6話

俺が代官になってから、2週間が経過した。

町の復興は、今のところ順調と言えるだろう。


まずは住居。

場所は、一番被害が少なかった、北と西の間にある城壁を基準にした。

そこから、周りを囲むように、木の防壁を構築する。

上から見たら、半円に近いイメージだと思う。


この土地を、計5つの空間に区切った。

治療する空間。それから独身男女 及び 家族が住む3つの空間。

そして行為用の空間……ストレスを溜めるのは良くない。うん!

既に、土砂と瓦礫の撤去は終わっている。


住む用の空間を、さらに細かいスペースへと分けていく。

個人のスペースだったり、家庭のスペースだったりだ。


スペースの確保は、家屋の廃材 若しくは 大量の布を使って実現!

スペース自体はかなり狭いが、こればかりは仕方ない。

資材も人材も足りないのだ。

屋根はないし、難民キャンプより酷いかも……


もちろん、領主や文官もここで生活している。

南の城壁がないので、モンスターが入り放題。

人命を守るためには、町の住人全員が、一か所にいた方が楽だ。

流石に領民と一緒だと、色々問題があるらしいので、遠征用のテントを使っている。


一応、魔法を使って、家を作る話もあった。

が、家を作るには、魔力が足りないらしい。

休憩しながらでも難しいそうだ。






次は食料。

調達場所は、ダンジョン一択。

農地の復興も考えなければならないが、今の人数では、復興しながら維持するのは難しい。

だから、動物を狩るか、木の実などを採取するか、の選択しかない。


それを考えると、ダンジョンは食料の宝庫だ。

モンスターの討伐さえできれば、いくらでも食料が入手できる。

解体などは、領民総出で行えば何とかなるし……今は、必要となる食料が減ったからな。


ちなみに、この世界は討伐したモンスターが消えない。

良くある『討伐したらお金と素材をドロップする』世界ではないのだ。

……ノーファンタジー、がっかりだ。



それに、ダンジョン探索は、俺の考えを実現するためにも最適だった。

あの日宣言した「モンスター狩り」

その目的は、領民のLvアップにある。正確には、ステータスのアップだ。


俺が経験した通り、ステータスの影響は凄まじい。

STR……力のステータスがあれば、重いものをいっぱい運べるし、AGI……素早さのステータスがあれば、常人より速く動ける。

つまり、Lvが高い方が、より作業が進むということだ。


今、領民のほとんどは低Lv。

Lvが低いうちは、Lvアップに必要な経験値が少ない。

これは、どのRPGでも同じ。この世界も同様と聞いている。

だったら、モンスターを狩って、Lvを上げることは理にかなっている。


おまけに、領民全員でモンスターを討伐できれば、ぶっちゃけ、町の守備は考えなくていい。

全員で全員を守る! いいじゃないか!


領民には、騎士 若しくは 兵士1・冒険者1・領民3~4の編成で、複数チームを組んでもらい、ローテーションしながら、毎日ダンジョンへ行ってもらっている。

もちろん、子供と老人を除いてだ。

冒険者からは「協力する」と声を貰っている。この状況で、報酬を要求するのは酷だろうと。

ほんと、頭が上がらない。

状況を乗り切ったら、冒険者への手厚い政策を実施してやる! そう心に決めた。






ちなみに、領民へ任せる前に、ダンジョンへ視察に行っている。

自分の戦闘力を確かめたかったし、領民を危険なところヘ行かせられないからな。



「巨人が山を抉ったせいで、道中がかなり険しくなっています」

「本当……ハァハァ……そうだな」



町の北側には、巨大な谷ができている。

巨人が山を投げ、地面を蹴り抉って、俺たちが立っているところよりも深い、谷が。

体力がない体に鞭打って、道なき道を進む。

護衛の騎士も、若干辛そうだ。


ほぼ1日を掛けて、ダンジョンへ到着。

キャンプをして翌日、中へ突入した。


俺の……冒険者をやっていた経験が、今、光る!


そう思っていた時もあった。

結果は惨敗。

1階の雑魚モンスターに、ボッコボコにされた。

危うく死ぬところだった。

二度とダンジョンには潜らん! 今決めた。


結局、最終到達階層は481かぁ

ハァ……俺無双から、いきなり育成ゲームみたいになったなぁ……


雑魚モンスターを蹴散らす爽快感は、今後二度と、味わえないだろう。

ダンジョンの外で黄昏ながら、一人寂しく、空を見上げてしまった。











戦闘では役に立たない俺は、住居スペースを見て回っている。

領民から色んな話を聞き、俺だけに見えるESの機能を使って、スクショとメモを取っていた。


何事もコミュニケーションは大事だ。

俺からすれば何千人の一人だが、相手からすれば何十人の一人。

相手に、顔も名前も憶えてもらえないのは、ものすごく悲しいことだ。

だから俺は、出来るだけ話をし、顔と名前を覚えようとしている。


それに、ふとした時、上司から名前を呼ばれることは、以外にも心へ響く。

「覚えてくれていたんだ! 期待されているんだ!」と。

未来のためにも、ぜひ、全員を覚えたい。


まぁ、それ以外に出来ることがない、ってのもある。




俺を罵った男たちとも、話をした。

仕事と感情は別。今は、一人でも多くの手が必要だ。

頭を下げてでも、協力を取り付ける。

その意気込みだったんだが



「俺たちが悪かった。許してください!」



逆に頭を下げられた。

あの後、冷えた頭で考えて、反省したそうだ。

周りからハブられたことも、効いたらしい。

全力の土下座だった。



「……いえ、俺が逃げたことは事実です。あなたたちが言ったことは正しい。私こそ申し訳ない」



誠意には誠意を返す。

謝罪合戦になりかけたが、とりあえず話は出来た。

彼らも生きるために必死なんだ。角が立たないよう、立ち回りたいと思う。

とりあえず、彼らの印象を改善するとしよう!

そう思いながら、俺は色んな人の話を聞いて行った。



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3章4話に『ワタルさん』から頂いたコメント。

大変、助かりました。


治療場所と冒険者への依頼が、毎回頭から抜ける orz

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