第5話-2 リベンジフォース

――WHELIMOT FARATCOS...


――TEDVENTH WHEPATATIE...


 アメリカ海軍 第三艦隊、空母エンタープライズ。

「おい、何か聞こえねえか……?」

「うわあぁあぁぁっ」

 艦長と副長が頭を抱え、うずくまる。


 同艦隊、アイオワ級戦艦ケンタッキー。

「歌が聞こえるぞ……?」

「うぁぁぁ」

 整備士がスパナを落とし、喉を押さえる。


 同艦隊、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦。

「頭の中に……何かが入ってくる……これは……」


 艦隊の周囲に、虹色の鱗粉が漂っていた。

 そして、エンタープライズの艦橋に少女の影。



 アメリカ合衆国、ワシントンD.C. ホワイトハウス。


 大統領補佐官が電話を手渡す。

「大統領、空母エンタープライズより入電」

「……繋げ」

 大統領がその電話を手に取ると、場違いな女の子の声が入ってきた。

『ハロォ~、大統領』

「なんだ、貴様は! ……PSIサイヴィーナスか」

 その声に動揺するも、すぐに声の主を特定し、冷静に受け答えする。

「第三艦隊はどうした、先程連絡が途絶して司令部が混乱状態だと聞いている、状況を把握しているなら伝えろ」

PSIサイヴィーナスじゃなくてキャリー スチュアートと呼んでほしいデース!』

 質問に答えないキャリー。

「そんな事はどうでも……。バ、バカな、消去したはずの名を……」

 大統領は手が震えるほど驚愕した。

『精神系PSIサイを甘く見ないことですネ!』

 精神系というだけでは説明がつかない、明らかに不自然な事象。

 強力な記憶消去により断片すら残っていないはず。

 しかし、そんな事を懸念している場合じゃなかった。

『ワタシの精神操作マインドハックにヨリ第三艦隊を掌握、完了しましタ』

 唐突な彼女の裏切りは、大統領が冷や汗を流す事態だった。

 世界最強クラスの第三艦隊の一部を掌握、それは、超能力者サイキックによる世界征服の危機に直面しているという事だ。

『これよリ全軍をもって、世界へ進軍、総攻撃を仕掛けマース!』



 伝えたい事だけを一方的に伝えたキャリーは通話を切り、艦橋を出て艦隊の上へと飛んだ。

 キャリーの背中から生えた、フタゴムシのようにも蝶の羽にも見える構造色の翼。

 その翼からは鱗粉が放たれ、それが艦隊の人々の精神を支配していく。



 五十二型原子力空母あすかの艦橋にスタービジョンの面々が集まる。

「貴様らを艦橋に呼んだ覚えはないぞ!」

「私が呼びました」

 麗華れいかが凛とした態度で答える。

「貴様か……」

 白いキャプテン帽を被り、大量の白ひげを蓄えた大柄な壮年男性が苛立ちを覚えながら圧をかける。

「如何にも、私がこの五十二型原子力空母あすかの艦長、キャプテン・ロダンだ」

 自己紹介に対し、麗華れいかは書類に目を通しながら笑顔で会釈した。

「お会いできて大変恐縮です。貴方が半山 路男はんやま みちお艦長ですね」

路男みちおじゃないっ!」

 麗華れいかのさり気ない煽りに対し、大人気なく怒りを露わにする路男みちお艦長。

「ふん、まあ良いわ、ガキどもにはその辺の計器を触らせないよう注意させろ、壊されずとも超能力者サイキック菌などつくだけで鳥肌が立つわい」

 みさおは差別意識の籠もった言葉に怒りを感じ、尋ねた。

「どうして軍のお偉方の貴方ともあろう人がそこまで彼女達を毛嫌いしてるんですか? 超能力者サイキック兵の研究は途上なんでしょう?」

 路男みちお艦長はみさおの額に人差し指を突きつけて言った。

「いいかクソガキ、軍ってのは規律で成り立つ組織だ。ワンオフ機が暴れるってのはそれこそアニメや映画の世界だよ。規格はワンオフ、実戦経験もノウハウも無ければどう扱えばいいのかもわからないだろ」

 それから、歩きながら得意げに語る路男みちお艦長。

「反応兵器並の戦術評価であるSクラスならまだしも、Aクラスであれば養成する金と手間のほうがかかる。それくらいなら武器と一般の兵士を揃えたほうが実用的だ」

 路男みちお艦長の口調は次第に昂ぶっていく。

「それに超能力者サイキックは年齢的にも厳しい部分がある。彼らは生まれが最低でも2015年……つまり最高でも二十歳なわけでな。そんな使えない存在なぞ、まさに人類にとっての害虫と言う他あるまい。彼らが幾らの国家予算を食いつぶしたか知らないわけでもあるまい」

 予算の取り合いから来る反感と嫌悪感。みさおが思わず視線をそらすと、その先には計器を見てはしゃぐスタービジョンの子達がいた。

「なんかこのメーターとか面白いよね」

「このボタンって何が起こるんだろう、押してみよ~っと」

「バカッ、やめなさい!」

 慌てて取り押さえようとする路男みちお艦長。

「……おい、バカども! 何触ってるか!」

 皆は軽快な足取りで逃げ出した。

 みさお麗華れいかも軽く会釈をして彼女達を追いかけていった。


 傍から見たら子供達と遊んでいるようにしか見えない路男みちお艦長に、高身長の男性副長がやってきて耳打ちする。

「なんだと!? ……ガキが世界征服などあまりにもバカバカしい。まあよい、念のため全艦警戒態勢に移行。不審な船舶や飛翔体があれば即座に報告せよ」

 路男みちお艦長は状況を知らせた後、艦橋の艦長席に座り、タバコに火をつけてふんぞり返る。

「世界のアメリカともあろう者が何たる腑抜けっぷりか、ガキに艦隊を乗っ取られるなど……」

「ですな。艦長、艦内は禁煙です」

「わかっておるわい!」

 男性副長の軍服を引っ張り、そこでタバコの火をもみ消し、タバコ型砂糖菓子を咥える。

『はたかぜより入電、十時方向に国籍不明船を発見!』

「……警戒を怠るなよ」

 路男みちお艦長は冷や汗を流し、気を張り詰める。

『詳細判明しました』

『ソ連のマグロ漁船です』

 その言葉に路男みちお艦長は緊張を解き、ため息をつく。

「……大物は取れたかこのピロシキ野郎とでもからかっておけ。ったく、驚かせやがって」


『ながとより入電、本艦隊に向かって高速接近中の飛翔体を捕捉、数5。種類識別、ハープーンです!』

「ぬぁんだとぉ!?」

 その報告に、路男みちお艦長はタバコ型砂糖菓子を落として驚く。

 そして、冷静になって呟く。

「攻撃してきたという事は、真だったようだな」

 男性副長は静かに頷いた。

 路男みちお艦長は立ち上がり、大声で命じる。

「全艦、第一種戦闘配置につけ、全砲門開け、砲雷撃戦用意、これは演習ではない!」

「対空迎撃用意!」

『総員、第一種戦闘配置。砲雷撃戦用意、対空迎撃用意、これは演習ではない! 繰り返す、これは演習ではない!』



 低空飛行する白いミサイル、ハープーンが日本海軍の艦隊を狙う。



 ミサイル駆逐艦はたかぜのMk 13ミサイル発射機からSM-1MR対空ミサイルが発射された。

 炎を拭き上げながら飛んでいくそれは、誘導装置によりハープーンを狙う。

『ミサイル破壊を2つ確認。残り3!』

 なおも3発は高速で接近。

「回避機動をとりつつ、近接対空防御!」

 ミサイル駆逐艦はたかぜに搭載されたMk.42 5インチ単装速射砲が高速で旋回、断続的に砲弾が放たれる。

『ミサイル破壊を1確認! 残り2、本艦に接近!』


 ハープーンの狙いは空母あすか。


 空母あすかに搭載されているファランクスが旋回し、砲身が高速で回転する。

 芝刈り機のような音とともに高速で毎秒75発の砲弾を目標に浴びせた。

 至近距離のハープーンは一瞬で前方が凹み撃墜した。

『残り1、直撃コース!』

「回避~~~!」

 路男みちお艦長は立ち上がり、手をかざして命じる。

 しかし、もう間に合わない。

『避けられません!』


 超高速で迫るハープーン。

 絶体絶命の危機。


 それが突如、空中で爆発した。

 黒煙に包まれる艦橋。

「何だ、何が起こっていやがる!」

 煙が晴れ、視界が戻ると、そこには宙を飛ぶ二人の少女。


 睦月むつきが直撃ギリギリでめいと共に空間跳躍ジャンプ

 そして、めいがハープーンを電磁バリアで防いだのだ。


「どうですか? ウチの特務超能力者サイキックは」

 みさおが艦橋に戻ってきて自慢気に言った。

「ふん、あんな者、居なくても問題なかったわい! その程度でこの海の男キャプテン・ロダンの前で威張るな、子供が!」

 路男みちお艦長はその不遜な態度を崩さない。

 みさおは扉の方にアイコンタクトをとる。

 麗華れいかが素人演技丸出しの仕草で艦橋に入ってくる。

「あっれ~~~~おっかし~~ですね~~~。今のは演習相手のミサイルだったみたいですよ~~~? 一体アメリカ海軍に何があったんでしょうね~。これは超能力者サイキックが関連する事件、つまり私達の出番ではないでしょうか」

 路男みちお艦長は悔しがりながら艦長席に座り込んだ。

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……」



 島風しまかぜ ステラのヒミツ①


 歌が壊滅的にヘタクソらしい。

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