3話

「贄の代償」


思わず呟いてしまった。

あの時、贄システムに捧げた俺の成長性は、こんな形になったらしい。


これは……どちらにしろ、ミゼルに生活をみてもらう必要があったか。


今後、Lvを上げたとしてもステータスは伸びないし、スキルの取得とLv上げも難しいだろう。

今まで通りの冒険者生活を、継続するのは無理だ。

結果として、これで良かったと思う。

それはそれとして。


「ハァ」


俺のLv……ステータス……スキルに称号……

約9年間。何よりも大切に、楽しみにしていたものが消えた。

この事実は、予想以上に効く。

胸に大きな穴が開いたようだ。


これがネット依存ならぬ、ES依存か……


そんな馬鹿なことを考えながら、ベッドに倒れた。






ミゼルから言質を取った俺は、ベッドの上で寝転がったままでいた。

耳は、部屋の外から聞こえる作業音と声を拾う。



「こっちを手伝ってくれ!」

「あいよっ! せーので行くぞ!」

「お母さん。これはどこに持っていくの?」



…………



「お、おい。これって」

「……間違いない。肉屋のフットンだ」

「あいつ……何が不死身だよっ! 死んでんじゃねぇかっ。息子はどうすんだよっ」



…………



「ハァ」



上体を起こす。


俺は、こんな声が聞こえて、自分だけ休めるほど図太くないんだよ。

せめて、壁がある部屋が良かった。

そうすれば、外を気にせず、自堕落に過ごせた……いや、どうせ変わらんか。

日本で1週間の休みを取っても、半分ぐらいからやることなくなって、ダレていたからな。



「ライラさん」

「お呼びでしょうか? ダイガク様」

「……外に出かけたいんだけど、動きやすい服はある?」






ライラさんが持ってきた服に着替えて、外へ出る。

起きた時から気付いていたが、雲一つない青空。

対して、町は茶色である。この1週間で乾いたのか、土! と自己主張しているようだ。

照りつける太陽は、体に熱を与えてくる。


こんな日差しの中、作業するのはキツイな。


それでも、作業をしなければ終わらない。

俺は大通りに向かって歩いた。

人を集めて、道の土砂を撤去していると聞いたので、そちらで作業の手伝いをする予定だ。




大通りに行く間中、周りの人から感謝された。

中には「もっと早く助けろよ!」みたいな声もあったが……

それはほんの少数で、ずっと英雄扱いで心が休まらない。

一度逃げた罪悪感も俺を苦しめる。






大通りに着いて、作業を手伝い始める。

責任者には遠慮されたが、少々強引に納得させた。

一緒に着いて来た、ライラと護衛の騎士2名も、手伝うことになった。



「ダイガク様。何から始められますか?」

「道の土砂撤去からじゃないのか?」

「ただの確認です。承知いたしました」



そう言って、俺にスコップを渡してくる騎士。

スコップは、立ったまま、足で踏みつけて使う、デカイ奴だ。

わざわざ、領主の館から人数分持ち運んでくれた。

それを受け取った瞬間、地面に先端が刺さってしまう。


なっ! このスコップ、重さどのくらいだよ。

この騎士は筋肉鎧か?


失礼なことを考えながら、刺さったスコップを踏みつけて、梃の原理で少し持ち上げる。

そのまま腕に力を入れて、土砂をどかそうとした時だ。


んんんんん゛!?


持ち上がらない!

腰を落として、体全体を使うが、スコップが地面から少し離れる程度。

数回試したが、息切れするだけで動かない。


一旦、作業中止。






邪魔にならないところで、ライラと騎士の作業を眺める。


これは……ステータスの影響か。


『贄の代償』

これは俺が予想していた何倍もヤバイ。

今の俺はおそらく、世界最弱。赤子にも負けるだろう。

そして、これは今後も変わらない。

少しは良くなるかもしれないが、それでも弱者に変わりはない。


本格的にマズイな。


突然、突き付けられた現実に、思考が停止してしまう。

そのまま時間が過ぎた。




そういえば、インベントリはどうなった?


ウィンドウのインベントリ欄を見ると、今まで無数にあった枠が、5つに減っていた。


ここも課金要素がなくなったか……

今、考えることじゃないな。

インベントリだったら、土砂の撤去も楽にできるんじゃ?


そう思って、近くの土砂を収納してみる。

すると、土砂が真四角に切り取られて、元の地面が見えた。


……手伝えそうだな。


それから、ライラと騎士を集めて、色々と検証をした。

何もしていない状態では、等辺の立方体で収納されるようだ。

布や袋みたいなものに包んだ場合は、その状態で一つと認識されるのか、どれだけ大きくても収納できた。

いずれも5つある枠の1つを消費する。


とりあえず、自分の現状から逃避しつつ、土砂の撤去を手伝った。

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