2章 緊急事態

1話

冒険者登録から早1年。

拙者は、順風満帆な人生を謳歌しておる。


まず、冒険者ギルドに素材を大量納品!

最速で、最上級のSランク冒険者に認定。

近場のダンジョンを制覇し、最奥にいるダンジョンマスターと交渉!

ダンジョン資源が無制限で取れるようになり、領主、ひいては国王と対談!

国王から頼まれ、王女や聖女とともに魔王討伐の旅へ。

最強ステータスですぐさま魔王城へ到着し、物理でもって、美幼女魔王を篭絡!

国に戻って凱旋して、国中の美女・美少女を嫁にして、ハーレム状態。

内政チートも発揮して……etc


もうっ! 最っ高! 異世界万歳!







……とか、寝るときに妄想した33歳、冴えないおっさん代表代理の小石こいし まなぶです。

今までのは妄想。つまり嘘です。

普通の人生、送ってます……


などと心の中で呟いてみた。 虚しかった。




この世界に来てから1年。

ぶっちゃけ、ダンジョン探索しか、することがない。

日本のように、情報インフラが整ってないから、インターネットやテレビなんかの娯楽が無いし!

他人に素性がばれないよう、ランクに見合った依頼を受けてるから、金もそんなに無いし!

金があっても、使うのは食事ぐらいだし!

何なら、自分で料理を始めたし!

ほんと何なのこれぇ!?


ハァ。

娯楽と言えば、風俗やカジノがあるのに、ガラス製チキンハートのせいで、足が店前で彼方を向いてしまう。

俺の意思やないんや! 勝手に、そう、勝手に動きよるんよ!

アルコール入れば変わるかなぁ? と思ったら、俺のハートはいつまでも変わらない。あなたに一目惚れ!

うぇぇ……結果、ただのヘタレである。


まっ、それはポイッ! して、ダンジョンで、雑魚モンスター相手に無双するのは楽しい。

今までの人生で出来なかった、縦横無尽のアクロバティックなになに。

出っ張った腹も、いつの間にか無くなってたし、気分爽快だ!




今日も宿で、生活魔法のクリーンを使用する。

顎に手をあて、髭なし確認。

もう、鏡を見ながら髭を剃らなくていいのは、俺の密かな幸せだ!

身だしなみは魔法の時代ですよ! 魔法!


それから町を出て、北のダンジョンへ。

することないから、毎日ダンジョン! 明日もダンジョン!

時間にして、昼前から夕方までの数時間。

時間的にはホワイト、就労日数的にはブラック。

だって楽しいんだもん! おっさんの『もん』って誰得よ……


今日も、行きがけに買った、串焼きを頬張りつつ、ダンジョン入口に到着! っと。

この1年で到達した階層は、450ぐらい。

ここのダンジョンは、地下に降りるタイプのようで、階段を下って and 下ってしている。

最初は、1日に複数階層行けたんだが、今は1日1階層がギリってところだ。

下へ行くごとに、1階層が広くなってやがんの。

実際、どのくらいまであるか分からんし……このダンジョン。


カモフラージュのため、超低階層(当社比)のモンスターを狩り、ランクに見合った依頼をこなす。

ギルドで依頼を見る限り、俺以外の最高到達階層は、多分100いってない。

てか、50も怪しい。

命がかかっている世界だ。無理をしないのは当たり前。

毎日潜ってる俺が、異常なだけだ。

だって楽しいだもんもん。(2回目)


まっ、これから楽しいダンジョン探索だ。

このまま行けば、いつか最終階層に到達できるっしょ。




補足だが、俺はダンジョンだけの男ではない。

この1年、俺がただただ、ダンジョンへ潜っているだけに見えるか?

見えないだろう? そうだろう!


困っている人を助けるのは、社会や組織の常識だ。

自己中心的だったり、倫理を放棄した者に、待ち受けるのは……いや、これ以上はやめておこう。

まだ、俺は命が惜しい。

……日本で、他人を助けていなかったのは内緒だ。


簡単に言えば、ダンジョン探索以外の依頼も受けている、ということだ。

ステータスもスキルもカンスト、依頼達成率100%は必然である。

迷子の子猫探しから、領主の経営相談まで、なんでもござれ!

あっ。ご、ごめんなさい。最後のは嘘です。だから、マジで来ないで! やめてぇぇ。


冗談は置いて。

やったとしても、家の修復だったり、農業の手伝いだったり、果てはガキ共の取り締まりぐらいだ。


……そう、小便かけてくれた、あのガキ共の取り締まりだ!

ここら一帯じゃ、有名な悪ガキグループで、町の人々も手を焼いているらしい。

農作物の窃盗から、俺が受けたような嫌がらせまで、やりたい放題。

ふふふっ。お前らが敵に回したのは、ろくでなしの課金おじさんっ、てことを教えてやろう……ついでに慈悲はない。

捕獲はスムーズ & スマートに。同じ意味じゃね?

すぐ終わったんだが……さすがに、このままにできん。

ここら辺は、日本の常識が残ってる。


色々情報を聞き出して、スラムの子供であること。

それに、生活が困窮していることも聞いた。

いたずらはスッキリするからと……この年で、人の不幸を楽しめるとは。

こやつら、できる!


とにかく、このままではまたやるだろう! と思って、少し金を融通することにした。

将来、こいつらが子分になれば、俺は左団扇で暮らせる……はずだ。

……日本で、なんでこれをしなかったのか。やっても見返りがないからだろうか?

いや、分かってる。こいつらに煽てられて、約束を取り決めた俺が悪いのだ。

再会した時は「おい、見ろよ! 小便クセェ、ダサっさんだぜ!」と、ダサいとおっさんを足して、俺を馬鹿にしてきたガキ共。

あぁぁ……。数秒でいいから、時間を巻き戻す魔法がないものか。



そんなこんなしていたら、冒険者のランクが、Cにアップしていた。

A~Fと最高位Sの7段階評価、その真ん中だ。

Dランクまで新人扱いで、Cランクからやっと、冒険者として認められる。

ランクはあくまで基準。そのため、冒険者ランクで、依頼に制限がかかったりはしない。

ただ、あまりにランクが高い依頼を受けようとしたら、達成できる実力があるか試されるらしい。

まぁ、俺は間違って、初日にCランクの素材を納品してしまったから、なんか見逃されているのだが。



以上、今日で異世界2年生になる俺だった。



























そして、あの悪夢の始まりでもある。





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はい。

2章の始まりです。


楽しんでもらえたら嬉しいです。

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