4章 領地経営?

1話

王都で、ミゼルと一緒に国王と謁見し。

森と平野に時々山、といった自然を小さな窓から眺め。

他の町や村で、その地に住む人々を見て、それから話を聞いて。

そんな2か月少々を掛けて、俺はようやくパンタラントの町へ帰ってきた。


正直な話。

馬車での旅は、退屈以外の何もでもない。

この2か月、日がな一日、ほぼ馬車の中で過ごしている。

馬車から出るのは、町村に着いたときか、休憩や野宿の時だけ。

そりゃあ、気が滅入る。

馬にでも乗れれば、気晴らしできるのだろうが……


俺がやると尻の皮が剥けるか、落馬する未来しか見えん。


そうやって、理性が語りかけてくるから、大人しく馬車に乗っていた。

そんな中、一つだけ、安心したことがある。

こちらの馬車は、魔法が組み込まれているらしく、揺れはそれほどでもない。

よく、中世の物語にある尻が痛い! みたいにならず、ホッとした。



馬車の中は、確かに退屈だった。

オセロや将棋などのボードゲームや、トランプみたいなカードゲーム。

今の俺では、物自体を作ることが難しいし、こちらの世界にも、そう言ったゲームは存在する。

だが、今回は持ってきていない。急いでいたからな。

だからと言って、ボーっとはしていない。


当たり前だ。俺は代官なんだ。

帰りはずっと、町のことを考えていた。

1か月という時間は、情報社会を知っている俺からすると、有り余る時間だ。

それだけの時間を掛けて、今後やるべきことをまとめていた。

ウィンドウの機能、メモ帳にはやるべきこと……TODOリストが作られている。

文字だらけで、どれから片づけるべきか。

今は、それを悩んでいる。


ちなみに行きは、パンタラント伯爵家の存続を考えていた。






そうやって、色々な思いや考え事をしつつ、着いた町は……俺の知っている町と違っていた。


……なんで、マンションが出来上がってんだよ。


パンタラントの町から見て、王都は西の方向にある。

だから、俺たちも西の城壁から、町の中に入るのだが……既におかしなものが見える。

城壁よりも、明らかに高い建物。

素人目に見ても、約一部屋分ぐらい高い、気がする。


その建物を見つつ、城壁から中に入る。

町の北西に作った、居住区に向かって進む。

その間に、どんどん建物の詳細が分かってきた。

白っぽい……いや、クリーム色か。そんな色の外壁。

窓はなく、四角形の建物だと思う。

そして、領民が住んでいた場所に建っている。

『豆腐建築!』と言われて、日本で、よく見た建物だ。


王都でも、ここまで高い建物はなかった。


この世界、平均的に2階建てが多い。

たまに、3階建てがあるかどうか。

王城は文句なくデカかったが……


城壁の外から見た時は、遠かったのもあって、少しの違和感で済んだ。

が、こうして間近で見ると、この世界では明らかに異質。


そうか……

城壁より高いと、敵に狙われるリスクがあるのか。


国造りのシミュレーションゲームでは、先に見張り台が狙われる。

そりゃあ、反撃をしてくる場所を、先に潰すのは普通だ。


それに、内側に火でも回れば、そっちに人員を割かざるを得ない。






そうやって、馬車を降りて、考え事をしていた時だ。

近くから、大きな声が聞こえる。



「ダイガク様! ダイガク様じゃねぇか!」

「あぁ、ただいま! ようやく帰って来れた」

「これは……みんなに知らせねぇと!」



近くを通った領民が、こちらに気付いたらしい。

挨拶をすると、すごいスピードで、どこかに駆けていった。

遠くから「ダイガク様が返ったぞぉ!」という声が聞こえてくる。


ハハ、参ったなぁ


いつの間にか、俺は有名人となったようだ。

そうして、集まった領民に、もみくちゃにされる。

俺が、パンタラント伯爵家の存続を告げると、胴上げが始まった。



「ちょっ! やめ、やめてくれぇぇぇ!」

「ハハハ! そんなに恥ずかしがらなくても、いいじゃないですかぁ!」

「違っ!」



怖いんだって!

胴上げなんか、今まで一回もされたことねぇよ!






しばらく経って、ようやく下ろしてもらった。


二度と胴上げは嫌だ!

……それはともかく。



「あれは何だ?」



俺は、マンションっぽい建物の説明を求めた。

そして、聞き出した内容に唖然としてしまう。



「いやぁ! あれは俺たちの傑作なんすよ!」

「なんて言っても、土魔法使いが出した土壁を、土木や建築スキルで何とか出来ないか試してみたら、うまく行ったんです」

「ダイガク様が、町全体を見直すつもりだろう! って、仲間で話し合って。空いた土地、使う訳にはいかんから、上に伸ばした! どうよ!」



などと供述しており。

いや、意味は分かったよ?


石壁だと、魔力をたくさん使うから、土壁で代用できないか考え。

建築関係の人間集めて、スキルを壁の両方から使ったら、なんか、強度の問題を解消できて。

2階作っても、人が入る場所が足りないから、足りるまで上に伸ばしたと。

おまけに、城壁より大きくすれば、監視範囲広がっていいんじゃね?

みたいになったと……


いや、馬鹿ですか?

普通に空いた土地、使えばいいじゃん。



「いやぁ、それはちょっと」

「それに、新しい発見もあったんだから、いいじゃねぇか!」



こいつら、楽天的では?

まぁでも、話を聞くと、簡単に建築ができる! ようになったらしい。

これはこれで、良かったと思おう。





他にも、色々変わっている。


屋台みたいなものが、出来上がったり。

城壁の修復や、農地の復興が始まっていたり。

モンスターの素材が、山となっていたり。


……お前ら、どんだけモンスター狩ったんだよ!


これも聞いてみたら、Lvが上がるのが楽しくなったらしい。

今では、老人や子供も参加していると。

もちろん、年齢制限は設けているそうだ。


教えてくれたのは、後ろから来た、ファミル嬢だった。



「おかえりなさい。ダイガク様」

「ただいま帰りました。ファミルさん」



その後も、話を聞いていく。

総括、領民がヤバイ!


ケガをものともせず、迷宮に突っ込む、蛮族になっている。

中には、部位欠損になる者もいたそうだ。


そこに登場するのが、ファミル嬢。

実は、『忍耐の魔神』を討伐した時、膨大な経験値を取得していた。

俺自身に使っても意味がないので、この経験値全てを、ファミル嬢へ譲渡している。

その結果、ファミル嬢の魔力が上がり、回復魔法をバンバン使えるようになった。

お陰で、魔神によって傷ついた人々を早期に回復。

回復魔法のレベル……と言うか、熟練度も上がり、今では四肢さえニョキニョキ生やせるらしい。

流石に、部位欠損級を治す魔法は、連発出来ないそうだが……


十分じゃね? この町、絶対におかしい!




ちなみに、経験値の譲渡だが。

もちろん、ES絡みである。

『大罪と美徳の魔神イベント』で、大量の課金アバターを用意する、課金廃神たち。

まさに、ESを金で支える奴らが、口を揃えて言った。



「花火で討伐した後の経験値、他のアバターに振らせろ!」と。



運営は、対応する気がなかったらしい。

だが、どこかの資産家が、開発のために資金を提供。

僅か2か月で完成。

まさしく、ワンダフル!

現実で初めて見た、『札束で殴る』って奴だった。


普通の人は、譲渡できないと言っておこう。

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