Episode:10-3 Don't be afraid

 夜、みさおはメカビートル4号に関する書類を纏め、司令室に来ていた。

「副長はいますか?」

「ねえねえ、みさお君! これ淹れてみたの、飲んでみて!」

 そういってグラスに入った飲み物を進めてくる女性オペレーターは最上 彩花もがみ あやかだ。

「いっぱいあるゆぉ、これね、テキーラって言うんだ、副長に教えてもらったの」

 みさおはそれらを瓶ごと取り上げる。

「僕未成年ですよ? それに最上もがみさんも未成年じゃないですか? 酔ったふりして絡んでないで仕事に集中してください」

「にぇ……」

 叱られた彩花あやかは苦い顔をしながらデスクへと向かった。


「現場主任はさすがですね、スタービジョンのメンバーからだけでなくオペレーターにも人気なんて、小学生の内からタラシの才能でもあるんでしょうか。将来に期待ですー」

 女性オペレーターの春日 燐かすが りんみさおを皮肉を投げかけた。

りんちゃぁん、オレで良ければいつでも相手するぜぇ」

 伊吹 翔いぶき しょうが軽薄な態度でりんに絡むも、りんは釈然とした態度でそれを拒否した。

「私は副長先輩一筋で・す・の・でっ」

 しょうは諦めて自分の席へと戻る。

「ツレないなぁ~」


 コーヒーを持った岩松いわまつみさおに声をかけた。

「昨日のデートは楽しかったか?」

「……そりゃあな。君達は見ようと思えばいつでも見れるじゃないですか。盗聴器も監視カメラもあるんだし」

 岩松いわまつは肩をすくめる。

「こういうのは当人に直接聞いてこそ意味があるものだ」

「そうなんですかね……どっちも変わらないと思うけど」

 みさおにこうした感情は理解しがたいものだった。



 いつもの司令室の日常の中、所長と副長が忙しない様子で入ってきた。

「所長!」

「副長も!!」

 所長が大声で事態を告げる。

「ソロモンⅢによってAクラス事件の予知が出た。場所は中央区の中富ホテル。スタービジョンに緊急出動ディスパッチ要請だ」

 前方の大型モニターに無数の六角形と非常事態の文字が現れる。

 先程までふざけていたオペレーター達も真面目な表情になり、目の前の脅威へと向き合う。



 札幌の市街地にそびえ立つ超高層ホテル。

 赤い航空障害灯が点滅する。


 普段は閉鎖されている非常用階段で、警備員は不審な光を見かけた。

 彼は懐中電灯を構える。

「そこで何をしている!」

 しかし、そこには誰もいなかった。

「……なんだ、気のせいか」

 そうして、後ろを振り返り、立ち去ろうとした。

 すると、警備員の背後に銀色の閃光が迫った。

 刹那、警備員の首と胴体と腕がばらばらになり、その場に転がり落ちた。



 みさおを含めたスタービジョンの四人は現場前に立つ。

「こんな夜遅くに出撃命令なんて、みさお君も無茶言うよね……ふぁああっ」

 わざとらしく背筋を逸らして艶めかしくあくびをする睦月むつき

「……仕事よ、真面目にしなさい」

 その仕草に苛立ちを覚えためい睦月むつきを睨みながら言った。

「まあまあ、タイチョーもそう固くならず、アレ、やろうよ!」

 そこにステラが割って入った。

「アレ……?」

 "アレ"が何のことか知らないみさおは首を傾げる。

 肩を組む睦月むつきとステラ、そして「やれやれ」と肩をすくめながら二人の所へ向かうめい

「せーのっ」

 ステラが音頭を取ると、それぞれ掛け声を叫び始めた。

「ジューシー!」

「ポーリー!」

「イェーーーーーイ!」

 場違いなそのテンションにみさおは困惑を覚える。

「何かの儀式か?」

「クール系美少女特務超能力者サイキック スタービジョンの新しい験担ぎだよ!」

 ステラがぴょんっと飛び跳ねて答える。

「もっと適切なものがあっただろ……」

 そしてみさおは「これがクール系って……」と呟いた。

「これくらいはっちゃけてたほうがいいの!」

 ステラの破天荒な返しにみさおは何も言う気がなくなり、現場を指差して命じる。

「やれやれ……。それじゃ、任務開始ミッションスタート! 僕と天城あまぎさんは31階から上を、大宮おおみやさんは15階から30階、島風しまかぜさんは14階までを頼む。状況が悪化したらこちらに即連絡を、場合によっては警察に連絡を取って増援を呼ぶ」

「了解!」

 そして、みさおは銀色の虫型ロボットを二機放った。

「うえっ、まーーーーたメタリック・アレ?」

 相変わらずな造形に睦月むつきは難色を示す。

「その呼び方やめろ! メカビートル2号だッ! 二人の様子はこっちで確認できるようにしておく。頼んだ!」

「仕方ないなぁ……おけまる!」

「イエス・サー!」

 睦月むつき空間跳躍ジャンプで姿を消し、ステラは足の筋力を爆発的に強化して正面から突っ込んでいった。


 その二人を見てみさおは突入を決意する。

「よし、行こうよ。天城あまぎさん」

 しかし、めいは躊躇なく突入を試みる普遍人類ノーマルであるみさおを案じて忠告する。

「それよりアンタ、本当に現場に来るつもり? 死ぬわよ」

「……高層階で能力的にも危険なのは天城あまぎさんだ。それに、危険な時は守ってくれるだろ? 僕もいざとなったら守るから」

 めいは思わぬ言葉に顔を伏せて赤らめる。

「……ばか」

「今更だよ。それに、僕は無策で行くほどバカではない」

 そう言ってみさおはポケットからロケット花火のようなものを取り出した。

「うん」

 めいは静かに相槌だけを打った。


「行くわ。掴まってて」

 めいみさおをお姫様抱っこの格好で抱え込み、磁力による跳躍を行った。

 周囲を見渡すと辺り一面の夜景。

 ある程度の高度を稼ぐと、ホテルに向かって切り返し、直進する。

「突っ込む、衝撃に備えて! 3、2、1、コンタクト!」

 めいは肩を向けてみさおを庇う形で窓ガラスを突き破り、ホテル内部へと突入した。

 その後、降り注ぐガラス破片を防ぐために金属製のテーブルを持ち上げて即席の盾として機能させる。

 防刃仕様のスタービジョン制服でめい、そして彼女に守られたみさおに傷一つ無い。

「スタービジョン1号、及び2号も突入成功」

 みさおめいに下ろしてもらい、静かに本部に状況を伝えた。


 周囲を見渡すと、そこは高層階の個室の中だ。

 明かりはなく、割れた窓から入り込む街と月の明かりだけが二人を照らしていた。

 完璧なセキュリティで内側から閉じられている。

「駄目、私の直接ハッキングも封じられている」

 扉に触れていためいは首を横に振る。

「大丈夫、メカビートル3号で開けられるはずだ」

 そこでみさおはてんとう虫型ロボットを取り出した。

「……その必要はないわ。下がってて」

 めいみさおを掴んで下がらせる。

「おい、待て、何をする気だ!?」

 部屋で拾ったビスを指に挟み、エラ状器官が開いて髪が白く発光する。

 周囲の金属類が磁力によって浮遊し、暗い室内が赤色に染まる。

 めいは電力を収束し、磁力線を形成する。

「PK電磁砲!!」

 赤黒い閃光が激しい轟音とともに扉を吹き飛ばした。

「ほら、開いた」

 めいは笑顔で笑う。



 ホテルの40階にあるクリスタルルーム。

 白いジャケットに身を包むスキンヘッドにサングラスの男が、金色のソファに座りながら無線機で通信をしていた。

『ヘッド、FleurS商会が所有する96億0000万円の無記名債券の在り処を吐かせやした!』

「でかした、俺はそちらに向かう」

『しかしLTPトラストの連中も無茶言うぜ。ここの金庫のセキュリティは下手な牢獄よりも強いと言うんだからな』

「問題ねえ、そのための俺達だ。明日にはベガスで豪遊だぞ」

「ええ、そうね。でも、私の力があれば分前を増やす事なんて造作もないわよ?」

 隣には煙管を吸っている赤いドレスに身を包んだキャバ嬢風の女性がいた。

 ドレス、腕時計、臙脂色のバッグ、赤いハイヒール、その全てがブランド物だ。

「おい、おめえは未成年だろ」

 そう言ってスキンヘッドは彼女の煙管を取り上げた。

「……リーダー、お言葉ですがこれは疑似煙草ですよ? フフフ」

 妖艶な笑みを浮かべる彼女に、スキンヘッドは座り込む。

「フン」

「いつの時代もああいう女が一番つええってこったな」

 窓際の席に座っている、黒髪に白いバンダナを巻いたチョッキに身を包んだガンマン風の少年が、弾丸を選びながら言った。

「違いないぜよ……」

 冷蔵庫の前に座り、静かに目を瞑る新選組隊服に見を包んだ少年。

 異様な出で立ちの三人、その全てが超能力者サイキックだ。

 スキンヘッドの男、氷山 舵こやま かじが率いる用心棒集団。

 キャバ嬢風の女性がミリーナ、新選組隊服がサブロウ、ガンマン風の少年がイーストだ。


 かじが立ち上がると、無線機に連絡が入る。

『ヘッド、エデンの特務超能力者サイキックがこの建物に侵入しました』

「やはりな、恐らく三人いるはずだ、接敵階を仔細に報告せよ」

『正面エントランスから金髪の女が、16階の廊下で茶髪の女と接敵、後は31階に勢いよく何かが突入した形跡ありとの事です』

 かじはレトロフォンと呼ばれている携帯の一種スマホを取り出すと、顔写真付きのデータベースを確認する。

発電能力エレキネシス瞬間移動テレポート発火能力パイロキネシスのダブル、筋力強化ストレングスか……」

 能力の詳細データを見た後、すぐに周りに指示を下した。

「イーストは3階。サブロウは35階、武器は硬質樹脂刀にしておけ。ミリーナは17階へ向かえ」

「わかったわ!」

「承知した」

「御意」

 イーストが銃弾を何発か放った後、地面に拳を突き立てて出来た穴で一気に下層階へと下りる。

 サブロウはエレベーターの扉を一瞬で切り刻み、そのまま飛び降りる。

 ミリーナはもう片方のエレベーターを使い、17階へと向かった。



 めいみさおはホテルの廊下に出ると、謎の黒服達からの銃撃に焦る。

 めいの電磁バリアによって銃弾は全て逸らされるが、それでも急な攻撃には驚かざるをえない二人。

 そして、大宮おおみやさんや島風しまかぜさんも同様の敵と交戦している事をメカビートル2号越しに把握していた。

大宮おおみやさん、聞こえるか? 警察に連絡を非常通報を行う。サイレンが聞こえたら何度かでいいから窓から身を乗り出して炎を放ってくれ! 周囲に燃え移らないようにな!!」

『了解!』

 みさおは予知や側から見てわかる事件性がなければ警察がすぐに動かない事、そしてここ最近の出来事で特務超能力者サイキックの信用は地に落ちている事から、最も協力してくれる選択を取った。

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