Episode:05-4 Carrie

「このアーレイ・バーク級三隻とズムウォルトによる捜索網から逃れられるとお思いデース?」

 バッチリと日本海軍の艦隊を捕捉しているキャリー。

 しかし、戦艦ながとは突如レーダーから姿を消した。

「ホワッツ!?」


 青空がゆがみ、上空に三回の激しい閃光。

 その中から、戦艦ながとが飛び出してきた。

 表面を覆う薄い氷が割れ、徐々に落下していく。


「あぁ……なんて事デースか!?」

 驚愕するキャリー。

 すぐに体勢を立て直し、迎撃に移る。

「しかし、この戦艦二隻と駆逐艦二隻の蜂の巣からは逃げられないデース!」

 戦艦の16インチ50口径三連装砲、駆逐艦のAGS 155mm砲やMk45 5インチ砲。

 そして、それぞれの機関砲が上空の戦艦を狙う。

 圧倒的な集中砲火で、一瞬のうちに巨大な戦艦は木端微塵になった。

 その爆炎の中からステラが、そして胸の星が点滅する睦月むつきを抱えためいが飛び出した。

「しまった!」


「アンタは、私の憧れだったよ。でも、こんな事をしたのは許せない!」

 めいはかつて憧れていたキャリーに告げる。

 彼女達の命を狙わんとしていた空母エンタープライズのファランクスに、めいは戦艦の破片を磁力操作で投げ飛ばす。

 そして、めいは空母の飛行甲板に降り立った。

「……こんな事をして、アンタは何が目的なの!?」

 かつての憧れに対ししっかりと目を見据えて言う。

「ユーにはわからないでしょう、ワタシの苦しみ、痛み、憎悪、負の感情が! だから世界を変える、この手で!」

 その慟哭どうこくには確かな怨嗟えんさがあった。

 しかし、その感情にめいは真っ直ぐ向き合う。

「内側から変えることだって出来たでしょ。こんな、こんなやり方に意味はない!」

「それはキレイゴトデース!」

 小馬鹿にしたような口調の挑発。

 それでもめいは諦めず、言い続ける。

「綺麗事でも、やる前から諦めてるのは違うわよ! そんなの、私が憧れたPSIサイヴィーナスじゃない!」

「当たり前デース、今のワタシはPSIサイヴィーナスじゃない、キャリー スチュアートデース!」

 めいは俯き、少し考えた後、キッと前を見据えた。

「そう。なら、ちょ~~~っと痛い目に見てもらうわよ!」

 磁力操作で周囲のF/A-18EやEA-6を持ち上げ、キャリー目掛けて投げ飛ばす。

「そんなモノ、何度やっても無駄デース!」

 飛んでいったF/A-18EやEA-6は艦砲により全て撃ち落とされ、全ては残骸と黒煙となった。

 しかし、それによって、キャリーの視界は封じられる。

「まさか!」

 黒煙の中から、ステラが拳を握って飛びかかる。

「PKラリアット!」

 腕部による打撃がキャリーの顔面に炸裂。

 彼女の肺の空気が全て吐き出されフラフラと落下しかけるも、キャリーはなんとか持ち直し、再び宙を舞う。



 五十二型原子力空母あすか艦橋。

『ふぃ~~~っ、PSIサイヴィーナスが飛んでるとは思わなかった。ステラちゃんには飛行能力無いから不利だけど、めいちゃんの機転で戦艦や飛行機の破片を蹴って空中戦をしているわ』

 睦月むつきからの通信。

「よし、何とかなりそうだな。状況を正確に把握できない以上、こちらからは何もできない。各自の判断に任せた」

 みさおは全てを三人に託し、通信を切った。

 麗華れいかがその報告に疑問点を投げかけた。

PSIサイヴィーナスはシングルの精神操作マインドハックだったはずよ。飛行能力なんかありえないわ。新たなPSIサイが開花したとでも言うの……?」

「さあ、でも、きな臭い案件なのは確かだ」

 みさおはその不自然さに少し考え込んだ。



「鬱陶しい……電磁バリア、やっかいよネェ!」

 キャリー周辺の鱗粉の濃度が一気に濃くなり、人々がマリオネットの人形のように歯を打ち鳴らしながら動き出した。

「リミッター、解禁。スタービジョンの奴ら……不快、フカイフカイフカイ! ワタシの目の前から、イナクナリナサイ!」


 睦月むつきを抱えたまま宙を舞うめいに向けて、無数の砲弾が迫る。

「ああもう!」

 めい睦月むつきを片手で抱え、自由になった手を振るい、直撃寸前で砲弾全てを空中で停止させる。


――精神操作マインドハックの力が強すぎる……。


 血濡れた実験場。

 廃棄された超能力者サイキック


――電磁バリアでも防ぎきれないのか、あの子の負の感情が流れてくる……。


 恐らくクローンであろう茶髪の子が倒れる。

 蜂の巣が焼け崩れていく心象風景。


――でも!


「アンタはさ、それでも誰かを救った時は心から笑っていた」

 真上に飛び上がるめい

「そんなもの、偽りの笑顔ヨ!」

 戦艦の主砲がめいへと狙う。

 しかし、戦艦ながとの瓦礫を磁力操作で操って盾にし、砲弾を斜めに弾き逸らす。

「それじゃあ、偽りの笑顔に惹かれた私は、偽り? それに追い詰められているアンタは?」

 めいは散った戦艦や軍用機の破片を操り、再びステラの足場を確保する。

「ワタシは……ワタシは……」

 ステラはその足場を駆け上がり、腕、足の筋肉を異様に膨張させた。

 腕を曲げ、その一撃に全体重を乗せる。

「PィィィKェェェ、アックスボンバァァァァァーーーーー!」

 キャリーの後頭部を正確に狙った衝撃。

 それにより、キャリーは大きく吹き飛ばされた。


 キャリーはかつての生活を回想していた。

 自身のPSIサイを強くするため、数多の超能力者サイキックを犠牲にし、自身と同じような強化実験を行っていた者も次々と倒れていった。

 プロパガンダとして利用された自身の境遇。

 従順な奴隷化を植え付けた非道なオペラント条件付け。

 三人組超能力者サイキック、双子の姉妹。

 その誰もが苦しんでいた。


――ワタシは金星に憧れた。


――ワタシは……一体……?


 血濡れた自由の女神像が沈んでいく。

 自分の身体に埋め込まれた微小な胎児が消えていくのを感じ取った。


 海面が迫る。

 全ての罰として死を覚悟し、目を瞑った。

 しかし次の瞬間、キャリーが感じたのは冷たい海の水ではなく、柔らかく温かい誰かの身体だった。エンタープライズの側面を蹴って飛び出しためいがキャリーを空中で掴まえたのだ。

「ユーはナニ者……?」

 キャリーはボソリと呟く。

「私は私、他の何者でもない、スタービジョン1号、天城 冥あまぎ めいよ」

 そして、その姿を空母エンタープライズの甲板の上に座る睦月むつきとステラが見守っていた。



「いや~~~、一時はどうなることかと思いましたわい!」

 路男みちお艦長は後頭部をかきながら何度も頭を下げる。

 彼は片手にスリッパを手にしていた。

「……それは?」

 みさおは呆れながら聞いた。

「いやー、私も海の男としていざとなったらスリッパで戦わねばな! ということでな、ハハハハハ」

 そのあんまりな答えに、みさおは大きな汗を流した。



 夕暮れの空にアメリカ海軍の輸送機C-2が飛んでくる。

「おーーーーーい!」

 扉を開けて睦月むつきが手を振る。


 空母あすかの甲板に着陸すると、ステラが勢いよく飛び出し、みさおに抱きつく。

「エヘヘ、出るのはボクだから指揮官なんて誰でも一緒って思ってたけど、君はなんか特別って思った! これからはよろしくね、指揮官!」

 それを見た睦月むつきは「あーしも!」と腕に抱きつき、めいは苛立ちを覚え、体中から赤黒い火花を散らした。



 次回予告


 超能力者サイキックを快く思わない者達もいる。

 自分の力を嫌うサイキックもいる。

 そんなめい達に対し、超能力者サイキック狩りの魔の手が忍び寄った。


 次回、月をみるひと

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