Episode:05-3 Carrie

 空母あすか艦橋で緊急の作戦会議。

 スタービジョンは全員制服に着替えており、ステラに用意された制服は胸下のリボンが黄色となっていた。

「ねえねえ、マントとか付けないの?カッコイーじゃん?」

 ステラがみさおに疑問を投げかけた。

「……マントはジェットエンジンに巻き込まれるから駄目だ。そういうデータもある。映画にもなってるよ。」

「えー、ぶーぶー!」


「現状の情報共有。まず、アメリカ海軍第三艦隊空母打撃部隊が合流予定だった超能力者サイキックPSIサイヴィーナスによって掌握された。これはアメリカ政府よりエデン本部に非常回線で齎された情報だ」

 みさおは事実を淡々と述べる。

 すると、めいは大声で動揺した。

PSIサイヴィーナス!? ねえ、アンタ……今のどういう」

「言葉通りの意味さ、こういう事態がなければスタービジョン5号としてPSIサイヴィーナスが加わる予定だった。けど……」

 歯切れの悪いみさおに、麗華れいかが補足する。

「彼女は我々を攻撃してきた。つまり、彼女は我々の敵、ひいては第三艦隊を用いて世界征服を目論む人類の敵となった」

 みさおは静かに頷く。

 めいはその言葉にうなだれる。

「やはり貴様らの失態ではないか! 化け物共を軍艦に乗せるなど!」

 路男みちお艦長はまくし立てた。

「僕達の責任ではない、アメリカ海軍の管理だ。それに、彼女は恐らく暴走状態にあるだけだ。超能力者サイキック皆が皆そういう者だと思わないでほしい」

 静かに呟くみさおを、スタービジョンの三人は静かに見ていた。

「暴走状態という事は何か策があるのかね」

 足を組み替える路男みちお艦長に、みさおは告げる。

PSIサイヴィーナスのPSIサイ精神操作マインドハック。それによりアメリカ海軍の乗組員を掌握している。これはある種女王蜂と働き蜂のような、昆虫の社会のような状態。つまり……女王となっている・・・・・・・・彼女をなんとか・・・・・・・できれば元に戻る・・・・・・・・

 そして、バングルフォンで立体投影海図を映す。

「現在敵艦隊は100マイル先。そこで無人にした戦艦ながとごと長距離空間跳躍ジャンプで目標近くまで転移、戦艦を囮にして島風しまかぜさんが突入、恐らく疲れ果てるであろう大宮おおみやさんは天城あまぎさんが守りながら、島風しまかぜさんのバックアップ。電磁バリアを最大に展開しないと精神操作マインドハックの影響を受けるからここが大事だ。天城あまぎさん、頼む」

 めいはアイコンタクトで了解した。

「目標のPSIサイは近接戦に弱い、近接戦特化の島風しまかぜさんが懐に潜り込めれば恐らく……」

「こいつはエルドリッジやゆきなみ型三番艦やどこぞのファイナルなニミッツじゃねえんだ、そんな速度が出たくらいで消えたりって、どこぞの映画に出てくるタイムマシンカーみたいになってたまるか!」

 路男みちお艦長は声を荒らげて否定した。

「大丈夫だ、彼女達を信じてくれ」

 みさおは彼を落ち着かせる。

「しかし、長距離空間跳躍ジャンプに際して、時速88マイルに達する必要がある。これだけの質量の空間跳躍ジャンプは初めてだ……やれるか? 大宮おおみやさん」

 睦月むつきは片方の腕を袖まくりして曲げ、もう片方の手を二の腕に添える。

「まっかせて、やったことはないけど、やってみるよ!」

「戦艦ながとの速力は25ノットだ。時速88マイル……76ノットなんてとても届かんぞ」

「問題ありません、発電能力エレキネシス発火能力パイロキネシス、この二種の力があれば可能です」

「はたかぜは周囲の警戒、ゆうばりは転移先座標のために目標捕捉と念のための対潜哨戒、指揮は本艦で行う。空母いぶきは長距離空間跳躍ジャンプするまで無防備な戦艦の盾として……我ながら無茶苦茶な作戦だけど、敵はアメリカ最強の超能力者サイキック。やれるだけのことをやるしかない」

 みさおは作戦概要を全て説明し終えると、前を見据える。

「うむ……現状を打破しうる手段を信じるしかないか。今は貴様らに託すとしよう」

 路男みちお艦長はタバコ型砂糖菓子を咥えて彼らに背を向けた。



『総員、退艦。総員、退艦』

 いぶき、ながとの乗組員が赤と白の浮き輪やボートで艦を脱出していく。

 艦橋でみさお麗華れいかはそれを静かに見守る。

「頼むぞ……!」

 みさおは配置についたスタービジョン三人を信じた。

「オペレーション・フィラデルフィア、スタート!」


 無人となった戦艦ながとをめいが電子制御する。

「艦首、目標軸線上に乗った!」

『了解! 大宮おおみやさん!』

「うい!」

 睦月むつきは上空から艦尾に目掛けて神札を投げる。

 艦尾に無数の神札が張り付く。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」

 唱えると、神札は青白い鬼火へと変化し、ロケットエンジンのように轟!! と噴射した。

 睦月むつきは戦艦の甲板へと飛び移り、ステラとめいの手を握る。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 めいは戦艦を電磁浮遊させ、電磁投射で推進力を強化した。

『ながと、現在28ノット』

 戦艦が宙に浮き、後ろから炎を噴射しながら徐々に加速していく。


 空母あすかの乗員達がその光景に感激する。

「すげぇ……昔のアニメで見た光景だ!」



 遠く離れた海上でキャリーは何かを感知する。

 一隻の戦艦が高速で接近してくることをレーダーで捕捉した。

「へぇ、ワタシに挑もうってツモリ? でも、そうはいかないデース!」


――高速接近、戦艦……他の艦に変化はナシ、なるほどネ。


――ツマリ、この艦隊相手に何らかのPSIサイで強化した戦艦をぶつけてドンパチしようってワケ!?


――けど、あまいデース! 戦艦のシャテーと比較して、ミサイル駆逐艦のソレは倍イジョー!


 彼女は手を振るい、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦に命じた。

「ハープーン、発射!」

 円筒形の四連装発射機から炎が勢いよく吹き出し、四本の飛翔体はロケットエンジンによって高度を上げた。

 一定時間の加速の後にロケットエンジンが切り離され、翼が展開、水平飛行に切り替わった後はターボジェット・サステナーによって目標目掛けて直進する。



『前方より飛翔体捕捉、ハープーンです!』

「こんな時に……!」

 めいは悪態をつく。

 艦首を見ると、空母いぶきが待機していた。

「タイチョー、任せて!」

 ステラはめいに微笑み、足に力を入れ始める。

 ステラの足が急激に膨張し、真っ赤な筋肉のようになる。

 勢いよく甲板を蹴り、飛び出していった。

 そして、海に飛び込むと、大きく跳躍して、両手で空母いぶきを持ち上げる。

「PKちゃぶ台返し!」

 勾配が大きくなり、飛行甲板に乗っていたF-2攻撃機やE-2、F-35が海の中へと落下していく。

 ハープーンが飛行甲板に直撃し、激しい爆炎と煙が上がる。

 そして、ボロボロになった空母いぶきを足場に、再び戦艦ながとへと戻った。

『ながと、現在65ノット』

 高温の鬼火により、スクリューが燃え尽きて落下する。

 徐々に艦尾周囲の装甲も溶け落ちた。

『ながと、現在70ノット』

 神札が剥がれ落ちていく。

 それでも、めいが落ちた速力をカバーする。

 めいの髪が白く輝き、エラ状器官が開く。

『ながと、現在71ノット』

 めいの身体の赤い火花が強まり、磁界を形成、リニアモーターカーの原理で加速を強める。

めいちゃんはこの後あーしの護衛とステラちゃんのサポート、対精神操作マインドハック用の電磁バリアをしなきゃでしょ、無茶しちゃだめだよ!」

 睦月むつきは心配する

「無茶だろうがなんだろうが、そんなのは気合いで押し通るに決まってるでしょ!」

 その言葉に睦月むつきは笑って頷く。

「じゃあ、あーしも無茶をしなきゃだね!」

 そう言って、神札の火力を上げた。

 一気に加速し、目標速度に到達。

『ながと、現在76ノット、今です!』

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ゆうばりから得ていた敵座標を元に、座標演算を行う。

 そして、艦体に火花が散り始め、艦首にセントエルモの火が生じた。

 激しい閃光と共に、戦艦ながとは姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る