第9話-1 夢幻列車
ビルの屋上。
燃える街並み。
黒く煙が上る。
目の前に居るのは成長した
M2019という文字が刻まれたブラスターを握る。
――WHELIMOT FARATCOS...
――TEDVENTH WHEPATATIE...
またも、そんな歌を歌う彼女。
「殺して……」
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
思わず飛び起きた。
いつもの天井。
アラームは20時を表していた。
それが現実じゃないと知り安堵する。
「またあの夢だ……」
落ち着いて、額に手を当てながら呟く。
目を擦りながら洗面室に向かうと、所長が歯を磨いていた。
「起きたか」
「昼に寝て夜起きるなんて考えられないですよ」
昼夜逆転生活。
これも次の任務に備えての事だ。
遡ること一日前、とある夜行鉄道に爆破予告が届いたのだ。
そして、今日は
復帰後の活動という事で気合を入れるべく
もちろん、育ち盛りの昼夜逆転は成長に響くとエデン職員の反発もあったが、二人なりに考えたことという事で所長は二つ返事だった。
「ステラと
キッチンに人数分の白い紙箱に入ってる中華のデリバリーと、ドーナツの入った箱が置かれていた。
副長、
「腹ごしらえをしたら君達は札幌駅まで直行。いいな。じゃ、いただきます」
所長がそう言って手を合わせる。
『今回の札幌市長選。市長は
「意外な結果だな……たしか以前が
以外な結果に
所長はそれに冷めた反応をした。
「傀儡に過ぎないさ。この都市の行政は全てソロモンⅢが担っている」
「へぇ~。あの変なの、予知確率とか難しい事言ってるだけじゃなかったんだー」
ステラがチャーハンを食べながら面白がる。
行儀の悪い姿に
「ステラ! 食べながら喋るんじゃありません」
「アハハハハ、タイチョーってなんかさ、ドラマでよく見るお母さんみたいだね!」
ステラは笑いながら
「お母さん……」
「いや、違うから!」
「何が?」
そのいつもの様子に
女性の鳴き声のようなドリフト音を鳴らし、札幌駅前に青のランデルギーニ・ガヤルドが停まった。
スタービジョン四人が走って改札を通り、ホームへと急ぐ。
夜の札幌駅に停車している北海道高速交通100形鉄道。
白いボディに青いラインが施された九両編成の磁気浮上式鉄道車両。
全体に角張っており、全面ガラス張りの前面が特徴的。
ニセコ始発で小樽、札幌、滝川、富良野、帯広、陸別、北見へと経由して向かっていく路線だ。
一日二本しか通っておらず、ほとんどの駅には停車しないという特徴を持っている。
内装はボックスシート配置。
電光掲示板に「21:15
車内の機関部のタコメーターが七色に発光する。
「トライセル始動」
「
駅員が心配そうに聞く。
その運転手は目を瞑っていた。
まるで、眠りながら起きているように。
「問題ないよ」
「そうですか……」
駅員が安全点検を確認すると、合図を出す。
「出発進行!」
『
汽笛が鳴り響き、出発を知らせる。
「待ってーーーーっ!」
ホームにある自走式販売ロボットを避け、駆け込み乗車を行ったスタービジョン四人。
扉がプシューーーという音を立てながら閉まり始まる瞬間、
「……セーフっ!」
ガコンと揺れ、周りの景色が流れていく。
『スタービジョン、目標車両に乗り込みました』
エデン本部の女性オペレーターが告げる。
周りを見渡すと妙に静かだ。
「きしゃ~きしゃ~はっしっれ~ボクらをのせて~みらいをのせて~ご~ご~」
頭に響く妙な替え歌を歌っているステラを除けば……。
そして、何よりも気になるのが不自然に置かれた姿見。
「へぇー姿見なんて置いてあるんだねぇ。なんか、ちょーいと怖いよね。誰かが姿見に化けてたりして! 未練的に姿見になりたーいとか?」
「早朝に髪型直せって事なのかな」
「気にし過ぎっしょ!」
心なしか、その時に鏡が笑った気がした。
「すみません」
その時、後ろから幼い声がした。
「切符拝見しております」
小学生くらいの背丈に、ダボダボの服装を着込んだ車掌。
顔までは見えず、ブカブカの袖を振り回す姿は何かのキャラクターのようだった。
車掌は何度もペコペコと頭を下げながら袖から改札鋏を取り出し、切符に切込みを入れる。
「ありがとうございまーす」
次々と起こる不条理に
「な、なんだったんだ」
車掌の姿が車両から消えた頃、四人は向かい合う座席に座って作戦会議を始めた。
「この鉄道に爆破予告が届いている」
「こちらの
しかし、周りは騒がしい。
もちろん、そんな客は自分達の他には居らず……。
「おい、聞いてるのか!」
大量の駅弁が積まれ、うどんを現在進行系ですするステラ。
「うまい! うまいよ! これうまい!」
そして、うどんを一箱食べ終えるとラムネに手をかける。
「えっと、このビンってどうやってあけるんでしょー?」
横に居た
「ああ、これはこうやって、ビー玉を落とすんだよ!」
「わーーーー、すごーーーい。ありがとーーーー!」
泡が溢れ出し、慌てるステラ。
「むっ、次はアンタの番だよ!」
「にはははははは、もー、それじゃバレバレだよ!」
指摘すると
「何よ、早く引きなさいよ!」
「えーっと、メイカワイイネー!」
そう言いながら、容赦なく
「コラーーーーお前達ーーーーッ!!」
「修学旅行に来たんじゃないんだぞ、全く、少しは慎みと節度を持った行動をだな、周りのお客さんを見てみろよ、静かだぞ、うるさいのは君達だけで……」
長い説教に、最強の特務
『その辺にしておきなさい、彼女達の士気を下げては指揮に影響するわよ。シキだけに。フフッ』
副長からの通信で
しかし、寒すぎるギャグに風が虚しく吹く。
「副長もふざけてる場合じゃないですよ」
『ええ、そうね。寝起きだからテンションがおかしいわね』
「全くエデンにはロクな人がいないんだから……」
「ねえ、アンタの鞄のストラップ、前からあったっけ?」
獅子の頭を持つ東洋の龍のストラップが増えていた。
「よく気づいたな。最近買ったんだ。
「そんなの幻の生き物でしょ? アンタらしくないわね。現実的な生き物の方が好きじゃないの? カブトムシとかゴッキーとか」
「ゴッ……いや、僕はこう見えても龍が好きなんだ。ああ、西洋のドラゴンじゃないぞ、東洋の龍だ」
「それにさ、この
その吹き出したお茶が目の前にいる
「な、なんて事言うのよ! このバカァ!」
そんな話をしていると、車内アナウンスが流れる。
『ろ~らっぷ、ろ~らっぷ、ふぉ~りにあえくすぷれ~す。すてっぷら~いと、でぃすうぇい!』
舌足らずなその声は車掌のアナウンスとしては明らかに不自然だった。
次の瞬間、強い睡魔が皆を襲った。
車掌室に子供が二人。
人形のような白い肌、青い目、長い金髪。
瓜二つな女の子は脱ぎ捨てた車掌服を見て呟く。
「スタービジョン、罠にかかりましたね」
「速度、100kmを超えました。ここからはしばらく直線ですのよ」
「速度爆弾、起動。うふふ、ゲームを始めましょ?」
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