2話

食堂に移動して、すぐ水を貰った。

言葉を理解できない衝撃で忘れていたが、元々は水を飲みたかったのだ。


ゴクッゴクッ


この、喉を通っていく感じ……たまらない。

これで、冷たかったら言うことないんだが……仕方ない。飲めるだけありがたい。


コップ一杯では足りず、水差しから継ぎ足していたら、全て飲んでしまった。

侍女さんが、新しい水差しを持ってきてくれる。

合わせて、別の使用人が料理を運んで、目の前に並べていく。

料理の匂いで、腹が鳴ってしまった。



「遠慮せず、食べてくれ! あまり、豪華な物は用意できなかった。すまないな」

「いえ。外の状況を見ると、食べられるだけありがたいです」



料理の内容は質素だ。

黒パンと簡単な具のスープ……正直に言うと、平民の一般食レベル。


とりあえず、料理を腹に収める。

空腹だったからか、普通に美味かった。






「さて。ダイガク殿が、気を失ってからのことを話そう」



そう言って、ミゼルは話し始めた。



「まず、今日であの戦いから、1週間が経っている」

「……1週間!?」



嘘だろっ!


いきなりの事実に、慌ててしまう。

落ち着くのに、少し時間が必要だった。




俺、人生で1度も気絶したことないんだけど……こんな感じなのか……


まさしく浦島太郎。

1週間経ったことが未だに信じられない。が、話の続きを聞くことにする。



「ダイガク殿は眠り続けていた。おそらく、あの儀式魔法が原因であろう……何度も伝えたが改めて、パンタラントを救ってくれてありがとう」



ミゼルが立って頭を下げると、周りの人たちもお礼と共に頭を下げる。



「……俺は、一度町を捨てて逃げています。感謝を言われるような人間ではありません」

「それでもだ! ダイガク殿が戦ってくれたお陰で、領民の一部は生き残れた。逃げたのが事実だとしても、君は戻って戦ってくれた。これだけで充分、君は感謝されるべきなんだ」



ここまで言われると、そう思えてくるから不思議だ。

ミゼルは、人の心を動かす力があるのだろう。

それから、あの時のことを語ってくれた。

白い俺が現れて、巨人を消滅させたと。

もちろん最後は、汚い花火が上がっていた。


へぇ~。贄システムって、現実だとそんな感じになるのか。



「町を救ってくれたダイガク殿には、色々と褒美などを取らせたい……のだが、すまない。今の状況で渡せるものは無いのだ」

「いえ。お気持ちだけで十分です。それに、私の面倒をみていただける、とのことでしたので、それさえ守っていただければ、他は望みません」

「もちろん。パンタラント家として、ダイガク殿の今後は支援させていただこう。何か要望があれば、そちらにいるライラへ声を掛けてくれ」



ミゼルは、俺の後ろへ目を向ける。

俺も視線を後ろの女性……ライラへ向けるとお辞儀を返してきた。

ちなみに、俺が起きた時に部屋へ来た、使用人の女性だ。

念願の侍女ゲット! ちょっとドキドキ・ワクワクする。






ミゼルも忙しいのだろう。

その後、簡単な挨拶をして、連れと共に部屋を出ていった。

残ったのは、ミゼルの娘に俺とライラの三人。



「ダイガク様。私からも感謝を。パンタラントを救っていただき、ありがとうございました」

「い、いえ。先ほども聞きましたので……その……」



いかん! 女性と会話するなんて、童貞には厳しい。

……それに、名前を憶えていないのだ!

……聞くか。



「そ、そのぉ……な、なんと言いますか……」

「? どうされました? ダイガク様」

「……お名前を……もう一度お聞きしても? 私、名前を覚えるのが苦手でして」



そこまで言うと、ミゼルの娘は俯いてしまった。

マズイ! 何かフォローを!

俺が慌てていると、笑い声が聞こえてきた。娘の方からだ。



「も、申し訳ございません! ダイガク様が、その、あまりにも慌てていらっしゃって……プフッ!」

「……何か面白いとこ、ありました?」

「お気になさらないでください……改めまして、私の名はファミル・クレイム・パンタラントと申します。気軽にファミルと呼んでいただければと」

「ファミルさん……俺のことはダイガクと呼んでください」

「えぇ、既に、ダイガク様と呼ばせていただいております」

「あぁ……そうでしたね」



「フフ、そうなんですよ!」と楽しそうに返してくれるファミル嬢。

それから、少しだけ話をして別れた。

ファミル嬢も、ミゼルを手伝っているそうで、あまり時間がないらしい。






俺は、先ほどの部屋へ戻った。

確かめることが色々ある。

まずは、ステータスだ。



======================================

名前:小石 学

職業:英雄

年齢:19歳

レベル:1

ステータス

  HP :100

  MP :100

  STR:1

  VIT:1

  INT:1

  MID:1

  AGI:1

  DEX:1

  LUC:1

スキル

  不屈:Lv1

称号

  異世界からの来訪者、パンタラントの英雄、忍耐の魔神討伐者

  ES最後の花火師、贄の代償

======================================



見事にデータが初期化されている……と言いたいが、違う。

ESの初期値は、HPとMPが100。それ以外のステータスは全て10だった。

今、俺の目に映っているのは1。1桁違う。

そして、ふと気になった。


年齢……19歳!?



「ライラさん!」

「はい。如何なさいましたか?」

「鏡はありますか?」



尋ねた後しばらくして、全身鏡を持ってきてくれた。

鏡の前に立って、自分を見てみる。

映ったのは若い自分の姿。


……マジか。

転移じゃなく転生の線もあるのか?

そりゃあ、腹の肉も無くなるし、体の動きも良くなるわな。


異世界に来て、1年半。初めて気づいた真実だった。




年齢のことは一旦置き。

称号の方を確認する。

『贄の代償』以外は、記念称号みたいなものだった。

持っていると好感度が上がる……的なこともないらしい。


まぁ、称号一つで好感度上がったら、ビックリだわな。


問題は『贄の代償』



======================================

称号:贄の代償


人の身で、神域の力を使った者への代償。

始まりに戻る以上の、力を望んだ愚者への罰。


HPとMPを除いた、全ステータスの初期値を90%減。

Lvアップ時のステータス上昇率を99%減。

スキル熟練度上昇率を99%減。

======================================



……これか。



ステータス値がおかしい原因が分かったのだった。

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