

 その時、後ろから幼い声がした。

「切符拝見しております」

 小学生くらいの背丈に、ダボダボの服装を着込んだ車掌。

 顔までは見えず、ブカブカの袖を振り回す姿は何かのキャラクターのようだった。

 みさおは仕方なく(o・▽・o)という顔文字が刻印されていた切符を渡す。

 車掌は何度もペコペコと頭を下げながら袖から改札鋏を取り出し、切符に切込みを入れる。

「ありがとうございまーす」

 次々と起こる不条理にみさおはフリーズしかける。

「な、なんだったんだ」



 車掌の姿が車両から消えた頃、四人は向かい合う座席に座って作戦会議を始めた。

「この鉄道に爆破予告が届いている」

 みさおは説明し始める。

「こちらの読心能力者サイコメトラーで読み解いたが僅かな残留思念からPSIサイの力を検出した。恐らくこれは超能力者サイキックの事件と捉えていい」

 しかし、周りは騒がしい。

 もちろん、そんな客は自分達の他には居らず……。

「おい、聞いてるのか!」

 大量の駅弁が積まれ、うどんを現在進行系ですするステラ。

「うまい! うまいよ! これうまい!」

 そして、うどんを一箱食べ終えるとラムネに手をかける。

「えっと、このビンってどうやってあけるんでしょー?」

 横に居た睦月むつきがラムネを取り、ビー玉を親指で落として見せる。

「ああ、これはこうやって、ビー玉を落とすんだよ!」

「わーーーー、すごーーーい。ありがとーーーー!」

 泡が溢れ出し、慌てるステラ。

 睦月むつきがその心配をしていると、めいがトランプの手札を差し出す。

「むっ、次はアンタの番だよ!」

 めい睦月むつきはババ抜きをしていた。

 睦月むつきが手札を選ぶたび、表情を変えるめい睦月むつきは笑い転げる。

「にはははははは、もー、それじゃバレバレだよ!」

 指摘するとめいは膨れる。

「何よ、早く引きなさいよ!」

 睦月むつきは少し考えてから、悪い顔を浮かべる。

「えーっと、メイカワイイネー!」

 そう言いながら、容赦なく睦月むつきはハートのジャックを引いた。

 めいの絶望する顔に、睦月むつきは更に笑う。


「コラーーーーお前達ーーーーッ!!」

 みさおは修羅モードとなり、小学生ながら圧倒的な恐怖を体現する姿へと変貌した。

「修学旅行に来たんじゃないんだぞ、全く、少しは慎みと節度を持った行動をだな、周りのお客さんを見てみろよ、静かだぞ、うるさいのは君達だけで……」

 長い説教に、最強の特務超能力者サイキックはタジタジになる。

『その辺にしておきなさい、彼女達の士気を下げては指揮に影響するわよ。シキだけに。フフッ』

 副長からの通信でみさおは怒りを抑えた。

 しかし、寒すぎるギャグに風が虚しく吹く。

「副長もふざけてる場合じゃないですよ」

『ええ、そうね。寝起きだからテンションがおかしいわね』

 みさおは頭を抱える。

「全くエデンにはロクな人がいないんだから……」



 めいみさおの鞄についているストラップが気になった。

「ねえ、アンタの鞄のストラップ、前からあったっけ?」

 獅子の頭を持つ東洋の龍のストラップが増えていた。

「よく気づいたな。最近買ったんだ。牙王がおうっていう中国神話に伝わる龍神の一種だよ」

「そんなの幻の生き物でしょ? アンタらしくないわね。現実的な生き物の方が好きじゃないの? カブトムシとかゴッキーとか」

 めいに壮大な勘違いされ、弁明しようとしたが、話の本筋に答えた。

「ゴッ……いや、僕はこう見えても龍が好きなんだ。ああ、西洋のドラゴンじゃないぞ、東洋の龍だ」

 めいは相槌を打った後、紙パックのお茶を飲む。

「それにさ、この牙王がおうって生き物は、僕の好きな龍と天城あまぎさんの好きな獅子を合わせた感じで、二人の間の子供、みたいだよなって」

 めいはお茶を吹き出した。

 その吹き出したお茶が目の前にいる睦月むつきの顔にかかる。

「な、なんて事言うのよ! このバカァ!」


 そんな話をしていると、車内アナウンスが流れる。

『ろ~らっぷ、ろ~らっぷ、ふぉ~りにあえくすぷれ~す。すてっぷら~いと、でぃすうぇい!』

 舌足らずなその声は車掌のアナウンスとしては明らかに不自然だった。

 次の瞬間、強い睡魔が皆を襲った。



 車掌室に子供が二人。

 人形のような白い肌、青い目、長い金髪。

 瓜二つな女の子は脱ぎ捨てた車掌服を見て呟く。

「スタービジョン、罠にかかりましたね」

「速度、100kmを超えました。ここからはしばらく直線ですのよ」

「速度爆弾、起動。うふふ、ゲームを始めましょ?」

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