Episode:03-3 Avatar
エデンに休日などない。
土曜日であろうと、必要に駆られて出勤しなければならないのだ。
そして、司令室は朝から忙しない。
「はい、テロリストの件はそちらに」
「はい、はい。では保安部に回してください」
「その資料はそこに置かないで! あっ違う、それじゃなくて!」
「D-82地区の建設計画の資料は!? アレがないと判断できないじゃないか!」
「まだ上がってないわよ!」
「後、反社会集団リストはどこだよ」
副長が紙コップのコーヒーを買って出社してきた。
「おや、タバコはやめたのかい?」
金髪で軽薄な雰囲気の男性オペレーター、
「タバコはやめたけど今はコーヒー中毒ね……」
すると、
「ならいい店を知っている。今度紹介するよ」
その誘惑にも動じず副長は肩に乗っていた彼の手を取り、距離を離した。
「今は忙しいの、ナンパなら後にして頂戴。貴方も持ち場に戻りなさい」
「釣れないなハニー」
副長はコーヒーを一口飲むと饒舌に彼を罵った。
「今度そのふざけた事言ったら、そのケツにブレンドコーヒー注いでやるわよ。私は貴方と付き合った事も付き合う気も金輪際無い。そんなの味噌汁にケチャップをかけるくらいナンセンスよ。わかったら早く仕事に戻りなさい」
先程まで伝達で大忙しだった女性オペレーターの一人が、
もう一人の女性オペレーターは変わらず忙しなくあちこちを行き来している。
「これだから男ってイヤなのよね……節操はないしこの前だって私に声かけてきましたからね。副長先輩に声かけるなんて千年早いですよ」
黒髪短髪の清楚な雰囲気を持つオペレーターは
「
茶髪ストレートロングのどこか影のあるオペレーターは
「そういう
「ななな、なんでそれを!」
「へへへっ、褒めてくれる? ま、
「貴方達も集中しなさい」
副長が活を入れると再び慌ただしく動き出した。
「ソロモンⅢの回答がない以上、今は情報収集が先よ」
目の前のメインモニターには、警察庁や消防庁から送られてきた情報や一定周期ごとに更新される衛星写真が映し出されている。
札幌郊外。
自然に囲まれ、木柵で区切られた敷地。
広大な庭があり、素朴な木造の小さな邸宅。
周囲には黒い人影が集まっていた。
『応答はないようだ、目標の建物に合図を出して突入せよ』
「了解」
警察用の物にダークブルー塗装された武装警察軍仕様の
突入用の短機関銃やライオットシールドを構えながら待機する。
「3、2、1」
武装警察軍が扉を蹴破って突入した。
「リビング、熱源及び生命反応なし」
「浴室、熱源及び生命反応なし」
「個室、熱源及び生命反応なし」
全ての部屋を警戒しながら確認し終えると、再び警察本部に通信を繋いだ。
『状況を報告しろ』
「現場はもぬけの殻です。熱源及び生命反応は全室無反応。オーバー」
『念のため後で鑑識を回す。到着までは待機だ』
「了解」
通信を切ると、緊張を少し解いて周囲を見渡す。
つい最近まで生活していた痕跡がある室内。
閉じられたカーテンが鬱屈とした雰囲気を出している。
ふと、廊下に置いてある黒電話が鳴り出した。
「嫌な予感がする。何かあったらこの部屋から出ろ」
隊員の一人が並外れた勘で不穏を感じ取った。
その隊員は警戒しながらもそれを取る。
「もしもし……」
『やぁやぁ、哀れな日本の武装警察軍諸君。これから君たちにいいものをプレゼントしてあげるよ!』
電話の相手はボイスチェンジャーによって加工され、ふざけた口調でおどけていた。
「貴様は!!」
隊員は自身の所属を把握されている事、その不穏な音声から緊張が最大まで高まった。
そして、周囲の隊員に一つの命令を下した。
「今すぐこの場から離れろ!」
数人の隊員は命からがら脱出しようとした。
派手な爆発により、彼らもろとも家屋が消し飛んだ。
そして、外で待機していた武装警察に通信が入った。
『見てくれたかい? 今のは挨拶代わりさ。次は地下鉄で大勢を巻き込んで、愚鈍な政府に意思表示をしてあげるよ』
それだけを言い残し、一方的に通信を終えた。
「……聞いていたけど、結構深くまで潜るのね……」
警察の情報から
非常に長いエスカレーター。
「この札幌がソ連の統治を受けていた時代の名残。共産圏の地下鉄はどこもこんなものさ。なんでも、シェルターにもなる地下都市という構想で作られたんだ」
高い天井にはシャンデリアが吊り下げられ、西洋の影響を受けた柱が所狭しと並んでいる。
反転フラップ式案内表示機が次々と切り替わり、電車の運行状況がリアルタイムで表示されていた。
「
「ああ、狂犬をプロムに誘って豚の血塗れにしてやれば二度と学校に来なくなるだろうよ。ついでにあの
「どうしてそこまであの転校生を目の敵にするんでありますか?」
「知らんのか?
「
言葉の過ちを指摘すると、バツの悪そうにしつつ彼の行動に疑問を呈そうとした。
何かを察した
「なんだ? 俺に疑問でもあるのかよ」
「い、いえ、滅相もございません!」
それを聞くと
「……俺は強くなきゃいけないんだ、大財閥の御曹司として穢れた血である
「
ふと、駅内の広告が
「
赤い軍服に黒いマント、肩にドクロをかたどったパッドという装束に身を包んだ金髪ツインテールの女の子が写っていた。
見た目から歳は
彼女はアメリカ合衆国の
優れたSクラス精神操作系
「私ね、一年前にこの子に憧れて特務
そんな昔話をする
「今は
その言葉に
本部からの通信が入った。
『ソロモンⅢから回答あり、5分後に豊水すすきの駅で爆破テロ発生を予知。死者81、重軽傷者215。Aクラスと断定』
『事象確定率68%!』
Aクラス事件、それは多くの死傷者が生じる大事件だ。
「場所は豊水すすきの駅……丁度ここか……。どうしていつもこうギリギリなんだ」
「
話そうとすると、
「爆弾を見つけた! ノイズのような変な感じがするけど、多分そうよ!」
「どうしたらいいの?」
困惑する
そして、ぬいぐるみを手に取り、裏側を開いて中から爆弾を取り出した。
「こいつは電子制御。タイマーとなる機構にサージを起こさせて停止させればいい」
「でも、爆薬に電気なんて……!」
不安がる
「炸薬に電流が巡らないよう、先に電磁波で内部を確認してから行えば問題ない。
そして、バングルフォンの時計を確認した。
「予知まで時間がない……Aクラス事件がこの一個だけで発生するわけがない。柱や人通りの多い場所を重点的に捜索してくれ! 僕は北側を探す、
――いや、全て解除してしまえば問題ないはずだ。
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