7話

さらに5日が経った。


領主お抱えの魔獣使いテイマーがいたので、鳥系のモンスターを王都まで飛ばしている。

巨人襲来の翌日に飛ばしたそうなので、もう少ししたら、王都からの役人が到着するだろう。


町は今、遺体の回収を行っている。

普段は共同墓地へ埋葬するのだが、あまりにも多いため、火葬されることになった。

既に腐敗が始まっていて、酷い臭いが漂っている。

それでも、黙々と集めてくれる領民たち。


俺もインベントリを使って、5人ずつ回収する。

転移前、葬式に何度か参加したことがある。

それでも、人が直接死んだところを、見たことはないし、棺桶の死体は綺麗だった。

しかし、目の前にあるのは、ゲームやアニメで知られるような、ゾンビみたいな遺体。

亡くなった者には悪いが、吐きそうになる己を律し、必死に作業を進めた。






翌日

王都からの使者が到着した。



「バートニア王国、国王陛下の勅命で参った使者である! ミゼル・ガナイヤ・パンタラント伯爵は御出おいでなされるか?」

「ここに。使者殿、このような辺境まで、良くぞ御出おいでなされた。心より感謝申し上げる」

「不要。国王陛下の勅命を申し伝える。『至急登城し、状況報告をせよ!』以上である」

「承った!」



簡潔に伝えた使者は、休憩も取らずに帰って行った。


マジかっ! あれがこの世界の使者……

絶対になりたくないっ!


俺はそう思った。






明日の朝から移動することになり、この数日で、準備は終わらせてある。

今は、最後の仕上げだった。



「…………」



町の中央広場

崩れてしまった噴水の前に、大勢の人が集まる。

目の前には、大量に積み重なった遺体。



「皆、良く集まってくれた。明日、私とダイガク殿は王都へ旅立つ。今後、パンタラントがどうなるかは分からない……私も戻れないかもしれない……だから最後に、死者の弔いをさせてもらおう」

「…………」

「パンタラントのために、最後まで良く働いてくれた……その意思を、その勇姿を、後世に残すと、ここに誓おう! ミゼル・ガナイヤ・パンタラントの名に懸けて!」



既に、油や可燃物が置かれている山へ、ゆっくりと火がくべられる。



「創造神様の下で、安らかな眠りが在らんことを!」

「創造神様の下で、安らかな眠りが在らんことを!」



ミゼルと共に唱和する、集まった人々。

俺も倣って唱和した。


約2万人

これが、『忍耐の魔神』が出した犠牲者だ。

俺が領民の顔と名前を把握したところ、残っているのが約1万。

奴隷も含めての人数だ。


つまり、領民の3分の2が死んだ。

戦争では、部隊の3割が死ぬと全滅扱いと、聞いたことがある。

町と戦争では違うのだろうが、パンタラントの町は見捨てることになるかもしれない。


遺体が燃えて、灰になるまでの長い時間。

その光景を目に焼きつける。

昇っていく火の粉を見つめながら、町の建て直しと発展。

それから、領民を守る決意を、再び固めるのだった。






さらに翌日

領民からの声援を受け、町を出発した。


道中は何事もなく進む。

途中で寄った町や村の人たちからは、心配の声が。

領主からは、嫌みを纏った言葉を貰う。


だったら、お前らは対応できるのかよっ!


領主の態度に辟易しながら、1か月かけて王都へ。

パンタラントの町とは、比較にならない大きさ。城壁も高い。

遠目に見える王城は、荘厳な雰囲気を持っていた。


登城は明日

本日は、王都にあるパンタラント伯爵邸へ向かう。


玄関には、貴婦人と思われる女性。

その周りに、執事や侍女が立ち並んでいる。



「おかえりなさい」

「おかえりなさいませ。旦那様」

「ただいま。セバス、すぐに派閥の貴族へ連絡を取ってくれ」

「承知いたしました」



馬車から降りて、ミゼルがすぐに指示を出す。

それだけ、切羽詰まっている状況だ。

パンタラント伯爵家の未来が掛かっている。

続けて、貴婦人を呼ぶミゼル。


「フラム。こちらはダイガク殿だ。パンタラント領を救ってくれた英雄で、代官を任せることにした。ダイガク殿、妻のフラムだ。よろしく頼む」

「フラム・クレイム・パンタラントと申しますわ。ダイガク様の噂は、聞き及んでおりますの。我が、パンタラントの領民を救っていただき、感謝いたしますわ」

「初めまして、ダイガクと申します。ミゼル様より代官を任せられ、パンタラント復興のために、微力を尽くすつもりです……私は、英雄ではありません。領民の半数以上を、守れませんでした」

「謙遜する必要はありませんわ。ダイガク様以外の、何者にも成し遂げられなかった偉業。もっと誇っても、よろしいと思いますの」



謙遜ではない。

本気でそう思っている。

あの時、覚悟を決めて、最初から魔神に突っ込んでいたら……

そう思うと、どうしても自分を許せなくなる。


俺が奥歯を噛みしめていると



「済まないが、時間がない。フラム、後のことは任せる。私は挨拶回りに」

「承知いたしましたわ。あなた」



ミゼルが再び馬車に乗って、屋敷を後にする。

俺は、フラムさんに連れられて、屋敷の中へ案内された。

応接室っぽいところに到着。

腰を下ろしてソファーに座り、テーブルを挟んでフラムさんと向かい合う。



「さて、何から話しましょうか?」

「……パンタラント伯爵家はどうなりますか?」

「……そうね。ダイガク様には、正直に話しましょう」



貴婦人のような表情と話し方はやめて、真顔で話し始めるフラムさん。

聞くところによると、やはり、お家取り潰しは回避できそうにない。

重苦しい空気に支配される。



「……俺はどうなりますでしょうか?」

「今、夫が他の貴族に、話をつけに行っています。そこには、ダイガク様の話もあるはずです……安心してくださいな! 町を救ってくれた、英雄様との契約を反故にはいたしません。パンタラントの名に懸けてね」



……俺のこともそうだが、そうじゃない!

今、ミゼル……いや、パンタラント伯爵家が無くなるのはマズイ!

俺は町を守ると決めた。決めたんだ!

俺が信用できるのは、パンタラント伯爵家のみ。

他の貴族家に縁はないし、そもそも信用できない。


あの時、自分の命を捨ててでも、領民を守ろうとしたミゼルやファミル。

今、俺のことを心配してくれたフラムさん。

パンタラント伯爵家があるから、町を守りたい。

それが俺の意思。俺が自分自身に課した使命!


何とかして、パンタラント伯爵家が存続する道を探す。

今一度、決意を新たにする。


その後、フラムさんと会話をして。

落ち込んだミゼルが帰宅。


どうやら、手を貸してくれる貴族はいなかったようだ。

話から、寄り親も頼ったみたいだが……

クソッ! 登城は明日。

手段を考えないと。


静かな夕食を二人と共にした俺は、柔らかいベッドの中で、明日のことを必死に考えていた。

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