第11話-2 水着だよ、全員集合
「ディーゼル機関始動。フライホイール接続」
「バラストタンク正常、アクティブソナー確認」
側面には舷窓があり、水平線が見える。
潜望鏡がある事から、ここは潜水艦の中だ。
動力の回転が一定に達すると、
「……よし、では発進準備を本部に通達」
『こちらHQ。発進許可を出します』
地上にあるエデン仮設指揮車両から
「メカビートル4号、発進!」
楕円形の黄色いゲンゴロウ型潜水艦が海上を勢いよく突き進む。
エデン仮設指揮車両の中。
「メカビートル4号、現在35ノット。目標地点まで40km」
オペレーターが地図上のマーカーを確認しながら読み上げる。
所長が重苦しい声で言った。
「やはり我々には休みも無いというわけか」
俯く所長に副長が声をかける。
「そうですね……おちおち羽も伸ばしていられない。しかし、予知が珍しく一時間後、それも石狩湾沖合43kmというのは好都合でしたね。
「好都合なものか、事象確定率は80%超え、それも海底研究都市でのAクラス事件だ。恐らく高位の
『目標地点まで残り10km』
「蓄電池動力に切り替え」
「メカビートル4号、ベント弁を開放、バラスト注水」
『電波による通信が困難になるわ。ここからは現場判断でお願い』
「了解。これより潜航を開始します」
徐々に舷窓から見える景色が海の中へと変わっていく。
ポーン……ポーン……、と静寂の中、ソナーの探信音だけが響く。
「深度450、ソナーに今のところ反応はなし、通常運転で巡航」
「うっひゃ~~~~。真っ暗だね~」
「この深度だと無光層と言って、光を含む電磁波がほとんど届かないんだ。このソナーという音の反響でものを見るわけだな」
「ふ~~~~ん」
敵がいつ襲ってくるかもわからない、息が詰まるような緊張感の中、ステラが聞く。
「ねえねえ、こんな凄い潜水艦、どうやって作ったの?」
「民間の深海探査艇のツギハギにすぎないよ。技術的に特別なことはしていないからね」
それでも
「でも凄いジャン、普通の人はこんなの作れないよ!」
無意識に出た言葉に、
「普通……かぁ……」
「あ、ごめん……」
謝る
「いや、僕のほうが変な所で繊細なだけだから。けど、こうやって褒められるのは悪くないかもね。昔はお前なら出来て当たり前だろってこづかれてたから」
――この気持ち……なんなのよ……わからない、わからない。
光も届かない海底研究都市付近に、薄っすらと人影が浮かび上がる。
「ウフッ☆来たでござるネ☆熱々のメラメラがビンビンきちゃうワ!」
妙に化粧が濃く、男性的な長身に女性的な顔立ち。黒いウェットスーツにフィン。
首元には呼吸アシストを行うマフラーが巻かれ、忍者ともダイバーともとれる奇妙な格好だった。
「上からの命令とは言えSクラス
その手には、氷柱のクナイが徐々に形成されていく。
ソナーが何かを捉えた。
それに対処する前に、何かが近づく音がする。
「高速推進音! 魚雷!?」
「おわああああああああっ」
「何事!?」
「攻撃を受けた。魚雷……違うな、この威力は……恐らく
「敵は
「わかったわ!」
「おけまる!」
「イエス・サー!」
信じがたいことに、それは時速50kmで水中を移動している。
「敵は1。音紋照合……該当艦無し。この不自然な音紋は水流をジェットで推進しているのか。恐らく
「この距離であの威力……恐らくAクラス……しかし、
ここまでの状況でおおよそ
「
「直撃は避けてくれ」
そのお願いに、
「もちろん! 直撃はさせない、余波を当てて気絶を狙うから!」
青白い鬼火を出現させ、それを目の前に収束させる。
そして、そこに手を
「PK火焔直撃破ァーーーー!!」
鬼火は目の前から消え、海中に衝撃と白い泡を齎した。
熱エネルギーを
二つの
しかし、忍者のような姿の男もそれは想定済みだった。
「やはりその手を使ってきたでござるわネ☆」
――点を中心とした攻撃であれば三次元的な軌道で迫るのが得策、相手の懐に入ってしまえば潜水艦を巻き込みかねないあの技を使用できないはず。
――水中戦という地の利、それと彼女たちは殺しまではしないという甘えや手加減。そこに勝機はある!
今まで直進と緩やかな曲線をとっていた彼は、鋭角の旋回を繰り返す泳法へと変えた。
――恐らく相手はPK火焔直撃破を封じるために接近してくる。そうすれば潜水艦も巻き込む危険性があるからだ。
――そうなると白兵戦に持ち込む他無い。しかしこの潜水艦は戦闘用ではない。魚雷はおろか、マニピュレータすらも武器にはなり得ない。
――となると、ここはスタービジョンの内、水中戦闘に適しているの
――
――しかし深度450m、この水圧となると生命維持装置も25分といったところか……この任務の都合上、あまり使いたくない手だ。
――この船内では長距離
「
「うん!」
その答えを聞くと、
「
その問いに、
「ステラっちを置いてくつもり!?」
「まさか、
そこに、
「でも、あの海底研究都市の中がどうなってるかわからないわよ!」
「そこは鬼が出るか蛇が出るかって所。今は一刻も早くこのピンチを切り抜けなければならない」
「
「うん!」
忍者のような姿の男の前に、ステラが一瞬で姿を現した。
スタービジョン制服の機能により、彼女の周囲を薄い空気の膜が覆っている。
男はそれが何を意味するかを理解していた。
「アラ、アタシに水中戦を仕掛けるなんていい度胸でござるネ☆」
「アタシの肺活量は常人の三倍でござるヨ? 勝ァてるかしらネェ!!」
男の足元から、強力な水流ジェットが噴射し、ステラへと勢いよく近づく。
ステラは筋力を爆発的に強化してその接近から逃れる。
「待ちなサ~~~~~イ☆」
『目標、スタービジョン4号に釘付けです』
「了解。では
そう言って、
「……取舵15、黒20。最大船速。ヨーソロー!」
メカビートル4号はスクリューの回転速度を上げ、海底研究都市へと向かう。
ステラはスタービジョン制服に備えられたソナーと、彼女の優れた野性的な直感によって男の位置を正確に捉えていた。
そして、相手の頭上を取り、踵を勢いよく振り下ろす。
――PKかかと落とし!
ステラの攻撃が男に炸裂した。
しかし、男は氷で形成した小手でそれを防いでいた。
「効かないわヨ☆」
氷の忍者刀の形成し、振り払う。
顔の前わずか数センチを掠め、間一髪で負傷を免れた。
――スピードフル……でも、これなら!
腕の筋力を増強、神経を尖らせて、次に振るわれる忍者刀を見極める。
縦に振るわれる兜割り。
両手を構え、白刃取りを試みた。
訓練の時に
――戦いの基本は相手の行動を観察し、隙を見極めてそれを逃さないこと。
ステラは今、それを全神経に研ぎ澄ませて相手の無力化を試みる。
――ボク、頭は悪いけど、こんな相手に、負けていられないから!
振り下ろされる忍者刀。
それを受け止めるステラの両掌。
勝ったのは忍者刀だった。
振り下ろす勢いは殺され、男が狙っていたステラの脳天をかち割ることはかなわなかった。
しかし、ステラの両腕は凍りついていた。
――嘘っ!?
ステラは同様を露わにし、口から泡を吐き出す。
超音波通信がステラの身に起きた異常を
潜水艦にいる
ステラのバイタルデータ……腕部の体温がまるで熱を奪われているかのように下がっているのだ。
「奴は
男は優れた聴覚で潜水艦の動きを捉えた。
「アラ、これはアタシを誘い込むためだったのネ☆でも、ザンネン!」
男が油断していると、ステラの姿が消えていた。
「アラ?」
男の頭上に、鈍い衝撃が響く。
「ゴハバフゥ!?」
氷が手枷のようになり、それを勢いよく振り下ろしたのだ。
その衝撃で氷は割れ、凍傷を負いつつも両腕が自由になった。
そして、間髪入れず左ストレートによる追撃を行う。
――撃滅のォ! PKセカンド・インパクトォ!
それは、水中に殺人的な流れを生み出し、男を遠くへと吹き飛ばした。
しかし、男も諦めてはいなかった。
吹き飛ばされる瞬間、力を頭上の一点に集中させて解き放った。
「忍法、
水中に巨大な氷柱が出現し、それは徐々に下へ下へと降りていく。
それは、海底研究都市へと向かう潜水艦を巻き込んで凍てつかせた。
「クソっ、やられた! 船が全く動かない!」
スクリューも凍りつき、船内に軋む音だけが虚しく鳴った。
鋲で止められている壁や床の狭間から、少しずつ凍結が進行していく。
「まずい! 強行突破する、
――でも、どこに戻ればいいのかわからないよーっ!
ステラは暗い海の中、潜水艦を見失っていた。
「PK
そして、潜水艦の壁に向かって四振り。
すると、勢いよく扉が内側に向かって押し寄せ、海水が流れてきた。
しかし、
「出力、全開! このまま氷も溶かしてやるわよ!」
その圧倒的な熱量は瞬間的に海水を蒸発させ、潜水艦内を蒸し風呂状態にする。
それだけでなく、外部の氷柱を徐々に溶かしていった。
ステラは暗い深海の中、
「タイチョー!?」
脚部の筋力を強化し、一気に光の下へと向かう。
浸水、水圧、蒸し風呂状態により息を切らす
そこに、ステラが戻ってきた。
「ごめん! 遅れちゃった!!」
潜水艦の航行を邪魔する氷が溶けたことで、スクリューが再び回る。
そして、
「今だ!!」
「縮地!」
学園にファンクラブがあるらしい。
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