第3話-2 学校へ行こう
高等部2-A教室。
「起立、気をつけ、礼、着席!」
教卓にはリンゴと本が無造作に置かれている。
そして、大きいモニターのような電子黒板、チョークと呼ばれるタッチペンで文字を書くことが出来るのだ。
生徒の机にはノートPCが各自置かれている。教室は階段状になっていて、生徒の机は教卓から離れるほど高い位置にあり、若干扇形に広がっていた。
窓からは午前の日差しが差し込んでいる。
「おはよう諸君、今日は転校生を二人紹介する!」
教室の自動ドアが開く。
軽快なヒールの音を鳴らしながら、このクラスの担任を務める三十代の女性教師が、教鞭と出席名簿を持ちながら入ってきた。
「さ、二人とも、入って!」
教壇に艶やかな黒髪の少女と短い茶髪の幼い少年が登った。
その二人の姿に生徒たちはどよめく。
「私は
「ま、
凛とした表情で挨拶する
「二人はあの席よ。さ、席について。ホームルームを始めるわ」
担任が窓際の席を指差し、出席名簿を開いた。
ホームルーム、そして一時限目が終わった。
「思った以上に学校の勉強って退屈なんだね」
「そう? 私は面白いと思うわ。新鮮で」
「それに、結構問題も難しいわ。この問Cが意地悪で。結構ここの数学教師って陰険なのね」
意外に負けず嫌いな
「僕は出来ましたけど……」
彼女の気も知らずミス無く解き終えた
「アンタだけよ!」
いつものやり取りをしていると、一人の女生徒がやってきた。
「ねえ、新聞に載ってた特務
突然手を握られた
「もうバレちゃったな」
「ファンなの、サインして!」
強く迫ってくる女生徒に
「さ、サインなんてしたこと……た、助けてよ! ちょっと!」
そんな様子を尻目に
「ファイトって事だ。バレても問題ないとは言え、これでトラブルに巻き込まれなけりゃいいけど……」
しかし、そんな彼の前にも男女多数の影が迫っていた。
「本当に小学生なんだ!」
「小学生じゃないけど小学生なんだよ」
「IQ170って本当!?」
「フェルマーの最終定理の新解法見つけたって本当!?」
「ちょ……」
その二人を見ていた者達がいた。
黒髪オールバックの美少年、背丈は小さいがそれを隠すほどの圧倒的な存在感を持っており、キリッとした目は
そして、その後ろにいる二人。
糸目、豚鼻、ニキビ顔で小太りの男。
もう一人は出っ歯、鷲鼻、メガネをかけた三白眼で痩身の男。
美少年は
「やはり、奴か。穢れた血が……」
二時限目も終わり、昼の休憩時間だ。
相変わらず人気者の
故に、
「学園にはカフェテリアがあるのよ」
「購買部の焼きそばパンはチョー人気だから早めに買わないとなくなるっての!」
「食堂で一緒に食べないー?」
「あはは……その、
「ちょ、一緒にって!」
「え、
その言葉の一つ一つに周囲は過剰反応する。
「えーっ、二人って仲いいんですね!」
「恋人とか!?」
「弁当作ってあげる仲だってさ!」
「ひゅ~~~~っひゅ~~~~っ」
「きゃーーーーーーっ!」
口笛を吹いて囃し立てる男子、黄色い声をあげる女子。
「ちが、そんなんじゃ!」
すぐに
そこに
「あはは、違いますよ。彼女とは仕事仲間みたいなものです、そういう感情は……いででででっ、なんで怒ってるの?」
「なんか無性に腹立つのよ……」
「へぇー
女生徒が手を合わせて感激して褒め、じゃがいもの煮っころがしを指差してあざとくおねだりした。
「か、かまわないよ」
「ん~~~っ、おいひ~~~っ」
女生徒は手を振り回しながら全身で味を表現した。
「やっぱりこれからの時代、男子も料理できる方がいいよね!」
「あっ、ずるーい、アタシもアタシも!」
「あ、慌てないで。皆にもあげるから!」
いつもは見せない表情をする
「なによ、デレデレしちゃって……」
不良の溜まり場と化した屋上。
規律正しく並んだ靴箱。
閑散とした雰囲気の空き教室。
彼女は騒がしい雰囲気を嫌って、周囲が空き教室のトイレまで歩いていった。
――ふぅ~。これで落ち着けるわ。
静かで落ち着けるひととき。
人気者扱いの
――別に、アイツとは仕事仲間よ……でも……なんなの?
そう考えていると、空から水が降ってきた。
「きゃっ!」
スタービジョン制服と違い、防水仕様じゃない。
――なんなのよ! でも……次は体育よね。体操着に着替えるんだし問題ないはずよ。
着替えを取るためにロッカーに戻ると、破壊され無惨な姿になった自分の縦型のロッカーがあった。
そして、中の体操服や鞄は汚損され、授業用PCはボロボロにされていた。
――な、なによこれ……。
屋外の水飲み場。
蛇口から水滴が滴る。
その足元に乱雑に置かれたホース。
グラウンドから見える体育倉庫。
「あれ、
女生徒の一人が走ってくる。
「なんでもない。近寄らないで」
「そんな所でサボってるとキングゴリラに怒られちゃうわよ」
「うるさい!」
その大声に思わず女生徒は怯み、走り去っていった。
そして、彼女は去り際に
体育の時間が終わる。
体育教師……あの生活指導の先生には理不尽な長い説教を受け、周りの生徒からも初日からサボりと訝しまれ、散々だった。
後は終礼、下校だけだ。
教室に戻るため、玄関に入り、靴箱を開くと、
「……っ!」
「はーい、ホームルームを始めるから席につけー」
――
後ろの自動ドアが開くと、
「
エデンの方で購入したはずの上靴ではなかったのだ。
「アンタには関係ないでしょ! ほっといてよ!!」
その後、自分の机を見た。
そこには彼女を罵倒する言葉が大量に書かれていた。
「
「うるさい! これは私個人の問題よ、関わらないで!」
涙ぐむ
放課後、
「最近のシミュレーションの調子悪いわね、学校で何かあったの?」
司令室でぎこちない動きの
「学校でいじめを受けているらしいんだ。上履きがボロボロになっていたのを見てしまって……それと、机に酷い落書きが……学校にいた頃は彼女なりのプライドなのか強気でいたけど、ここに来てから堪えたのかあの調子なんだ」
副長は
「ふうん、
そのあんまりな態度に思わず
「程度って……そんな言い方はないだろ……」
それを聞いた副長は俯き、首を横に振る。
「所詮、永遠の少女なのよ。あの子も、私も……だから嫌いなんだわ。自分を見てるようで虫酸が走るの」
そこに所長が口を挟んだ。
「
図星を付かれた副長は所長を横目で見ながら不機嫌そうに呟いた。
「……所長だって割り切れないくせに」
『上がっていいわよ』
副長の怒気籠もった声。
「……はい……」
そして、普段とは対象的な気力のない
周囲の街の景色が消え、訓練室へと回帰していく。
訓練室の隣りにある控室。
色々な機材が置いてあり、長いベンチやロッカーが並んでいる。
蛍光灯が点滅し、白や寒色寄りのグレーを基調とした室内に赤い消火器が際立つ。
副長は
「貴方ねぇ、普段は喧嘩腰で人を苛つかせる癖にいざ嫌な目にあったらそうやって逃げるの? 精神がお子様にも程があるわ」
「……わかってますよ」
副長はため息をつくと口を開く。
「それと、
溶接ゴーグルを装着し、火花を散らしながら何かの作業をしている
「ああ、聞いてるよ、聞いてるさ」
副長はその返事に苛つきを抑えきれず、感情的に
「そうやって空返事してさ……。そういう所が」
「まだまだ未熟、これじゃスタービジョンどころじゃない。だろ? わかってるさ。けど今の作業だって今後の任務次第では必要なんだ、説教なら後にしてほしい」
「何?
副長はその態度に更に腹を立て、
「その程度の事忘れて集中してほしいって言ったのはそっちじゃないか! どうしてほしいんだよ!」
消沈した
その二人に呆れたのか、
「……わかったわよ。明日ケリをつけるわ、それで文句ないでしょ」
副長はその癪にさわる態度にムッとなり睨みながら吐き捨てた。
「すこし辛い事があったくらいですぐそうやってヘーコラする態度が尚の事ムカつくのよね」
その言葉に
「うっさい、黙っててよ」
早朝の学校。
ロッカーの前に複数の人影が見える。
「アンタ達、何してるのよ」
その人影は、背丈は小さくも圧倒的なカリスマ性を持つ黒髪オールバックの美少年、糸目にニキビ顔の小太りの男、メガネをかけた三白眼で痩身の男の三人だった。
オールバックの美少年は
小太りの男は
痩身の男は
「チッ、バレてしまったか」
その語調は以前、生徒指導の先生の前で見せていた真面目なものとは違い、ガラの悪いチンピラのものだった。
「何してるのって聞いてるのよ!」
怒りを込めた声が静かな校内に響く。
「そりゃ、お前を退学に追い込もうとしてるに決まってるだろ、穢れた血の化け物がよ」
――私は……化け物じゃない……!
その
「いいかよく聞け、お前みたいな奴の居場所なんぞ何処にもない。今すぐ出て行け。ここがハリウッドならFワードが飛び出してるところだ」
そっぽを向いて無視する
「おい、もしもし、聞いてんのか?」
握り拳で
「その頭の中にはクソが詰まってるのか? あ?」
「俺の家ってのは代々日本軍の兵器を開発してきた大財閥なんだ。言ってしまえば俺は将来を約束された選ばれた血。そんな俺がお前に教えてやってるんだ。それをその無礼な態度で聞くってのは躾が必要なわけだ」
そして、
「なあ、井の中の鯨って言葉を知ってるか?」
ドヤ顔で言ったそれに、
「井の中の蛙大海を知らず、ね」
そして
「いじめでそのやっすいプライド保つくらいなら勉強したら? 何よ、家、血ってアンタの実力は? アンタの親はさぞ困ってるでしょうね! その気持ち、よくわかるわ」
すると、
「この……減らず口をケツと繋げてやろうか……」
――
しかし、
「へ、へぇ、か弱い乙女に手を挙げるなんて、見下げ果てたクソ野郎ね。そんなだから家柄しか誇れないチンピラなのよ」
「あぁぁ? か弱い乙女だって? じゃあ言ってやるよ、お前みたいな化け物に男も女もないだろ。その気になればこの街一つ消し飛ばせる癖によ。家柄? お前みたいな穢れた血じゃないだけ、マシじゃねえええかあああああ!」
――もう、我慢できない……ごめん……。
涙が一粒流れる。
もう
彼を殺して、前まで以上に厳重で自由のない施設に隔離される。
――私じゃ駄目だったんだ。
もう自分の力を抑えきれなくなっていた。
赤い火花が身体から散り始める。
誰かが
「
聞き慣れた声がする。
足は震えている、表情だってぎこちない。
そして周りには二人の取り巻きもいる。
高校生と小学生という圧倒的な差に
それでも、
そこに、
「おい、
「この……」
「
それでも収まらない
「こりゃまるで狂犬だな。滑稽だ」
「
指を何度も差してなじる
そこに、
「おい!
「そうだそうだ!」
「そこのデブ」
不快感を感じた
「デブじゃない、ぽっちゃりと呼べ!」
しかし、そんな反論も無視するかのように
「彼が如何に偉大だろうとこの行為はただの犯罪だ、記録も取ってる。
普段の温厚で根暗なものではない。
修羅の表情へと変わっていた。
「ひ、ひぃ!」
一人残された
「きょ、今日はこんくらいにしとくわ。覚えてろよ!」
「はぁ……はぁ……」
極度の緊張から解き放たれ、
「
彼は自分の事も厭わず、
「うるさい、アンタは……人気者の癖に……私は……」
――こんなに怒ったこと、初めてだったな。
喫茶店アルカディアのヒミツ①
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