Episode:01-3 POLLYANNA syndrome
真上から照らされる日差し。
稼働する室外機。
野良猫がゴミを漁る裏路地。
テナント募集中のシャッター。
クレープを口いっぱいに頬張る。
ショーウィンドウの反射で髪を直し、意味もなく歩く。
初めての外の世界。
立体映像で空中に文字が描かれている。
『ようこそ狸小路へ』
その文字に見とれていると、どこからか不気味な音楽が聞こえてくる。
振り向くと、飛び出してきたサメに驚いて尻餅をついた。
「きゃああああぁぁぁぁっ」
そのサメは
有名なサメ映画の19作目の立体広告だ。
「つ、作り物よね……」
女子高生達が太鼓のリズムゲームで盛り上がっている。
「うわっ……」
ゲーセンがどんどん視界の右に行く、否、
足元を見ると、三角形のついたベルトが動いていた。
それは一定方向へと流れ続けている。
「嘘でしょ!?」
「見ろよ、田舎もんだぜ!」
向かい側をオートウォークで移動する若い男達にバカにされ、思わず睨む。
そうしていると行きたい方向から離れてしまった。
――と、都会って怖い……。
ゲーセンでプリクラを取る。
ポーズを決めて、デコって、その出力された出来栄えを眺めて感動している。
しかし、同い年の女の子が友人と集まってゲームをしている姿が目に入ってしまった。
彼女らは学校の事、彼氏の事、友人の事を話している。
「……」
――どうして私はあんな生活を送れなかったんだろう……生まれつき力を持っただけなのに……。
街角にいる犬に挨拶したり、喫茶店の窓際の席の人に手を振ったり、書店で立ち読みしたり。
その雑誌には、海外の
彼女はその記事に写っている、汗と泥に塗れながらも旅客機の乗客を救った同い年の女子を見て、憧れを抱く。
直後、彼女は今の自分自身に重ねて、その本を閉じた。
――もう諦めたから……。
「繋がらない……か……」
――仕方ない。あの子の行きそうなところを探しに行く。きっとそう遠くには行ってないはずだ。
先にエデン本部に戻った副長は通信で
『そんな悠長な事してる場合じゃないの。彼女は一級の国家機密なのよ? 諜報部と市内の監視カメラを使って……』
彼女が言い切る前に
「あの子はモノじゃない。それに、大事なのは結果じゃなくて過程。僕もあの子もまだ未熟だから、階段を一歩ずつ登る事に意味があるんだ」
そして、
何度か
――しつこいっ!
彼のアドレスを迷惑メールリストに入れ、バングルフォンを切った。
早歩きで人混みの中を進む。
――真昼時ってこんなに人がいるの……。
――助けて……。
次第に
概念でしか知らなかった都会の人混みというものはSクラス
そこに聞き覚えのある声がする。
「はぁ……はぁ……やっと見つけた……」
息を切らし、汗を垂らしながらやってきた
「ついてくんなっ!」
「待ってくれ!」
ほとんど逃げ場のなかった
この雑踏の中では電撃は使えない。
「人を呼ぶわよ」
その言葉に
「わーっ、待った待った」
その後、再び逃げようとする
「……ごめんなさい!」
突拍子もない行動に思わず動揺する。
「えっ、ちょ、この場でそれは……恥ずかしいというか」
続けて、顔を染めながらそっぽを向いて言う。
「……いいわよ、本部に連れ帰るとかじゃなければ、一緒に回るくらい。もう二度と本部には帰らないから」
狸小路商店街を抜け、大通公園へ向かって歩いて行く。
地上には市電が走り、真上を赤いラインの入った懸垂式モノレールが通過していく。
「あの……
「別に……」
お互いに人付き合いの経験が少なくコミュニケーションが苦手で、
――何やってるんだろうな……僕。
それでも、
どことなくぎこちない振る舞いの
その様子を見て声をかけた。
「今の服、多分似合うかなって思ったな。案外、白とか清楚系が似合うのかもね」
「へっ!? 私も……」
最後まで言いかけて、気づいた彼女は目を背けた。
「……フンっ」
噴水、緑広がる芝生、目の前には赤い鉄塔がそびえ立っていた。
周囲には焼きとうきび、じゃがバター、ラムネ等屋台が並び、家族連れでピクニックしている人や、ベンチに座ってギターの練習している人が居た。
そこに大量のラムネやホットドッグ、じゃがバター、焼きそば、巨大なアイス、ホットコーラ等々を抱えた
「あのなぁ……こんなに食い切れるのか……? 後アイス溶けてるんだが……」
それも気にせず幸せそうに頬張る
「僕も少し食べたいんだけ」
「駄目」
即答である。
「こんなに食ってばかりだと太るぞ……」
「アンタってデリカシーに欠けてるわよね。IQ170の天才って聞いて呆れるわ」
「な……どんなスーパーコンピュータでも君のわがままとヒステリーには白旗上げるだろ!」
「なんですってぇ!?」
赤い火花が散る。
しかし、
「ま、奢ってくれたからプラマイゼロね」
――一応プラスだったんだ……。
ホットドッグを頬張る時の表情が一際輝いて見えた。
艶やかな黒髪、凛々しく赤い瞳、整った顔つき、それらは芸術のように美しく、
「さ、次はあっちの屋台制覇するわよ!」
――この傍若無人な言動がなければの話だが。
それでも、
今まで孤独だったが故に、真っ当な人付き合いとしては初めてだったのだから。
心地よい風に吹かれ、都会のオアシスで二人は心を癒やす。
噴水の水飛沫、子供たちのはしゃぎ声、鳩の鳴き声、草の揺れる音。
しかしその向こうで、黒い軽バンが不穏な空気を撒き散らしながら走っていった。
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