4話

さて、冒険者ギルドに行く。

これは決定事項だが……場所が分からん!

ハァ。通行人に聞くしかねぇか。



「あのぉ、すいません」

「ん? 私に何か用かい?」

「冒険者ギルドまでの道を尋ねたいのですが」



目の前を、遠ざかりかけていた女性に声を掛ける。

少しふっくらしている、温和っぽい人だ。



「冒険者ギルドなら、町の中央広場から西へ行くと、看板があるよ!」

「すいません。(異世界に)来たばかりで、中央広場も分からず……」

「そうだったのかい!? それじゃあ、ようこそだ! 中央広場はここを真っすぐ行けば着くよ」



女性にお礼を言って、教えてくれた道を進む。

すると、真ん中に大きい噴水がある広場に出た。


……しまった! 西が分からん。


仕方なく、また付近の人に、西はどっちかを聞いた。

怪訝な顔で教えてくれて、その方向に向かうと、無事に冒険者ギルドの看板を見つける。


まさか目的地へ行くために、2回も見知らぬ人に声を掛けるとは……

インドア似非ヲタクプレイヤーの俺には、ウルトラハードだったぜ!

……嘘だ。会社だと日常茶飯事、ベリーイージー、ベリーイージー。






目の前には、大きな建物が3つ。


1つ目は看板が付いた真ん中の建物。

正面は両開きの、特別大きくも小さくもない、つまりは普通の扉。

人が出入りしてるので、お役所的な感じだろう。


2つ目は右の建物。

こちらは正面の建物より大きい。当然入口の扉、というより門もでかい。

地面にわだちができてるし、中から肉を叩きつけるような音がしている。

おそらく解体場だと思う。ちょっと変なニオイも漂ってくるし。


3つ目は左の……建物?

ぶっちゃけ、板で区切られただけのスペースっぽい。屋根がねぇし。

金属同士がぶつかるような音だったり、ヒュー、といった高速で物が飛ぶような音もする。

多分、訓練場みたいな場所だろう。


いずれの建物も、周りと雰囲気が違うっぽいので、3つ全てで冒険者ギルドだと思う。

……雰囲気ってみんな分かるのかなぁ?

TPOだったり、会議の厳かな感じは分かるんだけど……

強者の風格とか言われても、俺、分からんよ!


そんなことを思いつつ、俺は、冒険者ギルド(仮)の前に立って、固まっていた。

こういう建物って緊張するよな!

面接の時みたいだし……なかなか入る気にならねぇ。

決心できなかった俺だが、注目を集めている気がして、慌てて中に入った。

人の視線怖し。


そして中は、まぁ普通だな。

正面奥に受付。手前はお役所みたいな長椅子が数脚、綺麗に並んでいる。

右に2階への階段があるし、左右の壁一面に掲示板がある。

そして酒場! はない。そりゃあ、会社に酒場あったらビックリだわな。


太陽の位置から昼近いと思うのだが、そのせいか受付がほぼ空いている。

俺は左端の受付へ向かった。

理由? 美人さんがいたからだよ!




……うん。何事もなく普通に登録できた。

32歳童貞の俺に、美人さんと会話するようなコミュ力はない。

普通の対応されて終わった。

名前も聞けなかったし……ハァ。


ちなみに、魔力測定とか、採血が必要とか、戦闘力をみるための模擬戦とかもない。

本当に書類を書くだけの、お役所仕事でした。

もう1つ、冒険者名は『ダイガク』にした。呼ばれ慣れてるからな!



そのまま、掲示板の方へ向かい、町中の依頼を見繕って受ける。

この世界の通貨が、ESと同じゴールドなのか知りたいし、宿に泊まるとしても資金が必要だ。


冒険者ギルドを出て、さらに西へ向かう。

依頼元は町の警備隊。定期的に行っている、城壁の補修を手伝ってほしいそうだ。

今は、西側の城壁がターゲットらしい。



現場到着。

そこそこの人が、レンガを運んで積み上げたり、そのレンガ間をセメントっぽいもので埋めたりしている。

とりあえず、責任者っぽい男に話を聞いて、作業に混ざる。





ここで気を付けるべきは、周りの作業量を把握することだな!

最初でミスるとマジでヤバイだろう。

羞恥的な意味ではなく、自重できなくなるという意味で。


これが新人だったら、間違いを笑い飛ばせるが、俺はチートの似非ベテラン土木員。

下手に仕事ができると、とんでもない作業量を振られたり、他人の仕事を奪ったりしてしまう。

そこから始まるのは嫉妬と排斥だ。

嫌な目で見られて精神的にくるか、直接暴力に訴えて追い出されるか、のどちらか。

……大分偏ってんな俺の思考。普通に感謝されるとか、選択肢あるがよ。……がよ!?



とにかく、レンガを1個ずつ運びながら、周りを観察する。

レンガは、一般男性が両手で抱えるぐらいには、大きくて重い。

つまり、大抵の人は1個運ぶのがやっと、ということだ。

まぁ、目の前を横切った筋肉レンガ。おっと間違えた。

筋骨隆々の大男は4個も運んでいるが。

レンガと似た色、似た筋肉のカットなので、間違えちまった。

よっ! チョモランマ!



そうやって周りに合わせつつ夕方。

冒険者ギルドで報酬を受け取った。汗だらけの男たちに囲まれて。

そう、作業していた奴ら、のほとんどが冒険者だったのだ。

この酸っぱい臭いに囲まれるのは耐えられん。

昼間のアンモニアで十分だ!



報酬を受け取る時、金額的に泊まれる宿を聞いて、さっさとギルドを後にする。

教えられた宿で、なけなしの金を払い、夕食を食べて寝た。

ちなみに、夕食だけ用意してくれるそうだ。

明日の朝はメシなしか……どこかにコンビニありませんか!?

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