最終話

約1年

代官として、それから民衆の一人として、町の復興と発展に尽力してきた。


結果は……まぁ見ての通り

とっくに復興は終わり、パンタラントは周辺の領地と比較にならないほど発展した。

今現在も発展を続けている。


そんな中、王都からレイゼルが到着した。

領主のミゼル伯爵、その息子であるレイゼルは、将来はパンタラントの領主だ。

そのためか到着早々、俺が担っていた仕事を引き受けて下さった。

しかし、レイゼルも変わってしまった町にはビックリしたようだ。



「何と言えば良いか……私の知っている面影が何一つないのだが……」



小さく呟き、しばらく口を開いたまま呆けていた。

内心笑ってしまったのは内緒だ。


という訳で最近、俺は時間を持て余している。

そこで、以前から考えていた領民の教育を始めようと思った次第だ。


で、今まで忘れていたESのとあるシステムを思い出す。

その名を『教育援助システム』と言う。


機能は名前の通り。

勉強や様々な技能などを、他のプレイヤーに教えることが出来る。

その見返りとして、ES内で使用できるポイントが貰える、というシステムだった。




物は試しと言うことで、屋外に立てた大きめのテントで発動。

システムの起動と共に、テントの内装が日本の教室へと変わる。

机やイスも出現しており、あまりの懐かしさに天板を撫でてしまった。


しばらく眺めた後、改めてシステムを確認する。


ゲームだったころは、小中高の教科を選択。

勉強以外では、直接指導するような形で使えていた。



『どうやら、ゲームのころと変わらないようだ』



国語、算数、理科などなど。

選択できる項目は変わらない。


試しに歴史を選択してみる。

すると、目の前にそこそこ分厚い本が出現。

パラパラと流して見れば、日本では見たこともないようなことばかり。



『これは……こちらの世界の歴史か?』



誰がどうやったか分からない。

が、素直にすごいと思った。

現状、この世界でこれだけのものを作ると、人生がいくつあっても足りない。


楽が出来たこの状況に、妙な感慨を持った。

その時ふと、この地……パンタラントのことが気になってしまう。



『パンタラント、パンタラント……あった。教科書の始め?』



索引で調べれば、パンタラントの右横に5ページの文字。



『変だ……国の一都市として考えれば、もっと後になっていいはず』



そう思いつつ、始めから読み始めたら……先ほどの内容だ。

大昔、枯れた大地だったこと。

それから、シャカンやキンクから聞いた人族と他種族の戦争のこと。

そういったことが載っている。

もっと詳しいことを知りたい……だが今は――



『これに登場する村長と言う人物……確実に転移者だよな?』



誰が見たか知らないが、何もない空中をタップする行動。

明らかにESのシステム画面を操作している……と思う。

それからパーカーやジーパン。

この世界には、絶対に在り得ない存在。


額に汗が流れる感覚がした。



『俺だけじゃないのか……俺だけじゃ……』



俺は日が暮れるまでの長い時間、その場で立ち尽くした。





………………

…………

……




俺がこの世界に来て15年。


パンタラントは、様々な問題を乗り越えつつ大きくなった。

今では、王都に次ぐ主要都市として知られている。


領主には、正式に世襲したレイゼル伯爵が……

そして、傍らには俺の姿があった。


最終爵位は男爵。

正式にファミルと結婚もし、子供も二人。



『順風満帆な人生……とは言えなかったが、まぁ……俺なりに満足は出来たか』



結局、転生者のこととか、何もかもが不明なまま。

だけど、転移? 転生? できて良かったと思う。



『後何年生きれるか分からんが、子供たちに誇れる生き方をしたいものだ』



雲一つない青空を見上げてから、俺はゆっくりと眼を閉じた。











Fin

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